存在する二つの敵

 文在寅大統領は韓国左派らしく、親北・親中路線を堅持する一方、米国とは距離を置き、在韓米軍撤退論まで取り沙汰された。その一方で清廉を売りにする左派らしからぬ面も。米国留学を経験した子息には国家から支援金などがもたらされ、同じく初代の秘書室長、外交部長官にもまた“親族優遇”の実態が明らかとなった。韓国左派典型の自己利益のみ追求型スタンスについてリポートする。

 韓国の左翼勢力には二つの敵が存在する。

 一つは階層間の相違、つまりは富の不平等を造成する資本家(財閥)であり、もう一つは外部勢力と呼ばれる米国である。

 なかでも反米は反日と同様、韓国の左派がよく利用するキーワードだ。

 例えば盧武鉉が大統領になった時には、米軍装甲車に轢かれて死んだ少女たちを選挙に利用した。近年の代表は言うまでもなく文在寅である。親北・親中路線に加えて米国と距離を置く外交政策は極東の安全保障を根底から揺るがせているのはご存じの通りだ。しかし、その反米スタンスがどこまで本気なのかははなはだ怪しい。

 ちなみにこれは政治家に限った話ではない。最近は、政治家のみならず左派思想を持つ芸能人が、放送や講演で政治的な発言を行って大衆に影響を与える立場で“活躍”する例もある。こういう芸能人、有名人はポリテイナーと呼ばれる。

 コメディアン出身の金美和(キム・ミファ)は韓国を代表する左派ポリテイナーとして知られている。

 金美和は李明博政府時代、「米国産輸入牛肉を食べたら狂牛病にかかる」と訴えて狂牛病の恐怖感を煽り、慰安婦問題や済州島海軍基地問題など、左派活動にいつも顔を出してきた。

 朴槿恵政権時には、ラジオの時事番組で、偏向的な言動と露骨な反米感情を露わにし、文在寅政府で政治団体の委員長や安山文化財団の代表理事を務めている。

 そんな彼女は一方で、自身の経営するレストランで米国産牛肉を扱っているし、2人の娘は、米国の名門大学に留学中だ。

議論が沸いた大統領の息子の言動

 話を本題に戻そう。文在寅の息子ムン・ジュニョンは、米パーソンズで留学生活を送った。

 見聞を広めるにあたって狭い韓国だけでは物足りないのは理解できる。批判の声が集まったのは米国留学そのものではなく、最近の彼の言動だった。

 彼は新型コロナウイルスの拡散で社会活動が制限されるなか、個人展示会を強行し、「私の作品は大統領の息子としてではなく、以前から認められている」と発言。

 しかし、ムン・ジュニョンが国の支援金と国策事業を得ていたことが明らかになり、「父が大統領でありながらその恩恵に与り、それは極めて厚かましい」などと批判する声が上がったのは当然だろう。

 文在寅政権で初代大統領秘書室長を務めた任鍾晳(イム・ジョンソク)も有名な反米活動家だ。

 大学時代から親北学生運動の大物だった任鍾晳は1989年、手製爆弾や催涙弾、シンナーなどを所持して米大使官邸に侵入し、国家保安法違反などの容疑で拘束された。

 その後、国会議員となり、米国ビザを申請したものの米国側が拒否。一国の大統領秘書室長が大統領の米国歴訪に同行できない状況になった。

 これは、任鍾晳が「北朝鮮の主体思想に染まった代表的な反米政治家」として米国に認定されている証左でもあるだろう。

 しかし、彼女の娘はと言うと、米シカゴのアートスクールに留学中である。

 学費だけでも年間5000万ウォン(約480万円)を下らないし、ブランド品で武装した彼女のSNSからは、豪華な留学生活を楽しんでいる様子が伺える。

 文在寅政府で最も在任期間が長い閣僚の康京和(カン・ギョンファ)外交部長官も同様だ。

 金大中の通訳官に抜擢されて外交通商部に入った康京和は、その資質について常に疑問符がつく人物として知られる。

夫のことを私が決めることはできない

 NO JAPANと慰安婦問題、反日、反米路線を先導する康京和だが、長官に任命された時から娘の米国籍が問題になっていたのだ。

 娘は、母親が長官に就任直後も米国籍を持ち続けたが、世論に押されて、2018年に米国籍を放棄した。

 康京和の夫も議論の的だ。

 新型コロナウイルスの拡大で、海外旅行の自制を要請する政府方針を康京和が発表した数日後、夫が米国に出国することが明らかになり、国民の非難にさらされた。

 彼女の夫が国際的なパンデミックのなか米国行きを決めた理由は、「ヨットを購入するため」。

 様々な批判に対し康京和は、「夫のことを私が決めることはできない」と公式の場で明らかにした。

 娘の国籍はもちろん、夫の幼稚な理由での訪米も、本人の資質とは別の次元の問題かもしれない。

 そして、康京和の普段の仕事ぶりがそれなりに評価されていればさほどの批判も出なかっただろうが、人々は彼女への不満のマグマをため、それを爆発させるタイミングを窺っていたということになる。

 本来「反米」といったスタンスは、決して軽いものではない。ここにあげた事例を見ると、反米とは口先だけではないかと思うのが自然だろう。

 なぜこんな振る舞いができるのかといえば、答えはシンプルだ。

 大統領を含む指導層は自分たちの利益を得ようとするだけで、他のことには関心がない。だから「反米」と「親米」を平気で共存させられるのだ。

ソウルトンボ
1977年生まれ、ソウル在住の韓国人ライター

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月17日 掲載