首相就任の会見でも韓国には言及せず

 安倍前首相が辞任を発表したとき、政権交代が日韓関係の関係改善につながると韓国政府は期待して、ポスト安倍に注目した。そして菅義偉新内閣が発足し、韓国の大統領と首相が相次いで書簡を送ったものの、菅首相は黙殺している。就任会見では、米国との同盟を基軸とした外交政策を展開すると述べ、中国とロシアを含む近い隣国と安定した関係を築きたい、拉致問題に全力で取り組んでいくと北朝鮮との関係にも触れたが、韓国については言及しなかった。露骨な「韓国スルー」に菅首相のしたたかな戦略が垣間見える。

 菅義偉新内閣が発足し、韓国の大統領と首相が相次いで書簡を送ったが、菅首相は黙殺している。

 文在寅大統領は、9月16日、菅首相に書簡を送って日韓関係を発展させる努力を呼びかけた。具体的な内容は公開されていないが、青瓦台(大統領府)の姜珉碩(カン・ミンソク)報道官は、韓国と日本は地理的・文化的に最も近い友人であり、韓国はいつでも向かい合って意思を疎通する準備ができているとし、日本の積極的な呼応を期待していると伝えたと述べた。

 丁世均(チョン・セギュン)首相も菅義偉新首相の就任を祝う書簡を送り、未来志向の日韓関係を発展させる対話と協力を呼びかけた。

 また、人的交流や新型コロナウイルス感染症の防疫共助を活性化させるなど相互発展を提案し、両国民の友好関係を深めていく期待を添えた。

 韓国外交部も菅首相や新内閣と積極的に協力して歴史問題を克服し、経済・文化・人的交流などさまざまな分野で未来志向の日韓協力関係を強化したいという談話を発表した。

 韓国の大統領、首相、外交部が対話を求める書簡を送り、談話を発表したが、菅義偉新首相は反応していない。

文在寅政権に報復措置を匂わせた

 菅首相は就任後の記者会見で、米国との同盟を基軸とした外交政策を展開すると述べ、中国とロシアを含む近い隣国と安定した関係を築きたいと語った。

 また、拉致問題は最も重要な課題であり、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく全力で取り組んでいくと北朝鮮との関係にも触れたが、韓国については言及しなかった。加藤勝信官房長官も定例記者会見で日韓関係には言及しなかった。

 安倍前首相が辞任を発表したとき、政権交代が日韓関係の関係改善につながると韓国政府は期待して、ポスト安倍に注目した。

 日韓関係が1965年の日韓国交回復以来、最悪になった原因は、そもそも文在寅政権にあり、韓国政府が変わらない限り改善する可能性はないのだが……。

 文在寅大統領は2015年12月に日韓外相が慰安婦問題の最終的な解決を確認した日韓合意の破棄を公約の一つに掲げ、就任直後に日本政府が拠出した10億円を国民から募って日本に返還すると豪語した。

 それに対して、日本政府が二国間の約束に基づいて拠出した以上、韓国が返還したいといっても受け取らないと発言し、文大統領は合意破棄を一時的に引っ込めた。

 仮に、日本政府が文大統領の合意破棄発言を放置して募金が集まったタイミングで受け取りを拒絶すれば、10億円は宙に浮き、文大統領は窮地に立たされたことだろう。

 日本政府が期せずして文大統領を救った後、日韓関係は良くも悪くもない状態が続いたが、文政権がふたたび引き金をひいた。

 2018年10月、韓国大法院がいわゆる徴用工裁判で、日本企業に賠償金の支払いを命じる判決を下し、日本政府が日韓請求権協定で解決済みだと韓国政府の介入を求めたが、文政権は司法の独立性を名目にこれを放置した。

