支持率が急落した韓国の保守政党

「反日大統領」として、日本メディアからこれでもかと忌み嫌われている韓国の文在寅氏。なかには勢い余って文政権の対抗勢力=保守派の政権返り咲きを待望するような言説も見受けられるが、その期待が報われる見込みは薄いかもしれない。このところ保守派の野党第1党=自由韓国党が「極右化」に突き進んでおり、中道層の票離れが不可避と見られているからだ。

 韓国は80年代の民主化以降、軍事政権の流れを汲む保守派、それと対峙する進歩派が政権を奪い合ってきた。1998年から盧武鉉、金大中と進歩派の政権が2代続いた後、2007年から保守派の李明博、朴槿恵が政権を担当。そして2017年5月から現在の進歩派=文在寅政権、という流れだ。

 李明博時代の保守与党=ハンナラ党は後にセヌリ党に改称して朴槿恵政権を支えた後、2017年2月から自由韓国党に名前を改めた。その支持率は朴政権時代の2016年3月の44.1%(リアルメーター社調べ・以下同)を最後のピークとして、2017年4月には9.7%にまで落ち込んでいる。理由はもちろん、この間に噴出した「国政介入事件」とそれにともなう朴槿恵前大統領の弾劾・罷免だ。

自由韓国党の支持率が回復した理由

 セヌリ党〜自由韓国党の支持率急落は、そっくり保守派の退潮に重なっている。これをいかに回復させるか、言い換えれば朴槿恵が残したダメージをどうやって克服するかが、保守派が目指す最大のテーマとなった。

 その意味で2019年2月に就任した自由韓国党の黄教安代表は、文政権の失点に助けられているとはいえ、一見うまくやっているようだ。10〜20%台をうろうろしていた同党の支持率は、曺国前法相のスキャンダルが与党を直撃した同年10月に34.4%を記録。今年1月の第1週は文大統領の与党・共に民主党41.8%に対し、自由韓国党は32.1%だ。

 支持率回復は黄代表の体制で党が安定したためともいわれるが、現地メディアでは異なる分析もある。それが「極右層」の取り込みだ。

 朴政権で国務総理を務めた公安検事出身の黄氏は、代表に選出された全党大会で「文在寅政府の 左派独裁が国と国民を大災害に突き落としている」と訴えた。大手紙「ハンギョレ」は、この大会を境に「それまで支持政党なしと答えていた極右性向の有権者が自由韓国党を支持し始めた」と伝えている。一方で自由韓国党は2017年からの2年間で実質的な党員の数が2倍に増えたといわれており、同じく「文化日報」はこれを極右層の流入とする見方を紹介した。

暴力沙汰も辞さない高齢者たち

 この極右層の代名詞が、「太極旗部隊」と呼ばれる人々だ。

 朴槿恵を巡る国政介入事件に際し、ソウル中心部ではその退陣を求める市民の大規模な集会が半年近くにわたり繰り広げられた。これが進歩派の「ろうそく集会」だ。一方で朴槿恵を支持する従来の保守団体も、弾劾に反対する集会を続けた。こちらは韓国の国旗=太極旗にちなみ、「太極旗集会」と呼ばれる。太極旗集会は政権が代わった後も、朴槿恵の釈放、文在寅の退陣などを求めるデモとして続けられてきた。

 こうした動きにともなって、太極旗を手に街頭へ繰り出している人々が太極旗部隊だ。その中核は、50代から70代の中高年〜高齢者からなる。

 平和的な雰囲気が強調されるろうそく集会と対照的に、太極旗部隊は常に憤慨して殺気立っているイメージだ。彼らは進歩派を「アカ」と呼び、北朝鮮に盲従する「従北左派」と罵倒する。このような言説は韓国でも「時代遅れの色分け論」として眉をひそめられるが、意に介する気配はない。集会では敵視する団体関係者、あるいは単なる通行人にも言いがかりをつけ、暴言を吐くどころか暴力沙汰を起こすこともしばしばだ。

疎外された老人が朴槿恵弾劾に憤慨するわけ

 この怒れる人々は何者なのか。現地メディアでは、社会が急速に発達するなかで見下され疎外感を味わっていた老人たちがその正体だとする分析が見られる。

 太極旗部隊が崇拝する朴槿恵の父親・朴正煕は、強硬な反共保守を掲げる一方、貧しかった韓国に経済成長をもたらした大統領だ。老人世代の多くは、自分もその発展に寄与したとの自負心を抱いている。そんな太極旗部隊の老人にとって英雄の娘=朴槿恵の弾劾・罷免は、自分たちが卑下されたように感じられるらしい。

 ネットではまた従来の保守勢力が、疎外感と鬱憤を抱く中高年〜高齢者の愛国心を煽り立てる。太極旗集会に参加するようになった老父がネットで「文在寅が不正選挙を行った」などのフェイクニュースに没頭している、という例も複数報じられている。あたかも日本で現在裁判が続いている「大量懲戒請求事件」――荒唐無稽な「愛国保守的」ブログに感化された中高年〜高齢者たちの騒動を思い起こさせる話だ。

国会乱入騒ぎが占う自由韓国党の将来

 2019年12月16日、韓国の国会議事堂が異様な騒ぎに包まれた。自由韓国党が国会前で開いていた文政権糾弾集会の一部参加者が、議事堂への乱入を試みたのだ。集まっていたのは同党の党員、そして保守団体関係者などの支持者=太極旗部隊だった。

 デモが日常茶飯事の韓国でも国会議事堂への乱入は異例であり、騒ぎは深刻な事件として報じられた。興奮した参加者は警察や取材記者に激しい暴言を浴びせ、通りかかった与党議員らに暴行を加えてもいる。そして議事堂の入り口前に陣取った参加者を、たしなめるどころか激励していたのが、自由韓国党の黄代表だった。

 保守派の返り咲きには国会内の少数勢力を結集することが不可欠だが、政治家歴の浅い黄代表はこうした「場外闘争」にばかり明け暮れていると評されている。また保守派でも中道に近い層は朴槿恵の弾劾・罷免を支持しているが、黄代表とその支持集団は太極旗部隊と同じ「親朴派」だ。だが世論の大勢はいまも朴槿恵を忌み嫌っており、親朴派は国民から孤立せざるを得ない。そうしたなか、保守系の少数政党が自由韓国党との連帯を見限る動きも見られ始めた。今年1月には国会議員8人を擁する中道保守の「新しい保守党」が、活動を始めている。

 韓国では今年4月、4年に一度の国会議員選挙が行われる。文政権の今後を決定づける重大な節目だ。極右勢力といわれる太極旗部隊に同調する自由韓国党に、どのような勝算があるのか。文政権の敗北を待ち望む日本メディアにとっても、楽観視できない状況といわざるを得なさそうだ。

高月靖(ノンフィクション・ライター)

週刊新潮WEB取材班編集

2020年1月15日 掲載