今や「吉野家」のメニュー数は松屋、すき家と互角 3社を比較して判明した“意外な数字”

今や「吉野家」のメニュー数は松屋、すき家と互角 3社を比較して判明した“意外な数字”

牛丼屋なのに“脱牛丼”!?

 87、95、93という3つの数字がある。「これは吉野家、松屋、すき家で注文できる料理とドリンクの品数だ」と言えば、びっくりする方もおられるだろう。ちなみに季節限定商品は割愛している。近年、“牛丼屋のファミレス化”は進む一方なのだ。

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 先日、久しぶりに吉野家へ行ったという50代の男性会社員が「店内でメニューを見て驚きました」と振り返る。

「吉野家ですから、メニューといっても牛丼か牛皿の2択。それに卵をつけるかつけないかぐらいという古いイメージが残っていたんですね。松屋は昔からサービスで味噌汁が出され、定食やカレーに力を入れていました。しかし吉野家は、ストイックなラインナップだったはずです。ところがメニューを見ると、吉野家でも定食やカレーを出していて、牛丼以外にもこんなにたくさんあるのかと驚きました」

 会社員が懐かしむ「昔の牛丼屋」のメニューも、個人店なら未だに存続している。秋葉原に店を構える牛丼専門サンボは「ヘッドフォン着用禁止」など複数の店内ルールがあることから「一見客の入りにくい牛丼店」としても有名だ。

 このサンボだが、入口近くの壁にメニューを看板で掲示している。ネット上にアップされている写真を見ると――並や大盛というサイズを抜きにして――「牛丼」(480円)、「お皿(ご飯付)」(530円)、「牛皿(ご飯付)」(730円)、「みそ汁」(60円)、「玉子」(60円)と5品しかない。

 ちなみに「牛皿」と「お皿」の違いが気になった方もおられるだろう。附記しておけば、前者は基本的に牛肉だけであり、後者は豆腐やしらたきも入っている。いずれにしても40代以上の方なら、「これこそが牛丼屋のメニューだよなあ」と懐かしい気持ちになるかもしれない。

 一方の大手3社は、あの吉野家でさえ80品を超えているわけだ。常連客でも「そんなに品数豊富だっけ?」と首を傾げるかもしれない。では3社の公式サイトに掲載されているメニューから、「他社が販売していない独自商品」をピックアップしてみよう。

 まず吉野家のサイトで「牛丼」のカテゴリーをクリックすると、4商品が表示される。そのうち「牛丼」(352円)と「ねぎ玉牛丼」(454円)の2つはオーソドックスな印象だが、残り2つは「ライザップ牛サラダ」(500円)と「サラシア牛丼」(445円)という“新顔”だ。(編集部註:今後、特別の断り書きがなければ、価格は税抜で、丼の場合は並盛)

 丼のメニューで「牛サラダ」というのも矛盾しているが、つまりは健康志向の時代なのだ。炭水化物は敵なのだろう。「サラシア牛丼」も、公式サイトは「血糖値の上昇をおだやかにするサラシノールを配合。血糖値が気になる方はぜひ!」とPRしている。

 吉野家のメニューを吟味すると、鰻重に相当な力を入れていることが分かる。すき家の鰻メニューも印象が強いが、こちらは期間限定。対する吉野家は通年で販売している。それだけ看板商品にしたいのだろう。

 公式サイトを見ると、「鰻重」(788円:一枚盛)を筆頭に4商品が表示される。最高価格は「鰻重みそ汁牛小鉢セット」の1000円。牛丼チェーン店としては、相当な高価格商品と言えるはずだ。

 松屋の独自商品は「ハンバーグ」。意外に感じる人もおられるだろう。吉野家はともかく、すき家もハンバーグを販売していても不思議はない気がするからだ。しかし実際は、松屋の独壇場となっている。

 松屋の公式サイトから、ハンバーグを使った主な商品をご紹介しよう。「ハンバーグカレー」(590円)、「ブラウンソースハンバーグ定食」(590円)、「うまトマハンバーグ定食」(630円)――という顔ぶれになる。

 更に関西圏や愛知県、石川県、福岡県など、東京以西の12府県での限定商品として、うどんも4種類が販売されている。松屋の公式サイトで筆頭に紹介されているのは「ぶっかけ肉おろしうどん」(430円)だ。

 そして最後に登場となった、すき家の傾向を一言でまとめれば、「丼に対するこだわり」だろうか。具体的には「鉄火丼」(680円)と「まぐろたたき丼」(580円)が目を惹くほか、牛丼のトッピングメニューに力を入れていることが分かる。

 こちらも主なものを引用すると、「高菜明太マヨ牛丼」(480円)、「わさび山かけ牛丼」(同)、「かつぶしオクラ牛丼」(同)という顔ぶれになる。

 また、先に松屋は一部店舗でうどんを販売しているとご紹介したが、すき家は全店で「ロカボ牛麺(冷・温)」(490円)をメニューに加えている。低糖質の「こんにゃく麺」を使っているのがセールスポイントだ。

