文在寅がGSOMIAで米国に“宣戦布告” 「茹でガエル」戦術から一気に米韓同盟消滅?

文在寅がGSOMIAで米国に“宣戦布告” 「茹でガエル」戦術から一気に米韓同盟消滅?

 米韓同盟がいよいよ壊れ始めた。韓国の大統領が米国の国防長官に面と向かって、日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の維持を拒否したからだ。この協定こそは韓国が海洋勢力側に属する証しである。韓国観察者の鈴置高史氏が報告する。

ついに米国に宣戦布告

鈴置: 11月16日、ソウルで開かれた保守派の集会で、韓国キリスト教総連合会会長のチョン・グァンフン牧師が「ついに文在寅(ムン・ジェイン)が米国に宣戦布告した」と演説、政権打倒を呼び掛けました。

 保守系サイト、趙甲済(チョ・カプチェ)ドットコムの動画「チョン・グァンフン、『米国に宣戦布告した文在寅、我々が処断しよう!』」(11月16日)で視聴できます。演説は韓国語ですが、英語による翻訳が付いています。

 前日の11月15日、文在寅大統領が訪韓したエスパー(Mark Esper)米国防長官に対し「日本と軍事情報を共有するのは難しい」と語ったからです。日韓GSOMIAの破棄を翻意するよう求める米政府高官に、韓国の大統領が直接、拒絶したのは初のことでした。

 大統領自ら米国防長官に拒絶した以上、韓国は後戻りできず、GSOMIAは11月23日午前零時の失効期限をもって消滅する、と保守は頭を抱えたのです。

 保守系紙の朝鮮日報も、このニュースをまったく同じ視点で――「文大統領、米国の面前で『GSOMIA』拒否」11月16日、韓国語版)との見出しで伝えています。

GSOMIAが踏み絵に

――「宣戦布告」とは大げさ過ぎませんか?

鈴置: 「日韓GSOMIAを破棄すれば、中国・北朝鮮を喜ばせるだけだ」と米国は繰り返し韓国を説得してきました。エスパー国防長官も韓国での会見でそう強調しました。

 要は、中国・北朝鮮側に立つつもりか、と米国は問うていた。GSOMIAは日韓の問題を超え、韓国の立ち位置を問う踏み絵になっていたのです。

 文在寅大統領は、その踏み絵を蹴飛ばして「中国・北朝鮮――大陸側に行く」と米国に通告したわけです。韓国の保守にすれば「米国に宣戦布告した」も同然なのです。

――米国が日本に「輸出管理の強化をやめよ」と言い出すかと思っていました。

鈴置: 「日本が対韓輸出規制を強化したからGSOMIAを破棄するのだ。規制強化を取り止めるなら破棄を撤回する」と韓国は言い出しています。そこで米国が日本に貿易面で譲歩を迫るとの観測もありました。

目に余る韓国の裏切り

――しかし米政府は日本には何も言わず、韓国にだけ圧力をかけ続けている……。

鈴置: 理由は2つあります。まず、韓国は米韓同盟をそんなに軽く見ているのか、との怒りです。米国が音頭をとって実現した、同盟の象徴たるGSOMIAを韓国はいとも簡単に破棄した。

 韓国は同盟国の米国よりも、中朝の言うことを聞いたのです。韓国は中国、北朝鮮から「GSOMIAを破棄せよ」と圧力をかけられていました。「日本の輸出規制への報復」は言い訳に過ぎません。

 GSOMIAに留まらず、韓国の裏切りは目に余るものになっていた。すきあらば、北朝鮮への経済制裁を破ってカネを送ろうとする。中国包囲網たる「インド太平洋戦略」にも加わろうとしない。

 米軍関係者は米国で「韓国への怒り(Korea angry)」が高まっていると解説します。日米分断を画策した朴槿恵(パク・クネ)政権の時代には、米国で「韓国疲れ(Korea fatigue)」が広がりました。今や、それが「怒り」に昇格したのです。

