『「その日」の前に』は、終末ケアを受ける20人の肖像と直筆の手紙で綴るラスト・インタビュー。特に目立つ人たちではない、多くは数日後にはこの世から去ることになる彼らがカメラにどのような表情を向け、何を話し、書いたか。「死」とはそして「生きること」とは何か。

Kim

もし誰かを愛していたら、自分から言うべき
誰かを愛していたら、その人にわからせるべき
明日は何が起きるか、わからないんだから

 死ぬのは怖くない。でも、死ぬためにやらなくてはならないことを考えると、怖い。

 何よりも自分自身を愛せるようにならなくては。自分を愛せるようになってはじめて、他の人を愛することができる。

― 生涯でいちばん愛した人は?

 マルコスという男。いわゆる運命の人。今日も彼と電話で話したわ。

 事情があって、彼はしばらく遠いところに行っているの。以前はなんでもいっしょにやった。本物の恋だった。いやこれからもずっとそう。誰と結婚したかは問題じゃない。彼と結婚しなかったのは、彼が遠いところに行ってしまったから。でも私はこれからも彼を愛し続ける。彼は私の心の中に、魂の中にいる。じつは、彼は刑務所にいるの。だから会えないのよ。

 彼以外の人とは心を通わせることができない。私は他の男と結婚していた。でもマルコスは私のもの、私はマルコスのもの。この結びつきは、出会った最初の日に感じた。

 私の唯一の悔いは、とてもいっしょにいられないような男と結婚したこと。

 何も考えずに結婚してしまった。二度とあんなことはしたくない。

 このことを除けば、人生に悔いはないわ。

 私は、誰も経験したことのないようなことを経験するために生まれてきたんだと思う。

 心配しすぎるのはよくない。心配したって、ストレスが溜まるだけで、何ひとつ変わらない。心配は脇にのけておいて、前に進むべき。

 友達が大勢いると思っていても、こういう病気にかかると、みんな遠ざかっていく。

 いっしょにいてほしいと思った人たちが、遠くに行ってしまう。

 誰もが「かわいそうに。きっと良くなるよ。心配しないで」と言うけれど、電話もしてこないし、メールもくれない。病人には関わりたくないのよ。まるで私が伝染病にでもかかったように。ほとんどの人がそんな感じ。彼らは恐れているのよ。何を恐れているのか、私にはわからないけれど。でも、仲よくなるなんて夢にも思っていなかった人たちが、そばにいて、助けてくれる。全然予想もしていなかった人たちがね。

 どうしてなのか、いまでも考えているけれど、わからない。

 友だちだったら、そばにいてくれてもいいじゃない。誰かが病気になったって、私だったら離れないわ。

 歯に衣を着せたような言い方は大嫌い。ストレートな性格だから、こういうふうに、なんでもはっきり言うのよ。

 ママも子どもたちも、私のことを覚えていてくれると思う。私は誰に対しても思いやりの心があるから。私はそれをはっきりと表にあらわすの。そうすべきだと信じている。

 心の中に秘めておくのはよくない。いつまで生きられるのか、わからないんだから、もし誰かを愛していたら、自分から言うべき。誰かを愛していたら、その人にわからせるべき。

 明日は何が起きるか、わからないんだから。あのドアから出て行って、それでおしまい。

 これから何が起きるか、わからないでしょ。

 人生には楽しいことがたくさんあるのに、誰も楽しんでいない。

 神様はたくさんのものを作ってくれたのに、誰もそれを利用していない。

Kim’s letter
キムの手紙

 怖い。ひとりでいるのが怖くて仕方がない。

 絶望している。もう終わりという感じ。

 こんなことになるなんて、私が何をしたというのかしら。

 生きているのが辛い。

 怒りが湧いてくる。死ぬことは怖くない。

 生き続けるためにしなくてはならないことが怖い。

 時々、死ぬほうがよほど楽だと思う。

 みんなをがっかりさせたくない。

 子どもたちの重荷になりたくない。私の世話なんてせずに、人生を楽しんでもらいたい。こんなのは人生じゃない。

 

 クソよ。ああ、落ち込む。

 これまでいつも人生を愛してきた。子供たちに会いたい。

 私には子どもがすべて。

 もう魂もなくなってしまったような気がする。

 魂や、人生にたいする愛がどんどんなくなっていく感じがする。

 なくなってほしくない。

 楽しいことがしたい。自由になりたい。愛したい。

 心配も不安もない、そんな愛がほしい。

 大きな山の上で叫びたい。

 その後で湖に飛び込んで、すべてを終わりにしたい。

キム