中国で麻薬密輸の“76歳日本人”に無期懲役 背後に「ナイジェリアの手紙」という闇

中国で麻薬密輸の“76歳日本人”に無期懲役 背後に「ナイジェリアの手紙」という闇

 11月8日、中国広東省で麻薬運搬罪に問われた愛知県稲沢市の元市議、桜木琢磨被告(76)の判決公判が開かれ、無期懲役(求刑は懲役15年から死刑)の判決が言い渡された。罪状は、起訴時の麻薬運搬罪ではなく麻薬密輸罪。判決を聞いた桜木被告は首を横に振り、上訴する意思を示したという。14年8月の結審から5年、判決延期は20回にも及んだ。

 ***

 桜木被告が逮捕されたのは2013年10月31日。中国・広東省広州市の白雲空港から上海経由で帰国する際、手荷物検査で機内に持ち込もうとしたスーツケースから約3・3キロの覚醒剤が見つかり、中国公安局に身柄を拘束されたのだ。

 大手新聞社の中国特派員が解説する。

「覚醒剤は、スーツケースの二重底部分から5包み計998グラム、スーツケースに入っていた23足の女性用サンダルの厚底部分から23包み計2291グラム見つかっています。ただ、桜木被告は、スーツケースはナイジェリア人から預かったもので、覚醒剤が入っているとは知らなかったと証言しています。一方、検察は覚醒剤が計3キロ超というかなりの量なので、重量に気づかないのは不自然だと主張しています。覚醒剤の密輸では、50グラム以上で懲役15年か無期、死刑が求刑されます。1キロ以上だと、死刑になる可能性もありました」

「ナイジェリアの手紙」

「桜木被告は、1990年代前半に、『ナイジェリアから日本に投資したい』という内容の英文メールで誘われて詐欺にあったのです。手数料として十数万ドルを数回振り込んだところ、回収できなかった。結局、70万ドル(7200万円)の損害を被ったそうです」(同)

 桜木被告が被害にあったのは、ナイジェリアを舞台に多発している国際的詐欺で、「ナイジェリアの手紙」と呼ばれている。先進国に住む人に、「政府の腐敗を利用して不正に横領した資金が数十億あるが、その金を資金洗浄したい。口座を貸して欲しい。また、送金のため手数料がかかるので出して欲しい。資金が自由になったら、何パーセントかの御礼をする」という内容の丁寧な英文メールを送りつけるという。しかし、実際に口座へ大金は振り込まれず、送金手数料も払われない。資金洗浄の話に飛びついたという後ろめたさから、被害届を出すことが少ないそうだ。

 桜木被告が広州へと出向いたのは、「ハッサン」と名乗る自称ナイジェリア人から連絡があったからだという。

「桜木被告の弁護士によると、ハッサンから、『騙された70万ドルを取り戻してあげましょう』と言われたそうです。ハッサンは、損害額をナイジェリアの裁判所が認定した書類があると説明し、広州市に来て書類にサインすれば70万ドルを口座に振り込むと持ちかけられ、上海経由広州行きの電子航空券がメールで送られてきたといいます」(同)

 桜木被告は13年10月29日、中部空港から上海経由で広州へ。ハッサンが用意したホテルに宿泊した。

「翌30日昼、ハッサンから電話があり、会って書類にサイン。すると、ハッサンから、日本にいる自分の妻に商品サンプルを持ち帰って欲しいと依頼されたというのです。桜木被告は、その日の夜に、指定されたホテルでマリ人のアリという男からスーツケースを渡された。桜木被告が中を確認すると、厚底サンダルが23足入っていた。桜木被告は『問題はないですね』とアリに確認しています」(同)

 そして31日、白雲空港の手荷物検査場で、係員がサンダルの底を切ると、白い結晶が詰まった食品用ビニールパックが出てきたのだ。

 中国当局はその後、アリ被告と同居していたギニア人のソーマ被告の2人を拘束。2人の部屋からスーツケースに入っていたのと同じ成分の覚醒剤と厚底サンダルが見つかった。ハッサンの行方はつかめていない。

「判決で、中国当局が麻薬運搬罪から麻薬密輸罪に切り替えたのは、ナイジェリア人らと共謀して日本へ密輸を企てたと見なされたということでしょう」(同)

 広州市の拘置所で6年以上拘束されている桜木被告。歯がほとんど抜け落ち、入れ歯を入れてもらえず、食事にも支障をきたしているという。

 桜木被告は、愛知県稲沢市出身。

「高校を卒業後、自動車メーカーのスズキに入社しています。高卒だから、このままでは出世は見込めないということで、英語の勉強を始め、英検1級も取得。その英語力を生かして、スズキでは二輪の国際レースに付き添い、世界を飛び回りました。桜木さんの奥さんはフィンランド人ですが、国際レースで欧州を巡った時、知り合ったそうです」

 と語るのは、桜木被告とは27年来の友人で「桜木琢磨氏を支援する会」の佐々木賢治氏である。

 桜木被告は、スズキを退社後、1981年に翻訳や産業機械の輸出入を手掛ける貿易会社『スカイウェイ産業インターナショナル』を設立。95年に稲沢市議選に出馬し、初当選を果たした。5期務めたが、2015年9月の市議選に出馬できず、10月に任期満了となった。

「桜木さんは、70歳を超えても、若者のような情熱と正義感を持った方です。英語で丁々発止できるくらい英語力があり、尖閣諸島問題や従軍慰安婦問題では、中国や韓国に対して歯に衣着せぬ厳しい発言を市議会や講演で発言されています」(同)

 桜木被告の麻薬密輸疑惑については、こう指摘する。

「ハッサンは投資話を持ちかけて、桜木氏から多額の金を引き出していたようです。空港で麻薬が見つかった時の桜木氏の映像、色々な情報を整理すると、ハッサンは、桜木氏からの資金投資をなかったことにするためにハメた可能性がある。桜木氏が死刑になれば全ては闇に葬られるわけですから」

 拘留中の桜木氏には、認知症の疑いもあったという。

「桜木氏は、英語や日本語でコミュニケーションすることができず、完全に孤立しています。認知症になったという情報もありましたが、今回、判決を言い渡されたときの映像をみると、首を横に振って控訴する姿勢を示していました。今のところ認知症にはなっていないようですね。桜木氏への支援活動は、これまで事件に関する情報収集がメインでしたが、今後は街頭でビラまきなどを行う予定です。桜木氏と最後にお会いしたのは、13年8月。私が主催する、各国の専門家を招いて英語で講演を行う『SIA国際フォーラム』で、桜木氏に従軍慰安婦問題について講演をしてもらいました。桜木氏の講演の前に、たまたまあるナイジェリア人を招いて講演を行ったのですが、その時桜木氏から、『ナイジェリア人は信用できないから大丈夫か?』と言われたのが印象に残っています。その時は、ナイジェリア人の詐欺に遭っていたはずですから……」(同)

週刊新潮WEB取材班

2019年11月18日 掲載


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