「バイきんぐ」のじゃないほう芸人、西村さんの最初で最後の初エッセイです。小峠さんよりも先に書籍を出版。社内の反対を押し切っての刊行です。はっきり言って、売れる期待は全然していません。有益な情報はほとんどないですが、読むとほんの少しだけ元気がでます。

初心忘るべからず

 毎年夏の時期に単独ライブを行っている。

 ライブの一カ月くらい前から、スケジュールの空いている時間を利用して相方とネタ合わせをしている。空いている時間といっても僕の方はほぼガラ空きなので、正確には相方の空き時間に合わせてやっている。

 昔はよく公園でネタ合わせをしたものだけど、今は事務所の会議室やカラオケボックス、テレビ局の楽屋でやったりしていた。

 まれに相方だけ番組収録で、僕がそのテレビ局に伺って相方の楽屋でやるパターンもあった。

 この場合、何の収録も打ち合わせもない僕は、入り口で当然のように警備員に止められる。そりゃそうだ。

 ただでさえ顔を覚えられていない僕は、仮に収録があって来ていたとしてもなかなか通してもらえないことがあるというのに、入構証も持っていない、出演者リストにも載っていない僕など、ただの部外者に過ぎない。招かれざる客。

 警備員からしたら、オフの日にプライベートで、暇だからテレビ局にただ遊びに来ただけのサイコ野郎だと認識されたかもしれない。

 ネタ合わせは、まずはセリフを頭に入れるところから始める。僕は比較的覚えるのは早いがその代わり忘れるのも早い。

 一方、相方はその逆で、覚えるのは遅いが一旦覚えると、久しぶりにそのネタをやっても覚えていることが多い。

 ただ、最近の僕は覚えるスピードは極端に遅くなり、忘れるスピードも高速化してきているので、いっそのことただ突っ立っているだけでいいコントを作ってくれないかなと切に思う。

 今はこの単独ライブをやる期間しかネタ合わせをしないけど、昔はほぼ毎日のように会ってやっていた。もっと言うと、ネタ作りから二人で考えていた時期もあった。

 とはいっても僕の案の採用率は驚異の0割5分だ。プロ野球におけるピッチャーの平均打率にも及ばない。

 ネタを考える時は主にお互いの家やファミレスでやっていた。ファミレスではサーロインステーキセットのご飯大盛りを平らげ、5時間もの間ひと言も喋らずに帰ることもあった。

 ある時、相方の家でネタを考えていると、相方がたまに台所の方に消えて行って何かをチョンと触ってるのが見えたので、何をやってるんだろうと思ってのぞいて見ると、冷凍した豚バラブロックの塊を自然解凍させていたのだ。

 ネタ作りそっちのけで解凍具合が気になってちょいちょい触りに行くほど、肉に気を取られている相方は、今では絶対に考えられない。

 単独ライブのネタ合わせをしていると、こんな昔のことをいろいろ思い出して懐かしい気持ちになると同時に、初心を忘れてはいけないな、なんてちょっとだけ、ほんのちょっとだけ思ったりするのである。