「第70回NHK紅白歌合戦で一番良かったと思う歌手」のアンケートで、氷川きよしが1位に選ばれたと発表された。毎分視聴率でも大トリの嵐に迫る勢いだったといい、注目度の高さがうかがえる。このほか昨年は、テレビ番組やSNSなどさまざまなシーンでこれまでの“演歌界のプリンス”のイメージにとらわれない激しいパフォーマンスや中性的なファッションでわれわれ視聴者を驚かせたが、本来の自分らしさを表現しようという姿勢には共感の声が寄せられているようだ。

 

もちろん本人の長年に渡る実績があっての評価だろうが、「型にはまる必要はない」「もっと自由に生きたい」といった多様性や個性を尊重する風潮の現れでもあるだろう。この年始にオンエアされたCMにもこのような世の中の空気は映し出されており、なかでも積極的に広告を展開する通信事業各社のCMからも同様のメッセージが読み取れた。

■おなじみのシリーズの年始特別版はまさに自由奔放

 まずはKDDI『au』が元日から放送した年始特別CM。アメリカのスタンダードナンバー『The Entertainer』を注目のロックバンド Half time Oldがアレンジした曲に、クリエイティブディレクターの篠原誠氏による前向きで開放的な歌詞を乗せている。軽快な楽曲に合わせ、今年は「みんな自由だ。」をテーマにおなじみの「三太郎」メンバーが既成概念にとらわれず“自由”に過ごす様子を映した。スタートラインに一列に並び徒競走をするかと思いきや、桃太郎(松田翔太)以外はスピードも方向もまったくバラバラ。川には大小さまざまな桃がたくさん流れ、光る竹の中から親指姫が現れるなど、昔話の設定もお構いなしの奔放さ。

 最後は全員が「みんな、自由だ。」と書かれた旗の前で思い思いの方向を指さしてポーズを決めるというストーリーだ。何があっても人生は一度きりなのだから、自由に道を選ぼうと視聴者を勇気づけた。

■自分で選んだ道を進めのメッセージは好感度高め

『SoftBank』は昨年12月に新学割キャンペーン『SoftBank学割』のCMを開始した。岡田准一と賀来賢人が教師役を、ラグビー日本代表のリーチ マイケルが校長役を演じるもので、生徒たちが授業中に“早弁”をしたり、恋や部活に夢中になったりという学生ならではのシチュエーションをTHE HIGH−LOWSの『青春』に乗せてテンポよく描いた。それぞれのシーンに「食べ放題」「告白放題」「泣き放題」などとコピーがかかり、ラストは全員が校庭を疾走する映像に「青春放題。」の文字が映る。ルールや常識に縛られず、自分が夢中になれることに突き進む生徒たちそれぞれの青春を見守り、「ONE TEAM!」と力強く叫ぶリーチ マイケルの姿で結ぶ爽やかなCMだ。

『Y!mobile』も同じく学割のCMに注目したい。11月末にスタートした『ワイモバ学割』のCMは、学生とその家族もサービスの対象となることをアピールするためにさまざまな親子がペアでダンスをする内容だ。ひときわ注目を集めたのは桑田真澄・Matt親子だろう。あまりCMに出演しない桑田が、人気急上昇中のMattとCM初共演を果たしたことが話題を呼んだ。CMでは、桑田とMattが「Matt、お前の道を行け」「は〜い」と拳を合わせるシーンが印象的だ。独自の美を追究する姿勢で注目される息子に、自分の信念を貫くよう力強く励ます父親の姿を通して親子の信頼関係を描いた。

 いずれも周囲の評価に縛られず、自分で選んだ道を進むことを応援するメッセージを伝えている。CM好感度調査のモニターからは「年始めにふさわしい。自由にのびのびと生活したいものだと思わせるCMだと思う」(au)、「先生と学生が学生生活を思い切り楽しんでいる様子がすがすがしい」(SoftBank)、「実際も子どもの進みたい道に行かせている父、桑田さんとピュアな感じのMatt親子の関係がステキだと思う」(Y!mobile)といった、好意的な感想が多数寄せられた。

■大切になるのは受け手側の視聴者の寛容さ

 このほかにも個性や自分らしさの大切さを伝えるCMが見受けられる。P&G『パンテーン』は『#令和の就活ヘアをもっと自由に』プロジェクトのCMを昨秋にオンエア。画一的な“ひっつめ髪”ではなくさまざまな髪型で街を歩く就活生を映し、個性が尊重される就職活動を推進する取り組みを印象づけた。TBCはローラがストイックにトレーニングに励む姿や鍛え抜いたからだで鐘を鳴らす姿に「誰に何を言われても、信じた道を行こう。自分を貫く強さ。それこそが美しさ」というローラの語りを重ねたCMをオンエアした。

 こうしたメッセージCMが評価を集める一方、併せて重要なのは受け手側となるわれわれ視聴者の寛容さではないだろうか。昨今増加しているさまざまな炎上やバッシングは、情報発信側のリテラシーや想像力不足のみが原因ではなく、自分と異なる価値観や認識を排除する不寛容さによるところも大きいだろう。自分らしさを応援するとともに、広告の力で世の中をもう少し優しく寛容にすることはできないだろうか。

 昨年は企業の懐の深さを感じさせたCMもオンエアされた。一昨年から原田龍二を『大麦若葉』のCMに起用していた山本漢方は、昨年春の原田に関する一連の報道のため起用の継続に頭を悩ませたという。不祥事による契約終了も珍しくないが同社は継続起用を決定。原田が出演する年末特番のフレーズを模して共演者に「原田、アウトー!」「反省しろー!」などと叱咤させるCMを放送した。さかのぼれば1994年には宮沢りえが「すったもんだがありました」と私生活での騒動を連想させるセリフとともに笑顔で缶チューハイを飲むCMがヒットした。視聴者は元気な姿に安心するどころかこのセリフはその年の流行語大賞にも輝いた。

 広告は商品やサービスをアピールするだけではなく、スパイスの効いたユーモアや力強いメッセージ、心温まるストーリーなどの力で人の心を動かし、世の中の空気を変えることができる。過失にも許容の限度は当然あるが、誰かをたたいて楽しむのではなく、つまずいた人の再スタートを見守る余裕のある社会となれば、より多くの人がのびのびと自分らしく生きやすくなるのかもしれない。

 2020年を迎え、真のグローバル化・ダイバーシティに向けて、他者を許し、お互いの違いを認め合うムードを広告が作り出してくれることを願っている。

●CM総合研究所/1984年設立。「好感は行動の前提」をテーマに、生活者の「好き」のメカニズム解明に挑戦し続けている。平成元年から毎月実施しているCM好感度調査をもとに、テレビCMを通じて消費者マインドの動きを観測・分析しているほか、広告主である企業へダイレクトにコンサルティングを行い、広告効果の最大化および経済活性化の一助となることを目指す。