スマホ・SNSの犯罪はどんどん巧妙になり、デジタルに不慣れな人であっても無知ではいられない時代となりました。ではどうすればよいのか――。元埼玉県警捜査一課 デジタル捜査班班長が、スマホ・SNS、デジタル犯罪から身を守る方法をお伝えします。

SNSで自滅する人がやっていること

〇娘さん、息子さんは大丈夫ですか?

 スマホには個人情報がぎっしりと詰まっています。他人の目に触れないようにするには、これまで見てきたような方法で他人から見られないようにする必要があります。

 しかしいくらスマホのロック等を強化しても、あなた自身が自分の情報を外部に漏らしてしまえば意味がありません。

 ここからはSNSの利用にともなう個人情報の流出と、それを防ぐ方法について考えてみたいと思います。

 

 SNSで個人情報の流出が最も心配されるのは10代の中高生です。

 スマホの利用率は中学生で70.6%、高校生では97.5%(内閣府「平成30年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」2019年)。

 また10代のSNSの利用率は、LINE88.7%、Twitter66.7%、Instagram58.2%、TikTok39.0%、Facebook17.0%となっています(総務省情報通信政策研究所「平成30年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」2019年9月)。

 中学生では7割、高校生ではほぼすべての生徒がスマホを利用し、その多くがLINEやTwitter、Instagram、TikTokなどのSNSをやっていることがわかります。

 

 では、SNSを通じた情報公開について、彼らはどのような意識を持っているのでしょうか。

 これに関しては日本スマートフォンセキュリティ協会の「中高生スマホ利用傾向調査レポート」(2019年2月版)に興味深いデータがあります。

 中学3年生から高校3年生までの男女に個人情報の公開範囲についてたずねているもので、たとえば自分の顔写真については、以下のようになっています。

●「SNS経由で誰にも知られたくない」は男性59.2%、女性36.5%
●「SNSでつながっている一部の友達ならよい」は男性20.6%、女性36.4%
●「SNSでつながっている友達ならよい」は男性7.9%、女性17.3%

 加えて、このレポートでは、男女ともに学年が上がるにつれて自分の顔写真公開への心理的抵抗が少なくなる傾向も指摘しており、自分の顔写真をSNS経由で誰にも知られたくない中学3年生男子が64%なのに対して高校3年生男子は53%、中学3年生女子が45%なのに対して高校3年生女子は38%となっています。

 なお、この傾向は顔写真のみではなく、本名や誕生日などについても同様で、性別比では、男性より女性のほうが情報公開へのハードルが低いのが実態です。

 

 私もSNSの世界を見ていると、この状況を実感します。

 鍵をかけていない女子高生のSNSアカウントがかなり目立ちますし、「#女子高生」で画像を検索すれば、大量の自撮り写真などがヒットします。

 また、実名のアカウントではとてもできないような濃厚な投稿を匿名のアカウントで行なう「裏垢女子」や、家出をして泊めてくれる人を探す「家出少女」「神待ち」をする女子中高生も見受けられます。

 試しに「#裏垢女子」「#家出少女」「#神待ち」で検索をすれば、きわどい発言や危うい写真を投稿するアカウントが大量に見つかるはずです(こうしたアカウントは、出会い系や副業詐欺などを目的とした業者がやっているケースもかなりあります。安易に近づくと未成年者誘拐で逮捕されるか、反対に自分が犯罪に巻き込まれる危険性が高いでしょう)。

 

 ネットに対する安易な態度はとても危険です。

 さすがに最近では住所や電話番号までSNSに載せる人はほとんどいなくなりましたが、ではそれで個人情報が漏れないかというとそんなことはありません。

 よからぬ考えを持つ人間がその気になって見れば、本名や学校、自宅所在地などを簡単に類推できるような写真や書き込みが次々に見つかります。

 SNSへのそうした投稿は、言ってみれば、自分の個人情報をベタベタと貼り付けたプラカードを持って、渋谷のスクランブル交差点に立っているようなものです。

 しかもそれは実際には、渋谷の街中だけではなく、ネットで世界中の人の目に触れる可能性がある。それをやれと言われたら、実際にあなたはできますか?

 抵抗のある人がほとんどでしょう。しかし、実は多くの人が自覚のないままに、SNSではその恐ろしいことをやっているのです。

その気軽な投稿、個人情報がいっぱい!

