どんなに有名な大企業だって、不適切な広告を打ち出してしまうことがある。たとえば、女性を応援するはずが、「男は働き、女は家事をするもの」というジェンダー観を押し付けてしまったCMなど、炎上するものは決して少なくはない。どうしたら炎上を避けられるのだろうか。炎上するCMには何か法則性はあるのだろうか。

 東京大学教授・瀬地山角先生著『炎上CMでよみとくジェンダー論』(光文社)は、東京大学の大人気講義の番外編と言える1冊。読めば、炎上CMの構造を理解することができる本だ。瀬地山先生は、炎上CMを4つに分類する。CMの訴求対象は女性か男性か。炎上したポイントは、性役割についてか、外見・容姿についてか。それぞれの成功例・失敗例について解説してくれる。

 特に、一般に通用するつもりでいたが、男性の願望の表出となっていたという炎上パターンは、昨今、自治体のPR動画などでよく見られ、問題視されることが多いように思う。たとえば、三重県志摩市の海女のキャラクターとして制作された「碧志摩メグ」(2014年)は、「胸や体の線が強調されていて性的である」といった抗議の声があがり、公認撤回を求める署名運動にまで発展した。また、日本赤十字社が漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とコラボしたキャンペーン(2019年)は、同人誌を販売する日本有数の大規模イベント・コミックマーケットでは好評だったが、新宿駅東口に貼られたポスターが発端となり、炎上した。どちらも、広告のターゲットは若い世代。しかし、公的な自治体や団体のものである以上、訴求層は社会一般であるはずなのに、男性にのみ訴求するような表現方法を選んでしまったことが問題視されたのだ。

 こうして考えてみると、一般に通用する内容で、かつ、発信力をもたせるというのは、かなり難しそうだ。この領域で成功するには、NHKテレビ番組「チコちゃんに叱られる!」の「チコちゃん」のように、性別があまり意味をもたない存在でなければ難しい。

 公的な存在でありながら、キャラクターに女性性をもたせた数少ない成功例といえるのは、北九州市の「バナナ姫ルナ」だ。バナナ姫ルナは、門司港バナナをPRするために誕生した「バナナの妖精」を、2016年に市の観光課所属の女性職員が自らコスプレをして三次元化したもの。コスチュームの露出は控えめで、どことなく手作り感があり、コミケにいてもおかしくはないが、日本赤十字社の宇崎ちゃんのキャンペーンとは異なり、バナナ姫は大きな反発は食らわなかった。バナナ姫は生身の女性が「女性の愛らしさ」を利用し、メディアでも注目されながら、反発は受けることなく、結果としてギリギリの線を守っているという意味でかなり珍しい事例といえそうだ。

 この他にも、この本では、さまざまなパターンのCMについて、その成功例と炎上例があわせて紹介されている。どのようにすれば、ジェンダーによる炎上を防ぐことができるかを考えさせられ、ビジネス書としても参考になる。CM・広告を決める権限をもつ人は必読。さまざまな立場の目線から検証を重ね、誰かを「不愉快」にしてしまうCM・広告が世の中から減ることを願うばかりだ。

文=アサトーミナミ