 駆け足で3社の独自メニューをチェックしてみた。外食産業を担当する記者に「牛丼屋のファミレス化が進む理由」を解説してもらおう。

「背景にあるのが、少子高齢化と人件費や原材料費の上昇です。今も主力商品は牛丼です。ところが『早くて安い牛丼』では、高齢化による顧客減少やコスト上昇に対応できないのです。生き残るためには客単価を上げるしかない。単なる値上げなら顧客は離れる。牛丼に変わる“高付加価値で高価格”の商品を定番化させたいと、各社がしのぎを削っており、そのためにメニューの数が膨れあがっているのです」

 それでは大手3社は、どれくらい牛丼に力を入れ、どれくらい牛丼以外の商品を拡充しているのか、具体的に見てみたい。それには3社の「牛丼」や「カレー」、「定食」といったカテゴリーの占める割合を計算すればいいだろう。

 例えば、ある店が100品をメニューに載せているとして、そのうちの99品が餃子なら、その店は餃子に力を入れていることが分かるわけだ。しかし今回のように牛丼チェーン店が対象の場合、品数で計算すると誤解が生じる恐れがある。

 具体的に計算してみよう。吉野家の総メニュー87品のうち、カテゴリー「サイドメニュー」は24品に達し、全体の27・5%を占める。だが、その平均価格は132・6円だ。とても吉野家の経営を支える価格帯ではない。

「牛丼が売れると困る」現状

 これを防ぐためには価格ベースで計算すればいい。3社のメニュー合計価格に対し、各カテゴリーの合計価格で割合を算出してみた。それを表にまとめたので、ご覧いただきたい。

 表からは「吉野家は牛丼だけ、カレーがあるのは松屋だけ」というような、極端な品数の違いは過去のものになったことがはっきりと分かる。

 そして各社とも「牛丼以外のヒット商品」を模索していることも伝わってくるが、最もドラスティックなのは吉野家だろう。何しろ全メニューに占める牛丼の合計価格は5・3%にしか過ぎないのだ。

 繰り返すが、今も売れているのは牛丼。あくまでも、このパーセンテージから分かるのは、「吉野家が牛丼に重きを置かなくなっている」ということだ。

 それでは、どの商品に力を入れているのかが分かるのが、その下の欄に記したベスト3だ。ここに牛丼が登場しないのは吉野家だけとなっている。客単価の高いカレーや鰻重のほうが、吉野家にとっては大切な商品だということになる。

 一方、昔と同じように「牛丼、カレー、定食」の3本柱を守っているのが松屋だ。そして丼を重視するすき家という構図になるようだ。

 では3社のメニューで、実際に高価格で販売されている商品を見てみよう。純粋に価格順で並べると、例えば松屋だと延々と定食が続いてしまう。そのため、各カテゴリーで価格の最も高い商品を選出し、そこからベスト3を作ってみた。

 トップは、吉野家が鰻重、松屋が定食、すき家がカレー、という顔ぶれになった。そして表に記した15品のうち、牛丼はすき家の「牛丼とん汁おしんこセット」(550円)しかない。消費者は依然として牛丼を愛しているが、大手3社にとっては「看板メニューから外してもいい」というのが本音なのかもしれない。

 フードサービス・ジャーナリストの千葉哲幸氏は、「商業界オンライン」で8月19日から、安部修仁・吉野家ホールディングス会長(69)のセミナーでの発言を紹介する連載を開始している。その千葉氏に「吉野家の脱牛丼」について訊いた。

「安部会長は、BSE(牛海綿状脳症)感染牛問題で2003年12月から吉野家で牛丼を売ることができなくなったときに『牛丼は創業者の思いが作り出した姿だから、そのエッセンスを使って別の商品を表現すればできないことはない』と考えていたそうです。後継者となった河村泰貴・吉野家ホールディングス社長(50)が社長に任命されたとき、安部会長に『私は牛丼を止めるかもしれない』という発言をしたそうです。たとえ会社を発展させてきた看板メニューであっても、時代の流れに合わなければ切り捨てる決断力が必要であり、看板メニューに安住せず、貪欲に未来の人気商品を作り上げていくというメッセージでしょう。外食産業の現状が厳しいのは事実ですが、だからこそ拳拳服膺すべき経営方針ではないでしょうか」

 流通ニュース(電子版)は8月23日、「牛丼3社/7月既存店売上すき家のみ減、吉野家、松屋プラス」の記事を配信した。

 見出しの通り、吉野家と松屋は既存店でも売上が前年同月比で2・6%と7・2%の増となったが、すき家だけが1・4%減の“一人負け”となったという記事だ。

 データからは、“脱牛丼”を推し進める吉野家と“定食とカレー”へのシフトを鮮明にする松屋が勝ち、“牛丼”にこだわるすき家が負けたように見える。

週刊新潮WEB取材班

2019年9月5日 掲載


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