 SNSで個人情報を自ら晒して犯罪に巻き込まれてしまう――これは、先ほどの意識調査の結果通り、中高生を始めとした若い世代が最も目立ちます。

 第1章のSTORY1では、親の投稿が原因で子どもが被害に遭う例を取り上げましたが、SNSにより慣れているはずの子ども自身の投稿もかなり危ういものが目立ちます。

 

 私の知るケースでも、女子高生が自宅で撮った制服の自撮り写真を、鍵をかけていないTwitterにアップしたところ、その1枚の写真をきっかけに自宅まで割り出され、ストーカー被害に遭った例がありました。

 そこでは、最初に次ページのような投稿をした結果、以下のような流れのことが起きていました。

①本人の知らぬ間に、かわいい女子高生の画像を集めたまとめサイトに転載

②そこで興味を持った男が検索を開始

③制服のリボンの色や縞模様の特徴をチェック。検索をかけて全国の高校の制服をまとめたサイトから似ているものをリストアップ

④写真左側のお守りが、関東地方の某県にある有名な神社のものであることが判明。居住地もその県ではないかと推測

⑤さらに写真右側の背景に写り込んだものは大学の過去問と特定。都内の某大学志望であることを把握

⑥お守りを買った神社の情報から、高校をさらに数校に絞り込み

⑦今度はTwitterの別の過去投稿を調べ、友人とのリプライのやりとりから、彼女の名前、通っている塾の名前、飼い犬の名前、彼氏がいないことを把握

⑧「●●線止まった」という平日の投稿を見つけて通学路線を特定。

 その沿線に彼女のような制服の高校は1校しかないため、学校を某県立高校と確定し、毎朝使用している学校の最寄り駅も自動的に判明

⑨「部屋から見える夕焼け」という風景写真とともにアップされた投稿に着目。

 写真に写り込んだゴルフ練習場のネット(ゴルフ練習場は数が少ないので場所を特定しやすい)から、彼女が利用する電車の沿線にあるゴルフ練習場を検索。

 日の沈む西の方角にゴルフ練習場が見えることから、彼女の自宅の場所の範囲に当たりをつける

⑩「塾帰りにコーヒー買ってみた。最近飲めるようになったー♥」という写真に写り込んだ大手コンビニの看板に書かれている文字から「●●3丁目店」と店名を特定。生活圏を一気に絞り込み

⑪「雷やばい 家の近くに落ちたと思ったらいきなり停電」という投稿を見つけて、電力会社のホームページからその投稿の日に停電のあったエリアの情報を確認。⑩までの情報と照合し、さらに範囲を狭める

⑫「歯痛くて隣の歯医者さんに行ってきた」という投稿から、⑪の停電エリア内にある歯医者を検索。対象となり得るのは2軒しかないことが判明

⑬「裏のマンションで火事。怖い」という投稿を見つけ、これまで絞り込んできた情報をかけ合わせて、「#●●市●●町」「#マンション」「#火事」などをSNS検索。すると写真付きでマンション名がヒット

⑭このマンション名をネットで検索、「●●市●●町●丁目●番」と住所も特定。候補に挙がっていた2軒の歯医者のうち一つがそのマンションと背中合わせであることも確認

⑮彼女の家は「歯医者の隣」なので、グーグルマップに歯科医院の住所を入力。ストリートビューで両隣をチェックし、左隣の一軒家の表札から彼女の名字を発見

 こうしてSNSとネットだけで彼女の自宅を突き止めた男は、彼女の監視を本格的に開始。ある日、Twitterで「これから図書館で勉強」という投稿を見つけて居場所を確認すると、偶然を装い初めて接触します。

 以後数カ月後に逮捕されるまで、一方的に執拗なストーカー行為に及んだのでした。

 このケースでは、

①SNSのアカウントに鍵をかけていなかった
②そのアカウントで自撮り写真や個人の特定につながる情報を投稿した

 この二つのことが男のストーカー行為の引き金になりました。

 まず、そもそもアカウントに鍵をかけていれば、彼女の写真がおかしなサイトに転載される可能性は大幅に減ったはずです。

 その後の個人情報の漏洩やストーカー被害もなかった可能性が高いでしょう(ただし、見ず知らずの人からのフォローを許していれば、鍵をかけていても危険に晒されていることに変わりはありません。また、投稿内容をダウンロードやスクリーンショットした友達が転載すれば、鍵をかけていない状態と同様の危険があります)。

 

 さらに言えば、アカウントの鍵のみならず投稿する写真や動画に写り込むものへの警戒度も上げなくてはいけません。

 近年、中高生はTwitterよりも、InstagramやTikTokに移行しているとも言われていますが、その分、Twitter以上にInstagramやTikTokにおいて、不用心な投稿が多く見られます。

 これらのSNSに投稿されている画像は、高校名や学園祭・体育祭のハッシュタグ、地元のお祭り、イルミネーション、飲食店の写真等々から、容易に生活圏を割り出せるものが少なくありません。中には特定するまでもなく丸わかりのものさえあります。

 

 最近は、SNSで話題になった少女が芸能界デビューするようなケースもあり、中高生がアイドルのようにこぞって鍵をかけずに写真や動画をアップしています。

 しかし、活躍するアイドルとの違いは危機意識です。中高生の投稿に無防備なものが目立つのに対し、アイドルの投稿は危険がないかどうかを事務所が管理しています。

 もし、SNSを使って人気を得たいと考えるのならば、それに見合う警戒心も持っていただきたい。そうでなければ、夢を食い物にされてしまうこともあり得るのです。

 SNSは一気に世の中に拡散させられる分、諸刃の剣であることもよく意識して、安全と危険の境目を十分に見極めましょう。