 韓国は裏切る際に汚い手口も使いました。文在寅政権はトランプ(Donald Trump)政権に「GSOMIAは破棄しない」と説明しておいて、破棄した――つまり米国をだまし討ちにしたのです。

 文在寅政権の嘘は念が入っていて、韓国民には「破棄は米国から了解を取り付けてある」と釈明していました。米政府が「破棄は事前に聞いていない」と明かしたので、すぐに嘘とばれましたが。

 もし、米国が輸出管理の強化を撤回させるなど、日本に尻ぬぐいさせれば、韓国の信義違反を認めることになってしまいます。それは裏切り者の韓国をますます増長させるだけでしょう。

 この機会をとらえて米国が「GSOMIAを続けろ」と韓国だけを締め上げるのは当然のことなのです。

お仕置きは「通貨危機」で?

――「宣戦布告してきた韓国」に対し、米国はどう出るのでしょうか。

鈴置: 「裏切りの代償の大きさを痛感させるため、韓国を思い切りぶん殴るだろう」と危惧する韓国人もいます。例えば、韓国を通貨危機に陥れるという手口があります。

 1997年の通貨危機の際、韓国のドル不足を救おうとした日本に対し、米国は「もうドルを貸すな」と命じました。その結果、韓国はIMF(国際通貨基金)に救済されることになり、大恥をかきました。

 当時の金泳三(キム・ヨンサム)政権は米軍の情報を中国に流すなど、「裏切り」がひどかったからです(『米韓同盟消滅』第2章第4節「『韓国の裏切り』に警告し続けた米国」参照)。

 そんな「大技」を繰り出す前に米国は、韓国製品に対する輸入関税引き上げなど、まずは「軽い警告」を発するかもしれませんが。

 朝鮮日報は11月18日の社説「GSOMIA破棄後の暴風を甘受できるのか」(韓国語版)で、「米国は自動車や鉄鋼製品の関税引き上げによる貿易面での報復に出るかもしれない」と懸念しています。

――米国は「在韓米軍を撤収するぞ」とも韓国を脅しているようですね。

鈴置: その脅しは「在韓米軍駐留経費への分担金」交渉のカードとして米国は使っています(「文在寅のせいで米国に見捨てられる 核武装しかないと言い始めた韓国の保守派」参照)。

米国は分担金を一気に5倍に引き上げると通告し、それを呑まないなら米軍を削減・撤収するぞ、と威嚇しているのです。

 直接は関係ないように見えますが、GSOMIA破棄は米国の心証を相当に悪化させますから「削減・撤収」論を加速させるのは間違いありません。

茹でガエルの韓国人

――韓国人は今が「米韓同盟の危機」とは思わないのでしょうか?

鈴置: 冒頭で紹介したチョン・グァンフン牧師は「ゆでガエル」に例えて説明しています。「チョン・グァンフン、『米国に宣戦布告した文在寅、我々が処断しよう!』」の開始1分56秒後からです。

・熱いお湯に投げ込まれたカエルは驚いて飛び出す。一方、冷たい水に入れられ、少しずつ温められるカエルは「温かくなってきた」「神経痛に効くぞ」などと喜ぶ。そしてそのまま茹で殺されてしまうのだ。

 左派政権が「米韓同盟をやめる」と言い出せば、ほとんどの韓国人は反対し政権打倒に立ち上がる。ところが、「反日」の糖衣でGSOMIA破棄をくるみ、いい気分にさせて米韓同盟を弱体化すれば反対は出ない。しかし、最後には怒った米国から同盟を打ち切られてしまう、との警告です。

――「反日は神経痛にも効く温かいお湯」ということですね。

鈴置: その通りです。韓国の世論調査会社、リアルメーターが11月15日にGSOMIAに関 し聞いたところ「破棄を維持するべきだ」と答えた人が55・4%、「破棄を撤回すべきだ」 とした人が33・2%いました。

