新型コロナの影響で旅行の自粛が続く中、宿泊なしでも成り立つ新たなビジネスモデルを提案するホテルがある。「京都の文化とメディアアートの融合」をテーマにした宿泊施設「HOTEL SHE, KYOTO」だ。4月10日から系列5館はすべて休館したにもかかわらず、目の前の経済は回っているという。

■オンライン上で未来のオフライン経済を回す

 33室の小さなホテル「HOTEL SHE, KYOTO」。ハイセンスな空間作りにファンも多いが、コロナ禍で5施設すべてを休館している。ホテルは本来、お客さまにお越しいただくことで成り立つビジネス。お金を生む手段は消えてしまったが、企画担当の花岡直弥さんは経済を回す2つの取り組みを始めている。
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 4月8日から「未来に泊まれる宿泊券」、つまり「未来チケット」の販売をスタートしました。いつか旅に出る日のために、未来の宿泊予約ができる仕組みです。僕たちが運営する5つの宿泊施設だけでなく、理念に賛同してくださった他社の施設の宿泊券も販売しています。「HOTEL SHE, KYOTO」では日によっては1日で10室程度の予約が入ることもあり、これまでの売上には及ばないものの、未来の経済が回っているのを実感します。

 もうひとつが「演劇」。オンライン版「泊まれる演劇」です。と言っても、なんのことか分からないですよね(笑)。もともと当ホテルでは6月に、ホテルを舞台に演劇を行う予定でした。宿泊者は、物語の登場人物と館内で会ったり、モノを渡したりすることができるという参加型演劇。通称「泊まれる演劇」です。これをオンラインで上演することにしました。

 まず、脚本を書き直しました。物語は、お客さまの家に招待状が届くところから始まるのですが、実際にリアルな招待状が届きます。また、上演中に役者から電話がかかってくることもあります。つまり、お客さまは自宅にいながら演劇に参加できるのです。もちろん、本当はホテルで開催したかったのですが、オンラインにしたことで、遠方の方やお子さんがいらっしゃる方など、参加いただける方が増えました。

 オンライン版「泊まれる演劇」は販売開始から1時間で、480枚のチケットが完売した。告知はSNSだけ。ホテルが、しかもホテルでない場所で演劇を行うことには違和感がある人もいるだろうが、花岡さんは未来チケットとの2本柱にこだわった。
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 事態が落ち着けば、またホテルでお客さまをお迎えできる日がくると思います。その意味で、未来チケットさえあれば、最低限の収入は確保できたかもしれません。ただ、それだけでは目の前の経済は回りません。

 またオンラインで行うなら無料にすべき、という意見もあるかもしれません。でも収入があれば、出演者やスタッフにも還元できます。つまり、ホテルはクローズしていても、経済を回すことができるのです。私は未来、そして目の前の経済を回すこと、その両方が必要だと考えました。もちろん、最終的にはホテルにお越しいただきたいので、「泊まれる演劇」の続編も構想中です。
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■今こそ、できなかったことに取り組むチャンス

 ホテルと演劇、オフラインとオンライン、現在と未来。花岡さんが行った2つの取組みは、本来お互いに離れた場所にあるものを組み合わせることで、新しい価値を生み出した例だ。
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 今は、僕たちのように小規模なホテルであっても、世界的に有名な高級ホテルであっても、ほぼ全ての経済活動が止まっている状況。その時に、ホテルという「オフライン」な存在をオンラインとうまく融合させて、新たな価値を生み出せたらゲームチェンジができるかもしれない、と考えました。

 また異業種同士のコラボが大切だということも学びました。そもそもホテルは、ベッドやシャワーなど、設備だけを提供する場ではないと思っています。もちろん客室あってのホテルですが、僕たちはむしろ「楽しい夜を提供する場」だと捉えています。そう考えると演劇のようなエンタテインメントも、美味しい食事も、美しいアートや音楽も、すべてホテルを彩る一部に思えてきます。

 端から見て僕たちは「ややこしい」取り組みが多いホテルだと思います。でも、異業種同士の取り組みや積極的なオンライン化など、どの業界でもいずれはチャレンジすべきことです。これを、新型コロナの影響でいち早くやっただけ。僕たちは今回、「ホテル」と「演劇」という非常に離れた存在同士でコラボレーションをしましたが、今までと視点を変えることやいろんな挑戦をするための一歩をいかに早く踏み出すかが大切だなと気づきました。    (文:カスタム出版部)