常盤貴子を「大人の女優」にしたのは誰なのか?

常盤貴子を「大人の女優」にしたのは誰なのか?

日仏友好160年にあたる2018年、パリにある映画の殿堂シネマテーク・フランセーズなどで日本映画の大規模回顧上映「日本映画の100年」が開催された。東陽一監督『だれかの木琴』(2016年)と大林宣彦監督『花筐/HANAGATAMI』(2017年)の上映時には常盤貴子がトークイベントに参加した。

常盤は約19年ぶりにTBS系「日曜劇場」枠に主演復帰したドラマ「グッドワイフ」での好演が話題となったが、そこで語られた言葉の数々から、主戦場を映画に移して“表現すること”に貪欲に向き合った時間が今につながっていることが明かされた。

連ドラの女王抱いたテレビ界での疑問

「日本映画の100年」は、1920年代から現代までに制作された日本映画を、日仏の専門家によって選ばれた119作から辿るもの。「日本映画の発芽」、「日本映画再発見」、「現代監督特集」の3部構成で、常盤が登場したのはオーラスの「現代監督特集」。常盤の女優人生においても東監督と大林監督との出会いは大きかったようで「インディーズの王様のような監督と仕事をしてきたらそっちの方が面白くなってしまって。メジャーの仕事に戻りづらいです」と笑う。

そう、1990年代後半から2000年前半まで、常盤はメジャーの中でもど真ん中を歩んでいた。豊川悦司演じる聴覚障害者と恋に落ちる「愛していると言ってくれ」(1995年)、性的暴行被害のトラウマを抱えた女性という難役を演じた「真昼の月」(1996年)、難病に侵されて車椅子生活を送る女性とカリスマ美容師の恋愛劇「ビューティフルライフ」(2000年)など挑戦的な題材ながら高視聴率を叩き出し、ついた異名が“連ドラの女王”。

しかし、テレビの世界を突っ走っていたある日、テレビの世界での演技について、ふと疑問を抱いたという。

「なぜかというと、若い頃に勉強のために観ていた小津作品を思い出したんです。小津監督の映画に出演された俳優さんのインタビューを読むと、共通しているのが、例えば“ヨーイ、スタートと言ったら2歩前に出て、3秒経ったら上を見て、5秒間ボッーと眺めたら、出て行ってください”という演出だったというのです。リアルさを求められるテレビのお芝居とは違い、監督の言われたまんまでは人形みたいじゃないですか。なのになぜ人々は小津映画に魅了されるのか、それが不思議でしょうがなくて。私の中ですぐに答えは出なかったのですが、大林監督とご一緒させていただいた時にいろんなヒントが隠されていた。あぁ、これが小津さんの世界と共通する演技なのかもしれないと思ったのです」。

常盤貴子が見つけたもの監督たちとの出会い

常盤が大林監督と初めて組んだのが、北海道芦別市を舞台に、太平洋戦争終結直前にソ連軍侵攻で被害を受けた人々のドラマを描いた『野のなななのか』(2014年)。デビュー当時から大林作品への参加を熱望していた常盤の夢がようやく叶った作品だった。同作で常盤は、物語の鍵を握る謎の女性を演じた。

「そこで私は、“俳優が答えを出さない演技の方法があるのだ”ということを知りました。それまでやってきたドラマの世界では、私がどう思ったのかが重要でした。だけど大林監督の現場で、私ではなく、観客の皆さんがどう考えるのかが大事なのだということに初めて気づきました。小津映画の俳優たちに、私たちがいろんな想像を巡らせるのはそのせいだっただと分かったのです」。

続いて常盤に、刺激を与えたのが東監督だった。東監督といえば『もう頰づえはつかない』(1979年)で桃井かおり、『四季・奈津子』(1980年)で烏丸せつこ、『ザ・レイプ』(1982年)で田中裕子をと錚々たる女優陣に新境地を拓かせた伝説を持つ。『だれかの木琴』で常盤に与えた役も、自分を担当してくれた美容師(池松壮亮)にのめり込んでいく専業主婦・小夜子。感情をあらわにすることなく、淡々と静かに美容師に近づいていく様がユーモラスであり狂気であった。

「初めて東監督とお会いした時に言われたのが『お芝居をしないでくれ』でした。一瞬、女優に何を言っているのだろう? と思ったのですが(笑)、そうだ! 小津さんの芝居が出来るかもしれないと嬉しくなりました。監督に聞けばダメと言われるかもしれないので何も聞かずに、挑戦してみました。実際、この映画の面白いところは、小夜子という女性が何を考えているのか分からないところです。観てくださっている皆さんが、それを探っていくのが一番面白いじゃないかなと思います。とはいえ自分の中で何もないと(小夜子が)見えなくなってしまうので、自分の中ではこの瞬間(心に火がついた)かなというのはありますが、皆さんと共通していたらラッキーだし、全然違っていても構わないと思います」

その後常盤は、『花筐/HANAGATAMI』で再び大林作品に出演。昨夏に広島県尾道市などで撮影された新作『海辺の映画館−キネマの玉手箱』(年内公開)にも出演しており、今やすっかり大林組の常連俳優だ。

「本当にやりたいものだけを」演者としての新たな世界

最近の仕事選びの変化について問われると「年齢を経てきたので、そんなに頑張らなくてもいいじゃないですか。なので、本当にやりたいものだけをやらせていだだいています。特に最近は一つ一つの作品を撮っても大事にするし、自分がすごくやりたいと思ったものだけをやっているので物凄く愛があるし、現場も面白いと思っているので、とてもいい環境にいます」と穏やかな笑みを見せた。

当然、その“やりたいと思った仕事”には好評のうちに放送を終えた「グッドワイフ」も含まれている。

「それまでテレビの限界を感じていたところに、インディペンデントの仕事をやってしまったもので、そこがあまりにも自由で楽しくて。監督の頭の中を再現する、一つの道具になれる自分が楽しくなってしまったんですね。それを覚えてしまった自分がテレビの世界に戻れるかなと心配していたのですが、これはこれで楽しいなと思いながら演じています」

トップランナーとして走り続けたからこそ見えてきた演者としての新たな世界。美貌だけではない、鍛え上げられたインナーマッスルが並の女優とは違うのだ。

文=中山治美/Avanti Press


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