コメントだけを見れば、少し驚きの発言だった。8日。阪神は北谷公園野球場で中日と今キャンプ初の対外試合を行った。

 4点のビハインドから中盤、6点を奪って逆転に成功。再び同点に追い付かれた後の九回には、北條が決勝アーチを放って勝利した。得点力不足に泣いた昨シーズンを考えれば、まだキャンプ序盤の練習試合とはいえ上々のスタート。そんな試合後、矢野監督が少し驚きの言葉を発した。

 「ジャンケンできょうは決めたんだけどさ。どっちでもいいと言ったら怒られるけどね。理想的なショート争いをしてくれたらね」

 2020年のオープニングゲーム。指揮官は「2番・近本」にこだわったが、それ以外は井上打撃コーチに一任した。その中でショートは“運”に委ねた。勝ち取った木浪が2安打3打点と活躍すれば、「9番・DH」で出場した北條は試合を決める劇的アーチを放つのだから、面白い。そんな筋書きのないドラマが、シーズンに向けて胸を躍らせる。

 一方、投手陣に目を向ければ、8日の中日戦に秋山、9日の日本ハム戦には藤浪が先発した。同戦は斎藤佑との甲子園V右腕対決。そんな粋な演出を狙ったのかと思えば、福原投手コーチはサラッと言う。

 「別に誰が投げても…というかね。みんながマウンドに行けば、先発のつもりで投げてくれたらいい」

 決め手に欠けるのか、競争、成長による実力拮抗(きっこう)か。現時点では後者のようだ。密着で視察を続ける他球団のスコアラーが明かす。

 「選手個々のレベルは、かなり上がっていると感じます。競争の効果だと思いますね。かなり強いですよ、今年の阪神は」

 昨季94本塁打はリーグ5位。509打点、538得点ははいずれも同ワーストだ。広い甲子園球場を本拠地に置く球団。厳しい戦いを強いられるが、最下位脱出がチームの浮上に欠かせない。キーマンは「2番・近本」か。キャンプ、オープン戦を通じて適性を見極める方針。仮に近本を2番に回すことができれば、リードオフマンは争奪戦になりそうだ。指揮官は言う。

 「北條でも行けると思うし、嘉男だって。健斗、木浪、海も入ってくるかも。いろんな選手が入ることができる」

 糸井はオリックスに在籍した2016年シーズン、53盗塁で最年長盗塁王に輝いた。“イトチカ”盗塁王コンビの1、2番が機能すれば打って走ってと、初回から相手チームに脅威を与えることができるそうだ。

 今キャンプでは助っ人のマルテが、連日のように早出特守を行っている。三塁再挑戦で大山とポジションを懸け、激しく火花を散らしている現状だ。他ポジションも現状、固定されたメンバーは少ない。開幕投手は?4番は?そんな話題、予想も楽しい季節である。シーズンまで残り1カ月と少し。チーム内の激しい競争が、15年ぶりのリーグ優勝を後押しする。(デイリースポーツ・田中政行)