世界最強神話崩落? 社員の不満渦巻く日産、自前主義を捨てたホンダ

世界最強神話崩落? 社員の不満渦巻く日産、自前主義を捨てたホンダ

 日本の自動車業界の危機が迫っている。トヨタはEV化に出遅れ、戦略的に動く中国の猛追を危惧しているが、日産、ホンダも問題を抱えている。ジャーナリストの井上久男氏が、その実態に迫る。

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 日産自動車は着々と拡大戦略を進めている。日産・ルノー・三菱自動車の3社連合の中期経営計画「アライアンス2022」を発表、グローバル販売台数を22年までに1400万台に増やすことや、運転手のいない完全自動運転車を投入する野心的な考えを表明した。

 カルロス・ゴーン氏は今春、日産社長兼CEOを退任し、日産と三菱の会長、ルノーの社長兼会長を兼任した。3社連合の中長期の戦略を練る仕事に集中し、社内では「アライアンス(連合)会長」と呼ばれる。

 3社連合の17年1〜6月のグローバル販売台数は前年同期比7%増の約527万台。VWとトヨタを抜き、初の世界1位となった。ゴーン氏が最も重点を置くのが相乗効果の創出。共同購買や設計の共通化などで、現在は3社で年間50億(約6500億円)の相乗効果を生んでいる。それを年間100億(約1兆3千億円)まで拡大するという。

「自動車革命が近づきつつある」と語るゴーン氏。相乗効果で捻出した資金を、生き残りに必要な次世代技術に投入する考えだ。無人運転車両の配車サービス参入に加え、カーシェア事業も強化。日産は「モビリティ(移動)サービス会社」に生まれ変わろうとしているように見える。

 一方、強気で野心的な戦略には暗雲も立ち込める。9月末に発覚した「無資格者検査問題」だ。日本の規制に反する行為であって、世界市場への影響はない。むしろ、ゴーン氏の後任の西川(さいかわ)廣人社長の統治に、揺らぎが見え隠れすることのほうが問題だ。西川社長への「抵抗勢力」が社内に生まれているようだ。

 西川氏はゴーン氏の意を受けて人員削減などを進めてきたが、現場では恨みと不満が渦巻く。「ゴーン氏が日産を再建した業績は認めるが、ゴーン氏の言いなりになって日本人社員や下請けをいじめた西川氏は許せない」(日産関係者)といった声が上がる。「40年近く前から行われていた不正が西川体制になって露呈したのは、西川氏を引きずり下ろそうと社内の一部が外部に告発したから」(同)とも見られる。

 今後、ゴーン氏の責任を問う声も出てくる可能性があるという。業界大変革の時代に、「内紛含み」では着実な戦略の実行はおぼつかないのではないか。

「日本のビッグスリー」のもう一社、ホンダも安泰ではない。10月4日、年25万台の生産能力がある狭山工場を21年度をめどに閉鎖し、寄居工場に移管すると発表した。国内の生産能力の約2割を削減し、グローバルで過剰な生産能力を解消するねらいだ。「グローバル相互補完体制」も強化。日本で復活させた「シビック」は、5ドアのハッチバックタイプを英国工場で生産して日米に輸出している。

 グローバル化を進めているとはいえ、ホンダの八郷隆弘社長には「技術の中心は日本」といった考えがある。集約した寄居工場で、EVの新たな生産手法開発などを計画している。

 むしろ、ホンダの危機は「開発力の低下」にある。

 国土交通省が16年に初めて公開した「対歩行者自動ブレーキ」の性能評価は開発陣に衝撃を与えた。トヨタ4車種、スバル4車種、ホンダ、マツダ、スズキ各1車種の、計5社11車種を対象に実施された評価テストで、ホンダ車が最下位だったのだ。

 こうした実情を受け、ホンダは開発方針を大転換した。すべて自前主義の体制を改め、グーグルとともに自動運転用ソフトウェアの共同開発などを始めた。

 研究開発体制も刷新し、東京・赤坂に「ホンダイノベーションラボTokyo」を開設。大学や他企業など外部と連携しながら、AIなどを研究開発する部署を新設した。こうした戦略を仕切るのが、東京・京橋の高級ビルの一角に17年4月から集結したエンジニア集団「開発戦略室」。ホンダの開発手法を変革する責務を担う「心臓部」となる組織だ。

「改革の方向性は間違っていないが、時間との勝負。早く成果を出していかないと、うちが今後もグローバル競争に生き残れる保証はない」。ホンダ社内からはこんな声も出ている。

 世界最強という日本の自動車産業の神話は崩れつつある。その現実を認めない限り、日本は次世代の自動車産業で後進国になりかねない。

※週刊朝日  2017年12月15日号

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