5月20日、第102回全国高校野球選手権およびその代表校を決める地方大会の中止が決定された。さらに25日には福岡県高野連が地方大会の代替となる独自の大会を行わないことも発表されている。他にも代替大会に開催に消極的な地区もあると言われており、最終学年で試合ができないまま引退となる高校野球部員は確実に出てくることになりそうだ。

 高校卒業後も野球で身を立てようとしている選手にとっては、アピールの場が失われることになり死活問題ともなっているが、そんな選手たちを救済しようという動きもみられる。巨人の原辰徳監督が今回の事態を受けて、選手が実力を披露する場としてのトライアウトをプロ野球として考えていきたいと発言したのだ。プロ野球では選手会の要望から、毎年戦力外になった選手と元NPB球団に所属していた選手を対象とした「12球団合同トライアウト」を毎年行っている。そのような実績もあることが、原監督の発言に繋がったと言えるだろう。

 しかし、アマチュア選手のアピールの場という意味では、12球団合同トライアウトと同じ形式をとれば良いというわけではない。プロの場合は1人の投手が打者3人と対戦する形式で行われ、時間短縮のためにカウントも1ボール1ストライクからスタートする。参加する人数によって多少変わるが、打者は4打席程度というのが例年のスタイルだ。各球団にはアマチュア担当のスカウト以外にも、他球団の選手などをチェックする「プロスカウト」という役割も存在しており、合同トライアウトに参加する選手の力量についてはほとんどチェック済のため、このやり方でも成立していると言える。

 また、最近では戦力外となった選手の最後の晴れ舞台という意味合いも強くなっており、実際にトライアウトから再契約となる選手はほんの一握りである。しかし、アマチュア選手を対象にトライアウトを行うとなると、戦力外となった選手のようにプロ側も力量が把握できているわけではない。わずか数人との実戦形式だけでは、アピールの場としては不十分と言えるだろう。

 では、どんなやり方が選手、球団双方にとって有益なのだろうか。まずは実戦だけではなく練習の時間も設けるべきだろう。投手であれば、ブルペンでのピッチング、野手であれば打撃、守備、走塁を披露する場は最低でも確保したいところだ。特に野手の場合は実戦だけでは守備や走塁でアピールする機会はなかなかない。そういう意味でも実戦以外のプレーをアピールする場は必要だ。

 また、各球団がアマチュア選手を対象に独自に行っている入団テストというものもある。この入団テストの場合は一次テストとして基本的な能力を見るために50メートル走や遠投を行っていることが多い。これはいわゆる記念受験的な選手をふるい落とす意味合いが強いが、今回検討しているトライアウトでこれを導入するのは少し危険をはらんでいる。単純に走る、投げるという運動能力は突出していなくても、野球の技術が秀でている選手が外れてしまう可能性があるのだ。このような運動能力のテストを行うのであれば、ある程度基準を緩やかにして、プロのスカウトが認めた選手は免除するなどの措置が必要だろう。

 具体的なトライアウトの方法として参考になりそうなのが、アメリカで行われている「ショーケース」と呼ばれるものだ。日本のようにプロとアマチュアの組織が分かれていないアメリカではMLBが有望な学生選手を集め、視察のための大会などを行っている。そこでは、例えば内野手であればランニングスローや、各塁へのベースランニングなどプロのスカウト側が要求するプレーを選手たちが行っているという。日程的にはアメリカで行われているような数日間にわたる長期的なものは難しいかもしれないが、プロ側が見たいと思うプレーを事前に洗い出しておいて、プログラムを組むなどは可能だろう。その方が選手の能力を見極める際にも有効であることは間違いない。

 今回の原監督の提案に対して、同じく高校生をスカウティングしている大学の野球部や社会人チームからも賛同の声が聞こえてきている。プロ野球と高野連などのアマチュア野球は組織が別であり、実現に向けてのハードルは低くないが、このような動きが出てきたことは一歩前進だろう。今回の騒動をきっかけに、次のステージを考えている選手たちが効率的にアピールできる場が日常的に設けられることを期待したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年5月30日 掲載