『君の名は。』の新海監督も個人製作でデビュー…映画の個人製作・個人配給時代が来る!?

『君の名は。』の新海監督も個人製作でデビュー…映画の個人製作・個人配給時代が来る!?

=平辻哲也/Avanti Press

常識破りの新手法!個人製作・個人配給で映画界が変わる!?

個人製作、個人配給という、日本の映画界の常識を打ち破るスタイルで世に映画を送り出す映画監督がいる。『映画監督外山文治短編作品集』として2作の短編を、8月26日から東京・渋谷のユーロスペースで限定2週間レイトショー公開する外山文治監督だ。出演者の交渉から、チラシ配りまで、すべて監督自身が担当するが、ただの自主映画ではない。『春なれや』の主演は大ベテランの吉行和子で、村上虹郎も出演。『わさび』の主演は、NHKの朝ドラ「べっぴんさん」のヒロインを務めた芳根京子。昨年、アニメ『君の名は。』で大ブレイクした新海誠監督も、個人製作が出発点。この新手法が映画界を変える。

昨年7月に公開され、興収約250億円の大ヒットとなり、社会現象となったアニメ『君の名は。』。その監督、新海誠氏は元々、ゲーム会社勤務のサラリーマン。その傍ら、監督・脚本・演出・作画・美術・編集、声まで担当し、フルCGの短編アニメを製作。『ほしのこえ』(2002年)が星雲賞などを受賞して注目された。かつては手書きだったアニメも、昨今のPCのスペックの向上により、技術や作業効率が向上。個人製作でも、大手にも引けを取らない作品が増えてきた。

こうした個人製作を実写で実現しているのが外山監督だ。1980年9月、福岡県出身の36歳。日本映画学校(現・日本映画大学)を卒業し、老老介護の厳しい現実を見つめた短編映画『此の岸のこと』がアメリカ、スイス、カナダなど海外の映画祭でも上映され、「モナコ国際映画祭2011」で短編部門の最高賞にあたる最優秀作品賞など受賞。2013年、「SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ」の支援を受け、吉行和子を主演に、シルバー世代の恋愛を明るく描いた『燦燦 -さんさん-』で長編映画監督デビューを飾った。

新鋭・外山文治監督が手掛ける短編『春なれや』『わさび』

『春なれや』(20分)は、熊本県菊池市を舞台に、“ソメイヨシノは60年以上、咲くことが出来ない”という話の真偽を確かめようと、若き日に学校の庭に植えたソメイヨシノを見に行こうとする老女(吉行)と、彼女を案内する若者(村上)の物語。主演は親交のあった吉行を当て書きしたが、若者役には、主演映画『二度めの夏、二度と会えない君』(9月1日公開)など今年も4本の映画に出演するなど人気急上昇の村上にオファーした。

一方の『わさび』(30分)は粉雪舞う飛騨高山を舞台に、心の病によって働けなくなった父親に代わって、寿司店の後を継ごうとする女子高生の姿を描く。こちらはNHK連続テレビ小説「べっぴんさん」でヒロインを務めた芳根京子が主演。ほかにも、富田靖子がヒロインの母親役、下條アトムが野球チームの元監督役を務めている。

撮りたいものを思い通りに撮るために——「直筆の手紙も書きました」

デビュー後は、商業映画界に身を投じるのが普通だが、外山監督は自主製作による短編映画を選んだ。「いくつか長編映画を撮らないか、との声もかけていただいたんですが、それが自分が撮りたいものかどうかと考えると、違ったんです」。昨今、主流の製作委員会方式による大手映画を見ると、人気コミックを原作にした娯楽作ばかり。しかし、外山監督がやりたいことは自身のオリジナル脚本による作品だった。

短編映画は新人監督の登竜門的な存在として見られている。また、製作費も多くはなく、劇場公開も難しいのが現状だ。そんな短編作品にどうやって、人気俳優、女優やベテランを引っ張り出せたのか。

「出演して欲しい俳優さんに直筆の手紙を書きました。製作体制について事情を説明した上、まずは台本を読んでください、とお願いしました。つてがあった場合もありましたが、ない場合は事務所にアプローチです。芳根さんは既にTBS系の連続ドラマ「表参道高校合唱部!」で主演をされていました。朝ドラが決まる前ですね。タイミングがよかったです」

映画監督という“生き方”

今回の2本と、老老介護をテーマにした『此の岸のこと』(2010年、30分)と併せて、劇場公開することを決めた。劇場探し、チラシやポスター作り、ホームページの基本的なデザイン、試写会の手配、映画館へのチラシ置きまで。すべてのことを自身でやっている。「プロにお願いしたら、100万円はかかると聞いて、それなら、自分でやった方が思った通りにできるかな、と」

昨今、演出希望の若者の中には、あえて監督を目指さない人が増えているという。その理由は、監督では生活できないから、というものだ。大手映画の助監督チーフクラスになれば、年間3〜4本を担当して、年収800万円程度を稼ぐことができる。しかし、監督は個人差はあるものの、年間1、2本、年収300〜400万円。中には『野火』の塚本晋也監督のように、家を抵当に入れて、製作費を捻出する人もいる。映画監督は単なる職業ではなく、覚悟を決めた“生き方”のようにも思える。

「生活は不安定ですし、大変なところもありますが、それでも映画監督にこだわっていきたい」と外山監督は話す。今後も、こうした個人製作・個人配給を続けていくのか。

「そうですね。ただ今回やってみて分かるのは、“映画は一人では作れない”ということでもあります。撮影、上映でも多くの人に助けられました。春と冬の話を撮ったので、あと2つ、季節をテーマにした短編映画を撮りたいという思いもありますが、長編をやりたい。現代版ロミオとジュリエットのようなオリジナル脚本を書き上げています」

実写映画でも、『君の名は。』のような旋風を巻き起こせるか。

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