 過半の韓国人が「反日」のお湯につかり、知らず知らずのうちに米国との同盟を揺らすやり口に拍手喝采しているのです。青瓦台(大統領府)の高官が国民に向かって「破棄しても米国との同盟に影響はない」と言い続けた効果もあると思いますが。

――文在寅政権は破棄を撤回しないのでしょうか。

鈴置: 半数もの国民が支持する「破棄」をひっこめるのは難しい。ことにその多くが政権の支持者ですから、来年4月の総選挙を控え、このまま突っ走ると見る韓国人が多い。

本性を現わす文政権

――でも、米国は韓国を通貨危機に陥れるかもしれません。

鈴置: そうなれば、文在寅政権は通貨危機の責任を追及されるでしょう。ただその際、文在寅政権にはナショナリズムを煽ったうえ「米国との同盟をやめ、核を持つ北朝鮮とスクラムを組む」賭けに出る手があります。

――韓国人が米韓同盟からの離脱に同意するでしょうか。

鈴置: 巧妙な仕掛けが用意されています。1年前の2018年11月、韓国で映画「国家不渡りの日」が封切られました。日本でも「国家が破綻する日」との邦題で2019年11月に公開されました。

 この映画のメッセージが実に興味深い。1997年の通貨危機によるIMF管理は全面的に米国の陰謀の結果だった、と主張しています。

 韓国では「日本がカネを貸し剥がしたから危機に陥った」という説が定説でした。それを「米国悪者論」に塗り替えたのです。また、危機前に韓国が米国を裏切ったことにも一切、触れていません。

 韓国では映画は国民の情緒をかき立て、世論を作る道具です。映画が説いたことが真実になるのです。この映画を見た韓国人が今後、通貨危機に遭遇したら、反米感情に身を焦がすのは間違いありません。米国が「再び」通貨危機に陥れたとして、韓国には反米ナショナリズムが燃え上がる可能性が高い。

 その時、文在寅政権は本性を現わすと思います。「茹でガエル」戦術などという時間のかかる手法はうち捨て、米国との同盟から一気に離脱するでしょう。

反米煽るハンギョレ

 11月14日、政権に近いハンギョレ新聞が伏線を敷くかのような記事を載せました。

 ファン・ジュンボム・ワシントン特派員が書いた「『同盟とは何か』問い直させる米国」(日本語版)です。まずは以下のように反米感情を煽り、米国には強気で抗せよと説きました。

・(GSOMIA問題で)日本の態度変化なくして韓国だけが一方的に引き下がれという(米国の)要求が続くなら、韓国国民は受け入れがたく、「同盟無視」という世論が高まるだろう。
・防衛費分担金交渉が、在韓米軍の撤収や縮小問題につながることもありうる。(中略)だが、在韓米軍をタブー視して、恐がる必要もない。

 そして結論部分で、同盟解体の覚悟を韓国人に迫ったのです。韓国ではなく米国が同盟を破壊しているのだ、との論理で。

・在韓米軍が韓国にとって永遠の定数であるはずもないということも喚起する必要がある。現在約2万8500人の在韓米軍の規模は、朝鮮戦争以後の国際情勢の変化などにより減り続けてきた結果だ。率先して同盟を傷つけるトランプの時代には、それに相応しい冷徹な備えが必要だ。

予想外に早く進む「同盟消滅」

 1年前に『米韓同盟消滅』という本を書きました。「共通の敵を失った米韓の同盟はいずれ、なくなるぞ」と日本人に警告を発するのが目的でした。

 その私も、GSOMIA破棄と在韓米軍の駐留経費分担問題を引き金に米韓がチキンゲームを始め、予想外に早く米韓同盟が「消滅」に動いたことに驚いています。

 韓国人も左右を問わず、事態が突然に動き始めたことに驚愕しています。「ほんの少し前まで、在韓米軍撤収が現実のものになるとは思っていなかった」「血盟と呼ばれた米国との同盟が崩れるとは想像もしていなかった」――などと口々に言うのです。世の中が大きく変わる時はこんな、あっけないものなのかもしれませんが。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年11月18日 掲載


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