フジマキ「『働き方改革』を推進するなら終身雇用制度を廃止すべき」

フジマキ「『働き方改革』を推進するなら終身雇用制度を廃止すべき」

 政府が次の臨時国会の目玉として挙げた「働き方改革」。“伝説のディーラー”と呼ばれた藤巻健史氏は、終身雇用制が、国の基幹政策さえも誤らせているのではと危惧する。

*  *  * 
 モルガン銀行時代、会社から勤務希望地の調査が来たので、秘書に「◯をつけてそのまま返信して」と頼んだ。私が邦銀から米銀に転職した理由を「ずっと東京で働きたいから」と、秘書は知っていた。だから、返信シートをチェックする必要はないと思っていた。

 ところが、秘書の机にあった提出前の返信シートを見ると、希望地欄で東京の下の行にあった中近東に◯が。米銀は希望していない地に転勤を無理強いしないが、希望すれば即異動の可能性が高い。おー、やべー!

 偶然見つけてよかったが、あの時サウジアラビアに行っていたかも。単身赴任のうえ大好きな酒も飲めない。最悪だった。秘書は偶然間違えたのか、意図的だったのか。もしかして、嫌なボスを中近東に追いやり、最高の「働き方改革」を試みようとしたのか。

★   ★
 当コラムで以前、日本の労働分配率の低さは終身雇用制のせいではないか?と書いた。

 安倍首相が賃上げをいくら求めても、経営者が人材喪失のリスクを感じないと、賃上げのインセンティブが働かない。終身雇用で不況期でも従業員を解雇しにくければ、固定費化しやすい人件費をなるべく上げたくない。好況期であっても、不況期に備えようとするのは無理もないだろう。

 人材獲得の競争が激しい新卒採用市場は、初任給がそれなりに上がった。労働市場が競争的ならば、賃金は上昇する。日本人は終身雇用という安定と引き換えに、高収入をギブアップしている気がしてならない。

 政府は次の臨時国会の目玉として、「働き方改革」を挙げている。ただ、所得税の累進カーブの修正、終身雇用制と年功序列制の廃止を盛りこまないと、抜本的改革など無理なのだ。

 米企業では、労働者全員が明日にでも解雇される恐れがあり、全員が非正規とも言える。望まない転勤を強いる企業はない。同一労働は同一賃金だ。

 成果をあげれば、十分な報酬を出す。そうしないと従業員はみな辞め、操業停止に追い込まれるからだ。そうなれば株価も落ちる。

 転職市場が発達していれば、退職は怖くない。労働需要は日本全体で一定のはずだから、一人辞めれば一人の需要が生まれる。経済を活性化させて失業率をゼロ近くにしておくことが、政府の大切な仕事になる。

 ところで、私が日銀OBと話をすると、黒田東彦総裁の異次元の量的緩和に、みんな非難ごうごうだ。しかし、現役職員はこうした批判の声をあげられない。心の中で「まずい」と思っても、声を出せないのだろう。中央銀行マンの矜持はいずこにと思ってしまうが、これも終身雇用制の弊害なのかもしれない。

 クビを切られたり、閑職に追いやられたり、定年後の仕事の斡旋がなければ、生活のめどを失う。転職市場が米国ほど発達していない日本では、非常に怖い話だろう。終身雇用制が、国の基幹政策さえも誤らせているのかもしれない。

 官僚が政治家にペコペコし、企業が監督官庁に弱く、政治家が有権者に弱いのも、仕事を失うのが怖いからだろう。次の仕事が簡単に見つかるなら、辞める自由が出る。言いたいこと、正しいと信じることを自由に言えると思うのだが。

※週刊朝日  2017年9月29日号

おすすめ情報

AERA dot.の他の記事もみる
主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

経済 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

経済 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る

記事検索