あなたは、「青い鯨(ブルー・ウェール・チャレンジ)」というゲームをご存じだろうか。

 それは、2017年頃、ロシアで誕生したとされる自殺教唆ゲーム。「管理者からSNSを通じて送られてくる指示にひとつひとつ従っていくだけ」というこのゲームでは、プレイヤーたちは、最終的には自殺を指示され、その多くが本当にその指示に従ってしまうのだという。「自殺の指示に従う人間などいるわけがない」「そんなの都市伝説だろう」と誰もが思うだろう。だが、ロシアでは、このゲームを原因とした未成年の自殺が相次ぎ、2016年には若年層の自殺率が57%増加したとも言われている。さらには、このゲームは、世界各国へ広がりを見せ、社会問題化しているというのだから驚きだ。

 この実在の事件をモチーフにした物語がある。それは、斜線堂有紀氏による『恋に至る病』(メディアワークス文庫/KADOKAWA)。150人以上を自殺へと導いた少女と、そんな彼女を愛し抜いた少年の物語だ。どうして彼女にかかわった多くの少年少女たちは、自殺という道を選んだのか。読み終えても、しばらく鳥肌が消えない。暴走する愛と連鎖する悲劇を描いたこの作品は、あまりにも衝撃的だ。

 主人公は宮嶺望。彼の恋人・寄河景は、誰からも愛される学校中の人気者だ。白い肌。茶色がかった瞳。子供にしては低く、大人にしては高い、楽器のように伸びやかな声…。だが、彼女は「優秀な女子高生」として生活する裏で、自殺教唆ゲーム「青い蝶(ブルーモルフォ)」を運営していた。景は、「青い蝶」のゲームマスターとして、各プレイヤーたちに、50日間にわたって、それぞれの特性にあった指示を与える。そして、最終的にプレイヤーたちは景からの最後の指示に従い、自ら命を絶つのだ。優等生だったはずの彼女がどうして殺人鬼へと姿を変えたのか。望は、2人の運命を狂わせた“最初の殺人”を回想し始める。「世界が君を赦さなくても、僕だけは君の味方だから」…。変わりゆく彼女に気づきながら、愛することをやめられなかった彼にはどんな運命が待ち受けているのだろうか。

 日々の生きづらさ。人生の行き詰まり。誰からも理解されないのだという孤独…。追い詰められた時に、もし、誰かに手を差し伸べられたとしたら、ついその手にすがりついてしまうのが、人間という生き物だろう。寄河景が「青い蝶(ブルーモルフォ)」で行った手法はあまりにも巧み。まずは、孤独を抱えたプレイヤーたちに共感を示し、その心に寄り添う。次に簡単な課題を、なれてきたら、睡眠時間を削らせ、判断力を奪わせるような課題を与える。そうして、思考力が低下した彼らに、死んだ先には楽園が待っているのだと説いていくのだ。すると、彼らは幸せそうな顔をしながら、50日後には自殺を実行する。指示に流されて、自殺してしまうような人間は生きている価値などないというのか。この物語が実在の事件に基づいていると考えると、ますます恐ろしさに震えが止まらなくなる。

 自殺教唆ゲームの運営に次第に疲弊していく景と、そんな彼女に対して複雑な思いを抱える望。あなたも2人の結末を見届けてほしい。生きるとは何なのか。死とは。そして、愛とは…。読み終えてからしばらくたった今も、この衝撃は消えない。

文=アサトーミナミ