10月26日に行われたプロ野球ドラフト会議。1位指名の12人中8人を大学生が占める結果となったが、中でも目玉となったのが早川隆久(早稲田大)と佐藤輝明(近畿大)の二人だ。ともに4球団競合の結果、早川は楽天が、佐藤は阪神がそれぞれ交渉権を獲得した。早川には先発ローテーション、佐藤には中軸としての期待がかかるが、すんなり活躍できるほどプロの世界は甘いものではない。これまでも目玉と言われて入団しながら、結果を残せなかった選手も数多く存在している。そこで今回は早川、佐藤の不安材料を洗い出しながら、成功へのカギについて考えてみたい。

 早川でまず気になるのが大学4年間での通算成績だ。木更津総合時代から高校日本代表にも選ばれている有名選手で、早稲田大進学後も1年春から登板を重ねているが、リーグ戦通算成績はそれほど突出したものを残していない。過去5年間に東京六大学からドラフト1位でプロ入りした選手6人と比較してみると以下のような結果となった(早川は10月25日終了時点)。

上原健太(明治大→2015年日本ハム1位) 外れ外れ1位
57試合 14勝9敗 防御率2.14 奪三振率8.18 四死球率2.99

柳裕也(明治大→2016年中日1位) 2球団競合
55試合 23勝8敗 防御率1.84 奪三振率10.55 四死球率2.68

加藤拓也(慶応大→2016年広島1位) 外れ外れ1位 
66試合 26勝12敗 防御率1.88 奪三振率8.32 四死球率4.12

斉藤大将(明治大→2017年西武1位) 外れ1位
52試合 11勝4敗 防御率2.24 奪三振率8.59 四死球率3.35

森下暢仁(明治大→2019年広島1位) 単独指名
42試合 15勝12敗 防御率2.42 奪三振率8.68 四死球率2.62

早川隆久(早稲田大→2020年楽天1位) 4球団競合
51試合 12勝12敗 防御率2.59 奪三振率11.19 四死球率2.25

 最終節の早慶戦で勝てば、ようやく通算で勝ち越しという成績となっており、過去に1位指名された選手と比べても、奪三振率と四死球率は高いとはいえ、トータルでは劣っている。それにも関わらず、ここまで高い評価となったのは最終シーズンでのピッチングが圧倒的だったからだ。4年秋のシーズンを比較してみると以下のようになる。

上原健太(明治大→2015年日本ハム1位) 外れ外れ1位
7試合 2勝1敗 防御率3.15 奪三振率7.34 四死球率3.41

柳裕也(明治大→2016年中日1位) 2球団競合
7試合 5勝0敗 防御率1.64 奪三振率11.68 四死球率2.74

加藤拓也(慶応大→2016年広島1位) 外れ外れ1位
9試合 6勝2敗 防御率1.71 奪三振率10.57 四死球率4.57

斉藤大将(明治大→2017年西武1位) 外れ1位
8試合 3勝0敗 防御率1.95 奪三振率7.99 四死球率2.66

森下暢仁(明治大→2019年広島1位) 単独指名
7試合 2勝3敗 防御率1.00 奪三振率8.83 四死球率2.00

早川隆久(早稲田大→2020年楽天1位) 4球団競合
5試合 4勝0敗 防御率0.25 奪三振率14.64 四死球率1.77

※加藤拓也はプロ入り後、2019年に「矢崎拓也」に登録名を変更

 今年はコロナ禍の影響で試合数が少し減っているということはあるが、それでも早川の成績は圧倒的だということはよく分かるだろう。ただ、裏を返せば、ドラフト直前の成績だけが突出しているという見方もできる。プロに入る時点での実力が最も重要であることは当然ではあるものの、長期間このパフォーマンスを維持できるかという点については、やはり不安材料と言えるだろう。

 もうひとつ気になるのは、楽天という球団でドラフト1位の投手がもうひとつ育っていないという点だ。過去には田中将大(ヤンキース)という大エースがおり、松井裕樹も抑えで大成功しているが、いずれも高校卒の投手である。大学生では、分離ドラフトも含めると一場靖弘、松崎伸吾、永井怜、長谷部康平、戸村健次、塩見貴洋、近藤弘樹と7人が1位指名で入団しているが、永井と塩見がローテーション投手になっただけで、大成功している選手は見当たらない。投手育成という点でも決して上手い球団とは言えないのが現状だ。

 チームとしてはもちろん即戦力としての期待がかかるが、前述したように圧倒的な投球を見せた期間は短く、今年の春先には左肘の不調を訴えている。体つきも大きくはなっているが、プロに入ればまだまだ細身の部類だ。1年目は過剰な期待をかけず、十分に休養を与えながら起用することが重要になるだろう。

 そして、早川以上に不安材料が多いのが佐藤だ。4年春のシーズンが中止になったにもかかわらず、リーグ新記録となる通算14本塁打を放っているようにそのパワーは規格外のものがあるが、昨年秋は打率.188と極度の不振に陥っているように打撃にはまだまだ波がある。

 この秋も打率は.257と上向いてはいるものの、10試合で15三振を喫しているように確実性には乏しいのが現状だ。9月に巨人が佐藤を1位候補として挙げているという報道の中で“即戦力の外野手”という形で取り上げられたが、どちらかというと“未完の大器”と評した方が佐藤の特徴を表していると言えるだろう。

 何より不安なのが、阪神という特殊な球団で“即戦力”として高い注目度を集めてしまうことである。4球団以上の1位競合で阪神に入団するのは藤浪晋太郎以来であり、自主トレからフィーバーとなることは間違いない。1月、2月は地元のスポーツ紙が連日佐藤に大きなスペースを割き、フリー打撃ではその柵越えの本数や飛距離が大きく報じられることになるだろう。しかし、いざ実戦が始まると、先述したようにプロのボールに苦しむ可能性は極めて高く、ノーヒットや三振が続くようだと、そのことも大きく報じられる。

 もはや、これは阪神という球団に入団した宿命として受け止めるしかないことだが、首脳陣もファンも結果を早急に求めないことが何よりも重要になるだろう。大学4年生時点での打撃の確実性は、東京六大学で安打記録を樹立した高山俊はもちろん、「育成型の1位」と言われた大山悠輔と比べても劣っているように見える。しかし、二人にはない圧倒的な飛距離と、その大型な体に似つかわしくない運動能力は何よりも魅力である。目先の評価に左右されることなく、まずは長所を生かしながら徐々に対応力を上げていくことが重要だろう。柳田悠岐(ソフトバンク)も規定打席に到達したのは4年目であり、佐藤もそれくらいの中期的な視点でレギュラー獲得を目指してもらいたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月31日 掲載