今年1月、プロ野球(NPB)、福岡ソフトバンクの王貞治会長の「野球界のためには、球団数は現在の12よりも16が望ましい。あと4つ新しい球団が誕生してほしい」という発言が話題を呼んだ。

 野球の普及やプロ野球の成長戦略のため、また、現在のクライマックスシリーズ制度の問題点などをクリアするためには、エクスパンション(球団拡張)が必要という意見は以前からあった。ただ、莫大な費用がかかるNPB球団の運営に名乗りを上げる企業が集まらない、NPBが新規参入に消極的といった事情を背景に実現しなかった。

 しかし、NPB「ビジネス」を取り巻く現状は大きく変わっている。かつての「人気球団・巨人を有するセ・リーグの活況と、パ・リーグの不人気」といった構図、「球団経営は儲からない」という言葉は、いまや過去の話。いくつかの球団は地域密着を軸に、さまざまな手段を用いて球団経営を改革し、質も数字も、昔とは比べられない別次元の「成功」を収めている。結果、球団拡張は地方都市に活況をもたらすと期待する声も増えた。

 本書『歴史に学ぶ プロ野球 16球団拡大構想』(安西巧/日本経済新聞出版)は、そんな状況を背景に、「もしNPBが4球団増、16球団になったら、どの都市が球団本拠地の有力候補となるか」について探りつつ、球団拡張の歴史そのものを、NPB誕生から実質的に最後で最大のエクスパンションとなった(東北楽天については、球団合併によるチーム減少に伴った新球団誕生であったので厳密にはエクスパンションとはいえない)1949年の2リーグ制導入までをまとめた1冊だ。

 新球団の本拠地候補の考察に関しては、手がたくまとまっている。現在の広島カープ、横浜DeNA、東北楽天、福岡ソフトバンク、北海道日本ハムといった地域密着を軸とする球団経営の成功例の要因まとめ。両リーグのフランチャイズ、地域バランス、スタジアム事情を考慮したうえで、挙げられた候補都市は、納得のいく地名が列挙されている。

 ただ、それ以上に本書の価値といえるのは、球団拡張の歴史の方だろう。事実、内容の3分の2程度はそちらにあてられている。「球界の歴史を知らずして、その拡張論を提唱するのは説得力を持たないと考えるからである」(本書より)という著者の言葉は正しい。成功例として前述した球団の中でも横浜DeNAや福岡ソフトバンクは、親会社が新興のIT企業だが、応援歌や復刻ユニホーム、イベントなどに招くOBなど、チームの歴史を理解、尊重してきた点が地域のファンから愛されている理由のひとつとなっている。日本のプロスポーツ界の中でも最も長い歴史を持つNPB。地域や球界関係者の理解を得る、スムーズに事を運ばせるうえで歴史の理解は不可欠だ。

 その点で本書は、球団拡張の歴史が過不足なくまとまっており、「学ぶ」という点では非常に役立つ。特に球団拡張に寄与してきた球団関係者や財界人が為した仕事や交渉の経緯は、プロ野球という「産業」の歴史としても興味深く読める。著者は日本経済新聞の編集委員。その経歴が活きているのかもしれない。2リーグ制成立までのNPBの歩みをより深く知りたいファンにはうってつけの1冊である。

文=田澤健一郎