小説家・真梨幸子氏には、「イヤミスの女王」という肩書きが良く似合う。『殺人鬼フジコの衝動』(徳間書店)や『女ともだち』(講談社)など、人間のドロドロした部分をこれでもかというほどしっかりと描き切った代表作にファンは背筋をゾクっとさせられている。

 そうした作風だからこそ、新作『縄紋』(幻冬舎)の書籍名を目にした時、驚いた。歴史小説なんて、意外だなと思ったのだ。しかし、読み進めていくうちに、その考えがあまりにも短絡的であったと痛感した。歴史、ファンタジー、イヤミスのすべてがねっとりと絡み合う、この世界観…。これは、一体何というジャンルの小説なのか。そんな思いにとらわれた。

過去と現在を繋ぐ、謎の作品「縄紋黙示録」

 フリーの校正者・興梠はある日、「黒澤セイ」という素人が執筆した自費出版作「縄紋黙示録」の校正を請け負う。“縄「紋」時代”の説明から始まり、次第に作者の身の上話やファンタジーが綴られていく「縄紋黙示録」…。これは一体、何のジャンルに当てはまるのか。そう思い、ゲラに添付されていた指示書を見ると、そこには「預言書」の文字が記されていた。

 不思議な魅力を感じ、さらに読み進めていくうちに、千駄木貝塚でかつて発見された縄文人の人骨と去年起きた「千駄木一家殺害事件」には共通点があると気づく。

 民家の庭から、頭だけ出して埋められた男性の死体が発見され、その傍らに切断された女児の脚があった「千駄木一家殺害事件」。犯人は被害者男性の妻、五十部靖子。女児は2人の娘だった。五十部は夫の首から下を大量のゴミで埋め、娘の頭部はシチューと一緒に鍋で煮込んだのだ。

 千駄木貝塚の人骨と一家殺害事件に共通するのは、どちらも男性の頭だけを出して埋められていたという点。そこに奇妙な繋がりを感じた興梠は、歴史に明るいかつての同僚・一場直樹に協力を依頼。共に校正を進めていくことにした。

 その過程で、2人は五十部が事件発覚後に訪れた場所が、縄文人の人骨が発見された場所の近くであることをしり、現地に行ってみることに。ところが、現地で興梠は意識を失い、以後、おかしな言動を見せ始める。

 さらに、「縄紋黙示録」に関わった人々の周囲では、次々に奇妙なことが起きて――…。果たして、作者の正体や「縄紋黙示録」に隠されたメッセージとは…?

 時折、地図を交えながら謎が明かされ、また新たな謎が浮かびあがってくる本書は東京・文京区を舞台に過去と現在、そして未来までもが絡み合う大長編。作中の「縄紋黙示録」は、謎が多い。禍々しい念のようなものを感じるたび、この本は一体なんなのだろうと考えさせられ、ページをめくる手が止まらなくなるのだが、それは本書にも通ずること。どこか毒されたこの世界観を、もっとしゃぶりつくしたいと願ってしまう。400ページを超える長編作なのに、中断したくないと思えるおもしろさがあるのだ。

「小説」という言葉では語りつくせない魅力を秘めた、本作。これはイヤミスの女王にしか描けなかった“縄紋ミステリー”…いや、新感覚の預言書であるのかもしれない。

文=古川諭香