「アホとは戦うな。時間の無駄である」と提唱する、元政治家であり、現在はシンガポール・リークアンユー政治大学院で教鞭を執る田村耕太郎さん。しかし、シリーズ75万部を突破した著書『頭に来てもアホとは戦うな!』の読者からは、「それでも戦ってしまう……」と多くの悩みの声が寄せられているという。

 日々の仕事・暮らしの中で「アホ」に悩んでいるあなたに、ちょっとでも気持ちが楽になるヒントを田村さんが提案する連載「アホから解放される相談室」。今回は「アホに言われたことが忘れられない」ことについて。

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【相談】
 新卒のとき、教育係の先輩から言われた一言が忘れられません。ある飲み会のとき、酔った勢いで先輩にこんなことを言われたのです。

「君はプライドの高い人間だよね。嫌っている人は多いと思うよ。夢とかあるみたいだけど、そのままじゃ成功するのは難しいと思うよ」

 会社に就職して、自分なりに一生懸命頑張ってきたのですが、まさかこんなことを思われていたなんてびっくりしてしまいました。

 次の日の先輩はいつもどおりで、すっかりこうしたことを言ったことを忘れているようです。

 実は、この出来事は数年前のこと。私は今もこの一言が忘れられずにずっとくすぶっています。

 自分にプライドの高い意識はありません。できるだけ謙虚に接してきたつもりです。先輩はどういうつもりでこうしたことを言ったのでしょうか。

 この先輩の言葉がずっと胸に残り「自分は嫌われている人間に違いない」「自分には大きい仕事ができないに違いない」といった呪いがかけられているような気がしています。

 どうしたらこの言葉から解き放たれ、自分を好きになり、仕事でインパクトを残せる人間になれるでしょうか。

■無責任に励ましてくれる人は注意

 価値観や哲学は人それぞれで、他人様のご発言は合理的なものもあれば、感情的なものもあるでしょう。その時の気分や環境にもよります。

 私自身も「お前にはこんな成果は出せない」「この仕事には適性がない」「お前の政治的キャリアは終わりだ」「そんな投資はうまくいくはずもない」等々よく言われてきました。

 ただ、今思うと中には非常にいいアドバイスだったのではないかと思われるものもあります。親身になって厳しいことを言ってくれる真の友人もいました。

 そこで、まずは「呪い」と決めつけず、しっかり聞いて相手の意図を理解して試し、そのアドバイス通りなのか検証してみる必要があります。

 私は、厳しいアドバイスのおかげで奮起して頑張れたり、適性のないことをあきらめて次の道に行ったりすることができました。

 逆に無責任に励ましてくれる人は、関係の薄い人や、どちらかというと私を利用しようとしている人だったのです。

 そういう人の言葉を真に受けたせいで、調子に乗りやすい私の性格に拍車がかかったこともありました。激励や誉め言葉でさらに図に乗り、手痛い失敗を重ねたこともあります。

 一見嫌味に聞こえるそのアドバイスが呪いではなく、激励や誉め言葉こそが結果的に呪いであることもあります。

 呪いを解くには自分と向き合うことが大事です。アドバイスもフラットに聞いて自分と向き合い、本当に気になるなら検証してみる。そういうことが大事なのだと思います。

 さらには、考え方を変えるというのも一つのテクニックです。

 何事にも多様なとらえ方があります。「プライド」も「扱いにくさ」もそうです。自らの仕事の質にこだわりを持つことはプライドが高いといえるでしょうし、扱いにくさも、意思やこだわりの強さやともいえるでしょう。

 まず、自分が納得できるとらえ方に変換してはいかがでしょうか。

 長く生きていますといろんな人に出会います。決めつけてくる人もいますが、他人様の思いは自由です。

 ただし、とらえ方は自分次第で変えられます。自分でコントロールできるものに集中するのがよいでしょう。

 冷たい言葉を放った先輩を含め、意外に他人様は自分が言ったことを気にしていない可能性があります。

 自分を好きになることも大切ですし、仕事でインパクトを残すことも大事でしょうが、普通の日常に感謝しながらたんたんと生きていくことにほんのりとした喜びを時に感じられれば、それだけで十分素敵な生き方だと思います。

 呪いは簡単に解けますよ。