文在寅(ムン・ジェイン)大統領は6月10日、北朝鮮にビラを飛ばした脱北者団体と米入りペットボトルを海に流して北朝鮮へ送った脱北者団体に対して、刑事告発すると発表した。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の時代は、脱北者は手厚い待遇を受けたが、文政権になると一変。脱北者への支援も大幅に削っている。今回の刑事告発も前政権時代ならありえないことである。

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 朴槿恵政権と文在寅政権では、脱北者への扱いは180度異なる。

 朴槿恵は2016年、10月1日の「国軍の日」(朝鮮戦争で韓国軍が38度線を突破した日)での演説で、北朝鮮住民に対して「いつでも韓国の自由の地に来てほしい」と語った。韓国の大統領で、脱北を呼びかけたのはこれが初めて。当時、朴政権は「10万人脱北村」構想まで計画していた。

「ところが文政権になったとたんに、北朝鮮へ食糧品や薬品の支援を強化しました。また、慰安婦団体への支援も増やしています。その分、脱北者団体への支援を大幅に削られてしまいました。脱北者団体はスタッフを解雇。事務所も狭い場所への移転を余儀なくされています。中には、複数の脱北者団体がひとつの古いビルに入るというケースもあります」

 と解説するのは、脱北者事情に詳しいジャーナリスト。

 全ての脱北者団体を束ねる「脱北者同志会」には、これまで左派政権でも右派政権でも資金提供があったが、文政権は予算を全てカットした。また韓国政府は、脱北者問題や北朝鮮人権問題に関連するイベントなどの企画公募事業を毎年応募し、その予算に109億ウォンが充てられていた。ところが文政権は、それを9割以上削減したという。

脱北者の母子が餓死

 脱北者が韓国に入国すると、まず「ハナウォン定住センター」で3カ月の研修を受ける。そこで民主主義などを学び、さらに銀行口座の開設、公共交通機関の利用、進学や就職の仕方など、韓国で生活するために必要な情報を教えてもらうという。また、定着支援金として6200ドル(約66万3400円)、住宅支援金の1万1700ドル(125万1900円)の他、最初の半年間は月額380ドル(4万660円)の基礎生活手当が支給される。

「以前は、ハナウォン定住センターには毎月2ケタ、3ケタの脱北者が入っていました。文政権になってからは、ガクンと数が減っています。脱北者を受け入れていないということでしょう」(同)

 韓国には現在、脱北者が3万3000人ほどいるが、7割以上は女性という。

「脱北者は、中国経由で来ることが多い。中国へ渡った脱北女性の中には、人身売買で中国人に売り渡されたり、性労働を強制されたりすることもあります。中国で子どもを産んで、シングルマザーとして韓国へ来ることも。シングルマザーの脱北者は、子供がいるのでパートでしか働けず、生活は苦しいです」(同)

 昨年9月、ソウルのアパートで、脱北者の母子が餓死したと報じられた。母親は中国で、人身売買によって韓国系中国人の男性と結婚させられたが、男の子が産まれて後離婚して、一昨年に韓国へ入国したという。

「餓死した母子は、死後2カ月も経ってから発見されました。母子の部屋の冷蔵庫には、唐辛子の粉しか残ってなかったそうです。息子はてんかんがあって目が離せず、働くことができなかったので生活保護を申請したところ、書類の不備を理由に却下されたのです。怒った脱北者ら数百人が、ソウル市内で抗議デモを行いました。またソウル市役所の前で断食して抗議する脱北者もいました。これまで脱北者はウエルカムだったのに、文政権になってから脱北者は疫病神のような扱いを受けています」(同)

 今年1月には、大邱(テグ)市郊外の共同墓地付近で60代の脱北者男性の遺体が発見された。自宅には「生きるのが苦しい」とのメモがあり、警察は自殺と見ている。

「一番酷いのは、文在寅です。彼は2017年の大統領選挙の時、親北色を消すために脱北者を利用しています。北で高い地位にあった脱北者数人に文在寅を支持しますと声明を出させたのです。その際、文在寅と脱北者との間で密約が交されています。大統領に就任したら脱北者を支援する財団を作る。彼らをその理事長や役員に就任させるという内容でした。ところが、文在寅が大統領に就任すると、それらをすべて反故にしたのです」(同)

 脱北者を利用するだけ利用して、大統領になったら支援を大幅カット。あまりにも酷い仕打ちである。

 冒頭で触れた脱北者団体は、6月22日に再び50万枚のビラを南北国境付近で散布した。

「2018年4月の南北合意では、今後互いに誹謗中傷はしないとしています。そして、民間人が誹謗中傷を行った場合、韓国政府が取り締まるとも読める内容になっているのです。今回の脱北者団体の刑事告発は、南北合意に基づいたものということでしょうが、民間人の言動を政府が取り締まるのは憲法違反でしょう。あってはならない行為です」(同)

週刊新潮WEB取材班

2020年6月29日 掲載