コロナで何もかもが吹き飛んでしまったのは、日本に限った話ではない。世界を、とりわけ欧州を揺るがす一大事であった英国のEU離脱、すなわちブレグジットも、目下、「棚上げ」になっているという。

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 現在の英国事情について、

「最大の関心事は感染拡大をいかに食い止めるかで、その次がコロナで大ダメージを受けた経済問題です」

 こう解説するのは、在英国際ジャーナリストの木村正人氏だ。

「ブレグジットは二の次、三の次というか、それどころではないというのが率直なところで、実質的に保留となっている状況です」

 改めてブレグジット問題の経緯を振り返っておくと、2016年の国民投票の結果、僅差ながらEU離脱派が残留派を上回り、英国のEU離脱方針が決まった。その後も英国国内の政治闘争や、離脱条件を巡るEUとの交渉が難航し、なかなか「正式離脱」には至らなかったが、昨年12月の総選挙でボリス・ジョンソン首相率いる与党が大勝し、政治闘争は決着。現地時間の今年1月31日午後11時をもって、英国はEUを正式に離脱したのである。

 とはいえ、今年いっぱいは「移行期間」とされ、事実上何も変わらず、この期間中に英国はEU各国との自由貿易協定を結び、来年から「本格離脱」が始まる予定だった。

 そこを襲ったのが未曾有のコロナ禍。英国の被害も甚大で、感染者は15万人超、死者も2万人を超え、そればかりかジョンソン首相やチャールズ皇太子まで感染する事態となったのだ。

政治空白

 先の木村氏が続ける。

「4月中旬時点でも、死者が毎日約千人ずつ増えています。全土ロックダウンの影響もあり、第1四半期(4〜6月)のGDPは前年比マイナス35%となる見込みです。失業者も200万人ほど出ると見られており、そんな状況でEU、つまり欧州単一市場から本当に離脱してしまえば、ヒト、モノ、サービスの移動が制限され、英国経済へのさらなる下方圧力となるのは間違いありません」

 幸いジョンソン首相は集中治療室から出て、チャールズ皇太子も軽症でほどなく回復したものの、ブレグジットの交渉担当者にも症状が出て政治空白が生じた。まさに、EU離脱に力を割いている余裕などない状況といえそうで、

「3月29日付の『インディペンデント』紙には、英国人の3分の2が移行期間の延長を望んでいるという世論調査の結果が掲載されました」(英国ウォッチャー)

 ちなみにブレグジット騒動には「副産物」もあって、在ロンドンのある邦人曰く、

「昨年末の総選挙の結果を受けて、EU離脱の動きが進むと食糧不足になると報じられ、多くの人が買いだめに走りました。ロックダウンの今、その時の買いだめが役立っています」

 何はともあれ、

「今年の6月末までであれば、移行期間を最大2年間延長することが可能です。ブレグジットのことにまで手が回らない現状を考えると、現実的には延長せざるを得ないでしょう。とはいっても、その延長交渉自体がコロナの影響で先送りになっています」(木村氏)

 新型ウイルスは、英国抜きの「新型EU」をも侵食している。

「週刊新潮」2020年4月30日号 掲載