「僕って、明らかにイロモノ枠じゃないですか」
彼は少し恥ずかしそうにそう語る。

 一人の独身男性を、職業、年齢、容姿、性格、様々な女性たちが奪い合う婚活サバイバル『バチェラー』の男女逆転版『バチェロレッテ』が10月からAmazon Prime Videoで配信された。初代バチェロレッテには、モデルやスポーツトラベラーとして注目されていた福田萌子氏が選ばれ、彼女の心を射止めるために17人の男性が集った。

(C) 2020 Warner Bros. International Television Production Limited

 最初のカクテルパーティーに集まった面々は、実業家や料理研究家、スーツテーラーなどキャリアはさまざまだが、みな華やかな容姿でどこか自信ありげな姿が印象的だ。その中で、ひとり遠くから眺めるばかりで、福田氏に近づくことすらできない男性がいた。現代アーティストの杉田陽平氏だ。

 きらびやかな空気感や他の男性陣の熱量に気圧され、始まる前から負け試合のような顔でソファに座っていた。

 そんな彼が、まさか最後の2人まで残るなんて、誰が想像しただろう。

 回を追うごとに、杉田氏の積極性は増し、新たな一面が垣間見え、視聴者からの声援も多く集めるようになった。間違いなく、今回のバチェロレッテで最もファンを作った男性でもある。今やバチェロレッテとしての杉田氏だけではなく、番組を通して彼の作品にも興味をもつ人々が増えているという。

 ダヴィンチ・ニュースでは、そんな杉田陽平氏の心のうちや今の彼を形作ったものを連載で掘り下げていく予定だ。今回はその第一回として、なぜバチェロレッテに参加を決めたのか、そして、なぜここまで残ることができたのか、杉田氏本人に問う。

1日にDMが2000通の日々へ

――バチェロレッテ出演による反響はいかがですか。

杉田陽平(以下、杉田):いやほんと、世の中いつ何が起こるかわからないですよね。僕がその証明ですよ。僕はもうすぐ37歳になるおっさんで、今までモテた経験もなくて、格好いい容姿なわけでも、鍛え上げられた筋肉があるわけでもない、モテ要素なんてひとつもない人間です。そんな僕に、Instagramだけで多い時で、2000通くらいのDMが届いている。

――2000通はすごいですね。具体的にはどういう内容が送られてくるんですか。

杉田:一番多いのは、応援コメントです。それが半分以上を占めているかな。それも気遣いがあって、番組を観ていて心動かされたから思わず送ってしまったけど、返信は不要です、というような内容が多い。他にも、作品も素敵ですね、とアート作品に関心をもってくれてどうやって購入したらいいかオーダーしてくれる人もいれば、画集の出版やラジオの出演依頼などメディアからの依頼もある。正直、そんな体験今まで一度もしたことがなかったから、自分でも信じられないです。

 思えば、15年前、2005年に初めて個展をしたんです。僕はまだその頃学生だったんですけど、ギャラリーの人がアーティストトークをしましょうと企画を持ちかけてくれた。席は30人分くらい用意して、ワインも準備して待っていたけど、当日来てくれたのはたった1人だけ。それも、誰も来なくて哀れに思ったスタッフがたまたま前を通り過ぎた通行人を連れてきただけで、その人は別に僕のアート作品に興味なんてありませんから途中で帰ってしまった。だから、30分くらい僕は無人の部屋でプロジェクターに自分の作品を映しながら説明をしていたんですけど。

――あ、そこで中止にはしなかったんですね。

杉田:そうですね。いつか公で自分が喋るときが来るかもしれないと思って、そのためのトレーニングのつもりで話し続けました。正直、スタッフの人は気味悪がっていたと思いますよ。でも、それがまわりまわって、どういうわけか今やアメブロは総合1位で毎日20万人くらいが僕の書いた話に耳と目を傾けてくれている。不思議な気分です。

一か八かでトゲの海に飛び込んだ

――反響が爆発的に増えたのはいつ頃からでしたか。

杉田:最初の、4話まで一気に配信されたあたりからですね。それまでのPR動画とかは、正直ほとんど反応がなく、同業者からも滑稽な存在として批判的に思われていました。

――そうだったんですね。

杉田:アート業界って、俗世間と一番離れたところに存在している世界なんです。一方で、恋愛は誰もがするもので、恋愛リアリティショーは俗世間を代表するようなコンテンツ。まるで対極に位置するようなところに、そのアート業界にプロとしてどっぷり属している僕がエントリーしたことで、「俺たちまでチャラく思われるじゃないか」とか「本業があるのに売名行為だ」とか「そんなことしている暇ないだろ」とか、色々と言われました。

――その、アーティストとは対極にある場所に飛び込もうと思ったのは、なぜですか。

杉田:第一に萌子さんへの想いがあります。

 その上で、誰しも、自分の全く知らないところに行きたい、という初期衝動ってもっていると思うんです。僕の場合は、学生時代にセミプロになってしまってから、ほかの商売を全く知らないまま生きてきてしまった。知り合う人たちはみんなギャラリーの人やコレクターの人、作家さんやその知り合い、と世界が狭かったんです。もちろんそこで出世して大御所になることを目標にするのもいいけど、たとえば大きな美術館で展覧会をするとしても、田舎の母親からしたらなんのことかわからないような、そんな閉鎖的な世界。

 それでいいのかなあ、というのはずっとあって。わからない人は放っておいて、わかる人に向けてだけやろう、ということを繰り返していたら、小さなパイをみんなで奪い合うギスギスした感じになってしまいますよね。僕はその小さな世界に風を吹き込みたかったし、その役割を自分が担ってみたかった。

