オッサン3人の人生を描く『半世界』は、なぜ観る者の心を震わせるのか

オッサン3人の人生を描く『半世界』は、なぜ観る者の心を震わせるのか

古くは『俺たちは天使じゃない』(1955年)、その後も『サボテン・ブラザース』(1986年)、『ハングオーバー!』(2009年)、『きっと、うまくいく』(2009年)、また昨年公開された『30年後の同窓会』(2017年)と、男3人が主人公の映画には、硬軟取り混ぜ多くの傑作が存在する。

なかでも男3人の幼なじみが久しぶりに再会し、現在進行形のドラマと同時に各々の過去が明かされ、人生の滋味深さが浮かび上がってくる傑作が、クリント・イーストウッド監督の『ミスティック・リバー』(2003年)だ。そして阪本順治監督の新作『半世界』は、『ミスティック・リバー』と同じ構造を持つ、3人の男の物語だ。

稲垣、長谷川、渋川が演じる幼なじみ3人組

稲垣吾郎がこれまでの華やかなイメージを覆す地味な田舎の炭焼き職人の絋(こう)、今や全国的な朝の顔になった長谷川博己がどことなく影のある元自衛官の瑛介、名バイプレイヤーの渋川清彦は父が経営する中古車販売会社で働く光彦を演じ、瑛介が8年ぶりに故郷に戻ってきたのを機に、3人の幼なじみが久しぶりに顔を合わせる。本作はその再会からの3か月を追いながら、同時に3人の過去を少しずつ明らかにし、39歳の不惑を前にしたオヤジたちの友情と心の葛藤を描いている。

男3人が主人公の映画に共通するのは、3人の絶妙なキャラクターの違いによる、気の置けないやり取りの面白さだろう。本作も真面目で頭が固い絋と明るいムードメーカーの光彦の、何気ない会話に何度も笑わせられる(もっとも石橋蓮司の演じる光彦の父が、それ以上の爆笑を誘うのだが!)。

少年時代との対比で浮かび上がる人生の切なさ

また幼なじみという設定には、それ自体に時の流れを感じさせるノスタルジックな切なさが伴う。そこには少年時代特有の純粋さと屈託のないバカさがあり、それは大人になってから知る社会の厳しさとの対比によって、より一層人生の機微が浮かび上がってくる。

そして本作は、そんな切なさが感じられる人生の物語を、より重層的で力強いものにする、骨太で社会的な視点も持っている。それを体現しているのが、久しぶりに帰郷しながらすっかり無口に変わってしまった瑛介の存在だ。中学卒業後すぐに自衛隊に入隊し、海外派遣も経験した彼に一体何があったのか? そんなミステリ小説のような謎が物語を前へと進めていく。

何度か二人と会ううちに、感情を見せなかった瑛介の顔に少しずつ柔らかな表情が戻ってくる。同時にその表情の向こうに、日本では目隠しされてしまう世界の現実が少しずつ冷徹に炙り出される。

映画は瑛介が体験したそんな不条理な“世界”と、絋と光彦が留まり地道に生きてきた一地方都市の“世間”を結び、その違いと繋がりの意味を観る者に想像させ、強く胸を打つ。そしてそれが本作の不思議なタイトルにも通じているのだ。

物語に奥行きを加える池脇千鶴の名演

本作は男の友情物語と並行して絋と家族との関係も丁寧に描いて、作品に奥行きを加えている。絋は忙しい炭焼きの仕事を言い訳に、家のことをすべて妻の初乃に任せている。学校でイジメられている反抗期の息子の明にも関心を持つことなく、それが明にもバレていて、親子の仲はギクシャクする一方だ。

そんな夫を上手く盛り立てながら家族を支え、3人の男の潤滑油にもなる重要な役割を果たしているのが初乃だ。その飄々とした言動と絶妙な表情に、そこはかとなく深い愛情をにじませて、演じる池脇千鶴の素晴らしさと相まって大きく心を揺さぶられる。

炭焼きの作業そのものをエンタテインメントに

そしてもう一つの主人公とも言えるのが、炭焼きそのものだろう。本作では炭を作るというあまり陽の当たらない仕事の工程すべてを、原木を伐採するところから違和感なく物語の中に溶け込ませて丁寧に描いており、それ自体が単なる好奇心を超えた見事なエンタテインメントとして、面白く観ることが出来る。

またそのことは音楽にも反映されている。風光明媚な伊勢志摩の海と、ピアノとマリンバや弦楽器を中心としたアコースティックな響きが一つになり、その中に備長炭が触れ合う意外なほど透明感のある音を取り込み、それを物語同様に違和感なくアンサンブルに溶け込ませた美しいスコアを聴かせてくれるのだ。

オリジナル脚本による阪本順治監督の新たな代表作

本作は阪本監督の26本目の作品だ。これまでテーマや規模によってさまざまなジャンルの作品が多彩なスタイルで撮られてきた。中でもデビュー作『どついたるねん』(1989年)や『鉄拳』(1990年)、『大鹿村騒動記』(2011年)、そして『団地』(2015年)など、原作モノではない本人のオリジナル脚本による中規模な作品に、特に個性豊かな傑作が多いのではないだろうか。

もちろん宇野イサム脚本の『顔』(2000年)など、例外の傑作もあるが、それらすべてに共通するのは、人間の尊厳を追い求める崇高な厳しさと、行き過ぎた資本主義の世の中から忘れさられていく市井の人々に対する眼差しの温かさだ。

本作も阪本監督本人のオリジナル脚本による作品で、新たな代表作となるだろう。そこに描かれた多くのエピソードはある出来事に向かって収束し、登場人物は皆それぞれの人生を見つめ直すことになる。

そしてエンドロールでスクリーンに映し出される一人の男の颯爽とした姿に、誰もが心を洗われることだろう。そしてもし阪本監督作品の初期からのファンであれば、その姿に思わずニヤリとするに違いない。

文=圷滋夫(あくつしげお)/Avanti Press


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