病院に行けない貧困層

 共同通信は2月11日、「新型肺炎、中国の死者103人増え千人超に」と報じた。記事によると《中国本土の死者は計1011人となり、感染者は4万2千人を超えた》というが、この数字は更に増え続けるだろう。

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 背景の1つに挙げられるのが、中国の極端な医療格差だ。これまでにも複数のメディアが報じている。

 毎日新聞は2月2日(電子版)、「治療設備、温かい食事なく 農村部襲う新型肺炎 激しい医療格差」との記事を配信した。

 この記事は、湖北省の武漢市に隣接する黄岡市で、感染者数が1000人を超えたことを重視したものだ。具体的な記述を引用させていただこう。

《黄岡市は主に農村地域で、武漢市に比べて医療体制は脆弱(ぜいじゃく)とされる。中国メディアは、治療設備はもちろん、入院患者への温かい食事さえ事欠く現地の窮状を伝えている》

《中国新聞週刊は、黄岡市で亡くなった入院患者が生前、息子への最後の電話で「温かいおかゆを一口食べたい」と漏らしたとのエピソードと共に、切迫する医療環境を伝えた。市政府は5月に完成予定だった大型医療施設を前倒しで運用し始めたが、隔離治療などの設備は十分整っていないという》(註:引用に際してはデイリー新潮の表記法に合わせた。以下同)

 中国国内に長く暮らした日本人の報道関係者は、「中国における富裕層と貧困層の医療格差は、日本人の想像できるレベルを遙かに超えています」と明かす。

「日本における国民健康保険制度のようなものは、一応は中国にも存在します。しかしながら、国営企業に勤めるエリート社員でもない限り、入れるものではありません。施設が充実し、優秀な医師が勤務する病院は、北京でも上海でも、それこそ武漢にもたくさんあります。しかし診察費用は高額で、庶民が簡単に受診できる病院ではないのです」

 特に貧困層ともなると、医療のセーフティーネットなど全く存在しないという。

「高額な医療費を自己負担する必要がありますが、そんなことはもちろん不可能です。結果として、貧困層こそ病院に足を運びません。たとえ新型コロナウイルスを原因とする肺炎に罹患したとしても、座して死を待つより他に方法はないのです」(同・報道関係者)

 この報道関係者は中国に滞在していた際、足を骨折したことがあった。近くの病院に行くと、入口は会計窓口が“関所”のようになっており、診察料やレントゲン代などの諸費用を支払う能力を持っているかどうかを確認されたという。

中国メディアは日本礼賛一色

 支払い能力があると証明できれば先に進めるのだが、それから患者は大行列を作って医師の診察を待つ。相当な時間がかかるのは常識らしく、行列には患者が雇ったアルバイトも混ざり、携帯電話で“依頼主”と連絡を取ったりしていたという。

「こんな行列に付き合ってはいられないと思い、その日は激痛に苦しみながらも帰宅しました。翌日はコネを使ったり、然るべき人物に贈り物を手渡したりすると、副院長の診察を受けることができました。中国人の富裕層は、私のような“裏ワザ”を使って優先的に診療してもらったり、富裕層専門の病院に足を運んだりするわけです」(同・報道関係者)

 しわ寄せが来るのは中間層だ。富裕層の割り込みで更に行列で待たされることになる。とはいえ、彼らは病院に行けるだけでまだ幸せなのかもしれない。

「中国では健康こそ金で買うものです。急病人が救急車を呼ぶと、金がないことを救急隊員が把握すると帰ってしまった、という話は有名です。中国が社会主義国家だった時代は完全に過去のものとなりました。今の中国は“国家資本主義”とでも呼ぶべき経済・政治システムで、アメリカより資本主義的だと言えるでしょう」(同・報道関係者)

 そんな中国は、上海にバイオ産業を集積させている。SankeiBizは19年4月5日、「上海浦東、バイオ医薬産業基地が発足」との記事を掲載した。

《上海市浦東新区はこのほど、「浦東バイオ医薬産業基地」を立ち上げた。張江イノベーション薬産業基地と張江医療機械産業基地を中心に発展させ、2020年には工業生産高とハイテクサービス業の売上高で計1000億元(約1兆6611億円)を目指す》

 中国共産党の念頭にあるのは、「不老長寿」だ。永遠の生という人類の夢に近づくことで、約13億9500万人の国民をまとめ上げようとしているのだ。

「中国の医療史を振り返ってみましょう。毛沢東(1893〜1976)は1966年からの文化大革命で知識人を農村部に追放しますが、この中に医師も含まれていました。中国の医療水準は大きく後退することになります。そして1978年にトウ小平(1904〜1997)が改革開放路線に転じ、中国の医学界は“先進国に追いつけ、追い越せ”の時代を迎えます」(同・報道関係者)

 この報道関係者によると、現在の中国医療界は先進国のキャッチアップを果たしただけでなく、世界のトップを走る領域も誕生しつつあるという。

「中国は国民の数が多いので、外科医は手術の経験数が増えます。練度は日本より高いと言われています。他に心臓や腎臓の移植も世界でトップクラスの技術を持っていると評価されています。これは研究や手術を実施する際、コンプライアンスの意識に乏しく、人体実験に近いこともやっているためだとされています」(同・報道関係者)

 かつての中国人は、テレビやクーラーを買ったり、自家用車が購入できる年収を手にいれたりすることで、「中国共産党は素晴らしい」と統治体制に満足を示してきた。

 だが中国の富裕層は、世界でもトップクラスの金持ちになった。今や“モノ”で満足することはない。

「マンション価格や株式市場の下落を、中国共産党は必死に買い支えています。貧困層が共産党に反旗を翻しても、幹部連中はそれほどの恐怖は感じないでしょう。しかし、もし中間層や富裕層が党に逆らう事態になれば、中国共産党は大打撃を受ける可能性があります。そのために党幹部は、不老不死という新しい夢を国民に提示したわけですが、今回のコロナウイルス騒動で中国の医療制度がどれだけ脆弱かを示してしまいまいました。これを中間層や富裕層がどう受け止めるのかは未知数で、これを今後、ウオッチする必要があると思います」(同・報道関係者)

 この報道関係者によると、今の中国では「日本ありがとう」というキャンペーンが大展開されているという。

「日本からマスクを筆頭に多くの支援物資が届いていることを大きく報じ、『北朝鮮や韓国、フィリピンは中国を非難するだけだが、日本は暖かい援助の手を差し伸べてくれる』、『安倍首相はリーダーシップを遺憾なく発揮している』と、ニュースは日本絶賛一色です。共産党の狙いは不明なところも多いですが、少なくとも日本に目を向けさせることで、中国共産党に対する批判を軽減させようとしている可能性はあるでしょう」

 中国の王朝が滅びる原因として、農民革命が多いのはよく知られている。しかし疫病も相当な影響を与えてきたようだ。

 明王朝は末期にペストや天然痘が大流行し、清王朝はペストの流行が弱体化を招いたという。果たして新型コロナウイルスは、習近平(66)の“治世”にどのような影響を与えるのだろうか。

週刊新潮WEB取材班

2020年2月13日 掲載