――なるほど。

杉田:だから、一か八かですよね。何か事件が起こりそうな海に思い切って飛び込んで、何か得られたらいいなあって。そもそも、恋愛について真剣に考えるって、実は意外とみんなしていない気がするんです。普段恋愛するときって、仕事がまずあって、合間に恋人と会ったりする。いくつものコンテンツの中で動きながら、なるべく真剣に向き合いたいな、みたいな感じでやっているわけじゃないですか。でも、バチェロレッテの旅は、日常生活から離れて、ひたすら相手とのことだけを考える特殊な時間です。そういう機会がないと、僕は人に対しての向き合い方を真剣に考えないまま時が過ぎていきそうな気がしたんですよね。

批判されていたことが旅ではアドバンテージになった

――その海に飛び込んで、得られたものはありましたか。

杉田:今まで、心の底から自分のことを嫌いにならなくてよかったな、という気づきがありましたね。これまで自分を責めたりネガティブに思ったりすることはしょっちゅうありました。別に誰に強制されているわけでもないんだから、他の仕事をしたっていいわけです。でもやめられないまま今も続けている。それは、本当に心の底から自分のことを大嫌いになることができなかったから。自己愛がわずかにでもあったから。それが間違っていなかったんだな、と思えた。

――何をきっかけにそう思えたんですか。

杉田:僕からしたら、あの旅では普通のことしかしていないんです。他の人からは何かスペシャルなことをしているように言われることもあるけど、僕にとっては当たり前のことしかしていない。そういう自然体の自分として勝ち残ることができたのが、なにより自信につながりました。

 たとえば誰も傷つけないで、自分が思っていることを言う、というのも僕が普段から心がけていることです。よく人は、結束を固めるために仮想敵を作ったりしますよね。でも僕は、この旅に関係なく、昔から意図的に敵を作るようなことはしないできた。今回、男性陣はライバルだけど、誰のことも悪く言わない。男性のことも尊重するし、萌子さんのことも尊重するし、自分のことだって卑下しない。それで戦うことこそが本当のサバイバルだ、と思っていました。

 今まではそういう自分の姿勢は全くフォーカスされなかったし、むしろ「みんなにいい顔している」とか「本音を言っていない」と批判されがちだった。でもそれが今回はある意味強みになったと思います。

杉田:そういう生き方を貫いたからこそ、萌子さんとの絆も深めていくことができたし、男性陣たちとの結束も固くなった。僕は彼らから助けられたことがたくさんあるんです。彼らがいたから強くなれた。そういう彼らが、因果なことで僕よりも先に脱落してしまう。そしたら、その人の分もちゃんとしないとって思いますよね。

モテてこなかったからコミュニケーション能力が高まった

――回を重ねるごとに、杉田さんの表情が凛々しくなっていくのが印象的でしたが、そういった想いもあったんですね。お話を聞いていると、杉田さんは今までの人生でも生き方を一貫してきたんだなという印象を抱きました。

杉田:そうですね、それが捉えられ方によって、悪いように言われたり、今回のようにいいように思ってもらえたりするんだと思います。

 ほんと、僕って今まで全くモテてこなかったんですよ。たとえばマッチングアプリをしたとしても、正直にそのまま書いたら誰からもレスポンスなんてこないし、需要だってないでしょう。そりゃそうです。世の婚活中の女性は、将来を見据えておつきあいをしたいわけで、未来に確かな見通しが立つような人がいいはず。親に紹介しても恥ずかしくないような人がいい。それが世の中の正直なところじゃないでしょうか。まず職業カテゴリーに画家はないですからね。

 僕はそういうモテない中で、じゃあどうしたら相手に話を聞いてもらえるだろう、とか、モテてている人たちは、何が人に魅力に映っているんだろう、ということをたくさん考えてきました。だって、僕が出会う相手が僕の好みだったとしても、相手にとってはそうじゃないことの方が圧倒的に多いわけだから。なんとかして同じ土俵に立てるように、コミュニケーションの仕方をすごく考えるようになる。

――捉え方次第で、自分のダメな部分も強みに活きてくることもあるんですね。

杉田:萌子さんって、今までたくさんのスペシャルな立派な男性から言い寄られて来たような人だから、逆にそういう人達のスペックに微動だにしないんですよね。終始「格好いい。だから何? 年収が凄い。だから何? 背が高い。だから何? それであなたは?」みたいなスタンス。

 小手先の見栄などは直ぐに見抜かれてしまうので自然と自分を掘り下げるようになります。僕もそうです。そうすると、相手にプラスに働くかは別として、自分を掘り下げて考えて生きて来た事がその人にしか出せない色になるんです。普段ダメだと思って踠いていた部分が、今回たまたまプラスに働いたんですよね。きっと。

――環境を変えたら素敵な人間だと捉えてもらえたと。それは萌子さんだけではなくて、視聴者の方々の反応からもわかることですね。空前の杉ちゃんブームですから。

杉田:まあでも、今が特殊なだけで、シャボン玉のようなものかもとも思っていますよ。オーロラのように光って見えているのは僅かで、何日後かには消えてしまっているかもしれない。逆に、ずっとInstagramでDMがくるのを待っている日がくるかもしれない(笑)。何か変に勘違いしないで、自分らしく変わらずこれからもコツコツ活動できたら本当の意味で、自分が成長できたと言えるんじゃないかと思います。

取材・文:園田もなか 撮影:江森康之