 当時、官房長官だった菅氏は、日韓請求権協定違反を放置し続けた文在寅政権に報復措置を匂わせた。

韓国の一つ一つの発言に対応をすることは生産的ではないと切り捨てた

 韓国の裁判所が三菱重工業の資産差し押さえを決定した19年3月、菅長官は定例記者会見で、正当な日本企業の経済活動を保護するため適切な対応を取る考えを示している。

 また、日本政府がいつどのような措置を取るかは、手の内を明かすことになるので差し控えたいと韓国政府に圧力を加えた。

 菅長官は同年11月にも韓国を突き放す発言を行なっている。

 同年11月4日、安倍前首相と文大統領は、タイのバンコクで開かれたASEANサミットに出席した折、10分ほど対談を行った。

 日本政府が韓国を輸出管理制度のグループAからグループBに変更し、韓国がGSOMIA破棄を通告して以後、はじめての対面だった。

 日本政府は、韓国の賢明な対応を求める考えに変わりはなく、日本の原則的な立場を安倍晋三首相が文在寅大統領に伝えたと発表した。

 一方、韓国政府は、友好的な歓談で、両首脳が日韓関係の重要性を確認したと発表した。

 記者から韓国政府の発表に関する見解を問われた菅長官は韓国の発表は韓国側に聞いていただきたいと突き放したのだった。

 同月22日、韓国政府は韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を条件付きで延長すると通告し、青瓦台(大統領府)は日本の経済産業省から謝罪を受けたと発表した。

 しかし、菅義偉官房長官は謝罪を否定し、韓国の一つ一つの発言に対応をすることは生産的ではないと切り捨てた。

 菅義偉首相が一貫して韓国を無視するなか、代わって米国防総省のトップであるマーク・エスパー米国防長官が韓国に言及した。

 エスパー長官は11月16日に行った講演で、中国と米国の潜在的な葛藤に関連し、米国と日本、オーストラリア、韓国、シンガポールを考えなければならないと発言した。

文在寅大統領は、米国同盟に属しながら習近平中国国家主席の訪韓を期待

 いま米国と中国は、インド太平洋の覇権争いを繰り広げている。

 米国は中国に対峙するため、海軍力を全面的に見直して、293隻ある海軍の艦艇を2045年までに355隻に拡大するなど、25年間で数百億ドルを投じる計画を立てている。

 また、中国を包囲するため、米国、日本、オーストラリア、インドの4か国で構成する安全保障の枠組みであるクアッド(Quad)同盟の強化を目指している。アジア太平洋版NATO(北大西洋条約機構)を構築しようという考えだ。

 米国はシンガポールと韓国にも同盟への参加を呼びかけるが、なかでも中国寄りの姿勢を見せる文政権に米国と中国のどちらを選ぶか、踏み絵を迫っているのである。

 日本と韓国の関係は、米国を介した同盟が基本にある。

 日本は民主制と自由経済を採用し、経済や軍事など米国と強固な同盟関係を築いている。

 韓国は同じく民主制と自由経済を採用し、経済的に独立している米国同盟のなかで地理的に最も近い国である。

 台湾は国連加盟の独立国ではなく、続くシンガポールとオーストラリアは、さほど近いとは言い難い。

 文在寅大統領は、米国同盟に属しながら習近平中国国家主席の訪韓を期待している。

 また、反日デーの三一節や光復節では日本に対話を求める演説を行なうが、19年8月15日の光復節で日本と対話したいと述べながら、舌の根が乾かない同月24日にGSOMIAの破棄を通告して韓国内の反日勢力を煽るなど、一貫性がない言動を繰り返している。

 安倍前政権は文大統領の10億円を返還するという国内発言に、受け取らないと反応したが、韓国にはその場その場の思いつきを声高に主張する文化がある。

 文政権に対して反応することは、まさに生産的ではない。

佐々木和義(ささき・かずよし)
広告プランナー。商業写真・映像制作会社を経て広告会社に転職し、住宅・不動産広告等のプランナー兼コピーライターを務めた。韓国に進出する食品会社の立上げを請け負い駐在員として2009年に渡韓。日本企業のアイデンティティや日本文化を正しく伝える必要性を感じ、2012年、広告制作会社PLUXの設立に参画し現在に至る。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年9月20日 掲載