新型コロナの新たな感染者は、連日世界で25万人以上、日本では1000人以上を記録している。そんな中、7月末時点で110日間国内感染者ゼロ(帰国者除く)を記録しているのが台湾である。累計での感染者は474人、死者はわずか7人。そんな台湾が、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長と対立しているのだ。

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 台湾がコロナウイルスを封じることができた要因として、初動の早さ、水際対策、マスクの大量生産などが挙げられる。4月13日以来、国内に限れば感染者ゼロが続いているというから大したものである。

「それから56日後の6月7日、安全宣言が出ました。コロナの潜伏期間は14日とされ、56日間ということは4クール感染者ゼロ。それをもって完全に収束したと見たわけですね。電車やバスに乗る際、マスク着用を義務付けられ、違反すると1万5000元(5万4000円)の罰金が科せられていましたが、それも解除されました。とはいえ、国民の5、6割はまだマスクを着用していますね」

 と、元台湾経済部系シンクタンク顧問で株式会社アジア市場開発代表の藤重太氏が解説する。同氏は台湾大学国際貿易学部を卒業。台湾滞在歴は34年にも及び、先日『国会議員に読ませたい台湾のコロナ戦』(産経新聞出版)を上梓した。

「コロナ対策としてマスクの増産体制に入った台湾は、中国に次ぐ、世界2位のマスク生産国になりました。4月1日、蔡英文総統は記者会見で『世界の感染拡大を傍観せず、各国と防疫協力を進めて行く』と述べ、アメリカにマスクを200万枚、イタリアやスペイン、イギリスなど欧州に700万枚、台湾と外交関係を結ぶ国へ100万枚、日本へは200万枚送る義援活動を始めました」

中国の陰謀

 ところが、そんな台湾の動きを牽制するかのように4月8日、突如、WHOのテドロス事務局長が台湾を名指しで批判したのである。

「テドロス事務局長は記者会見で、『(ネットで)人種差別的な攻撃を3カ月以上受けており、それは台湾からだ。台湾の外交部は知っていたが、何もせず、むしろ私を批判し始めた』と発言したのです。これに対し、台湾側は『事実無根』と反論。外交部はこの“中傷”への謝罪を要求しました」(同)

 蔡英文総統も翌9日、Facebookにこう書き込んだ。

《台湾は長年国際組織から排除され、誰よりも差別と孤立の味を知っている。テドロス事務局長にはぜひ台湾に来てもらい、差別を受けながらも国際社会に貢献しようと取り組む台湾の姿を見てほしい》

「台湾の捜査機関である法務部調査局は、台湾からテドロス事務局長へ中傷が行われた根拠は見つからなかったと反論しています。その後、Twitterに『台湾人として謝罪します』『テドロスさん、ごめんなさい』などという書き込みが100件以上、テドロス氏宛てに投稿されたが、それらは中国大陸からの投稿であることを突き止めています。調査局は、『台湾人を装った中国側の偽の投稿で、台湾側が攻撃を認めたように見せかける陰謀』と分析しています。テドロス事務局長への人種差別的な書き込みも、中国の工作である可能性が高いですね。テドロス事務局長はエチオピア出身ですが、中国はエチオピアに多大な投資をしています。彼は中国の言いなりになって台湾を批判しているというのは、誰の目にも明らかですね」(同)

 台湾が反論すると、今度は中国政府の国務院台湾事務弁公室の報道官が、こう語った。

「民進党はコロナ問題を利用し、台湾独立を謀るために手段を選ばない。自らのネット部隊が思うまま差別的な言論を広げるのを許している」

台湾の報告を無視したWHO

「怒った台湾は4月11日、中央感染症指揮センターの記者会見で、昨年12月31日、WHOに武漢で肺炎患者の隔離治療が行われていることを伝えたメールを公開したのです」(同)

 中国が、武漢で原因不明の肺炎が27例、うち重症が7例確認されたと発表したのは12月31日のことである。

「その前日の30日、武漢の李文亮医師がSNSの投稿で新種のウイルス性肺炎の大流行を警告しています。投稿には検査報告や胸部CTの画像が添付されていました。台湾衛生福利部疾病管制署(CDC)の羅一鈞報道官が31日に李医師の投稿を見て、その日のうちにWHOに報告したのです。人から人への感染とは明言していませんが、患者を隔離して治療を行っていると伝えたそうです。医療の専門家なら、隔離していることは人から人への感染の疑いがあると認識します。ところが、WHOは台湾の報告を完全に無視したのです」(同)

 WHOは1月14日の声明でも、「人から人への感染は確認されていない」と発表している。

「09年から16年まで続いた国民党の馬英九政権は対中国融和路線でしたから、台湾はWHO総会にオブザーバー参加していました。ところが、民進党の蔡英文政権が発足した16年5月から、オブザーバー参加ができなくなったのです。背後で中国が糸を引いていることは明らかです」(同)

 WHOが台湾の報告を無視したことが、コロナのパンデミックを招いた一因と言われても仕方あるまい。

「WHOが台湾の報告を世界に伝えていれば、国境封鎖などが早い段階でできて、今のような爆発的感染拡大は防げた可能性があります。WHOに無視された台湾は1月2日、台湾衛生福利部は専門家を集め伝染病予防治療諮問会を開き、コロナ対策に乗り出しました。この初動の早さがコロナを封じ込めた大きな要因です」(同)

 やはり、テドロス事務局長の責任は重大と言わざるを得ない。

週刊新潮WEB取材班

2020年8月5日 掲載