新型コロナウイルス感染拡大で、世界情勢がめまぐるしく動いている。今何が起き、次に何が起こるのか。2人の「知の巨匠」、ジャーナリストの池上彰氏と元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏が、アフターコロナの世界を語り合った。



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池上:まず注目すべき点は中国の動向ですよね。中国で新型コロナが始まって世界中が大混乱になり、いろんな企業の株価が下がったりしてかなり経済的に傷んでしまいました。特にEU(欧州連合)諸国が非常に心配しているのは、中国が他国より早く復活しつつあるので、弱くなった企業が買収されてしまうんじゃないかと。

 尖閣諸島に関しても、中国の公船が連日のように接続水域(領海の外側12カイリの海域)や領海にまで入ってきています。香港にも、国家安全法を適用しようと言って法律を詰めています。中国は非常に冒険主義的な、世界が弱っている今だからこそという形で勢力を拡大しようとしています。

 あとはEUですよね。感染を防がなければいけないということで国境封鎖をしたことによって、EUのまとまりってなんだったんだろうかと。結局、自国第一主義にどこの国もなってしまうんだなということですね。

佐藤:私はもう少しざっくりとした感じで。グローバリゼーションに歯止めがかかり、ネーション、国家の機能が強くなっていること。これが全体的な特徴だと思います。例えば中国が肥大しているっていうのも、その現象の中の一つです。

 ただ、東西冷戦とは違うんですね。ソ連は共産主義を世界に広げていくという目標があったので、経済合理性と違うところでキューバに出ていく、モザンビークやアンゴラにも出ていくとかしたんですが、中国は自分たちの利益のある所に進んでいく。そうするとインドと衝突が起きたりとか、あるいはヨーロッパではセルビアが今非常に中国に接近していたりとか、ちょっとこの前まで起きなかったことが、このコロナによって起きていますね。

 このようなコロナによる世界の変化には、二つの見方があります。一つはイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ氏によるハラリモデル。普段は時間をかけて行うことがあっという間に展開されてしまうので、不可逆的な変化をもたらすという考えです。もう一つがトッドモデルです。フランスの歴史家・人口学者、エマニュエル・トッド氏の言うように、何も新しいことは起きていない、今までに起きていたことが加速しているだけだと。(イギリスがEUを離脱する)ブレグジットにしても、アメリカのトランプ政権にしても、これはネーションの強化でグローバリゼーションに歯止めがかかっている。すでに起きていたことなのです。この2人の結論は一緒なんですね。国家機能が強化されることと、格差が広がっていることと。現象面では一緒ですけれど、見方としては大分変わってきます。

池上:今の状況は、後者のトッドモデルに近いかなと思います。

佐藤:私もそう思います。

池上:つまり、5年先、10年先にいずれ起きるだろうと思ったことがいきなり今起きてしまった。ですから佐藤さんがおっしゃったように国際情勢でも言えますし、日本国内でもリモートワーク(在宅勤務)を増やすとか言って全然できなかったのに、突然強いられる形で実現できちゃったわけです。

佐藤:しかし、トッドモデルだというのは論壇の中で少数派だと思うんですよ。

池上:そうですか。経済の面から見ても、トッドモデルがあてはまると思いますよ。いわゆる新自由主義が全くダメだということ。世界中で新自由主義がどんどん進んでいましたが、効率一本やりでやると危険なことになるんだということが今回明るみに出たのではないかと見ています。イタリアでは財政危機から医療機関などを統廃合したところ、悲惨な医療崩壊が起きてしまった。アメリカでは、多くの企業が自分の会社の株価を上げるために自社株買いを進めていましたが、コロナの影響で経済活動が突然止まり、自社株買いしていたために手元資金がなくなってパニックになったということが起きています。ドルを現金で持っていなければいけないということで、日銀がドルを市中に供給するドルオペが起きました。とにかく株主の利益を最大化するということが、いかに危険なことかを思い知った企業が多いんじゃないかと思いますけどね。

佐藤:今回はリーマン・ショックの時とは順番が逆ですよね。リーマン・ショックというのは、金融危機が起きて、それから産業にきたんだけども、今回は産業で、しかもローカルな中小零細企業のところにまずきましたよね。どうしてかと言うと、観光や飲食ですから。ここは企業数にしたら全体の99.9%を超えるでしょ、恐らく。で、GDP(国内総生産)からしたら7割ぐらいですよね。そこの根っこのところが崩れたら日本がめちゃくちゃになるわけですよ。

 だから、資産がなくて、生活の糧が失われる人はいかなる方法でも助けないといけない。裏返すと、中小企業でいわゆるゾンビ企業みたいなものは再整理しちゃえばいいんだっていうのが、ここ20年ぐらいの小泉政権以降のトレンドだったんだけども、それに歯止めがかかっていますよね。

 それからこの次に何が起きてくるかというと、グローバルなサプライチェーン(供給網)が崩れているので、製造業に影響が出てくる。車や家電製品などの耐久消費財や、アパレル系などの買い控えが起きてくると思う。需要の減少が国際規模で起きてグローバル企業への打撃が大きくなってきます。運転資金だけじゃなくて、本当に財務指標が悪くなるという状況になると、これが金融危機を誘発する。バブルから生じた金融危機じゃなくて、ボトムから経済が悪化していくことによって金融危機が起きるということになります。血流が悪くなって、その結果、心臓がやられちゃうと。恐らく各国政府はいかなる対価を払ってでも、金融危機だけは起こさせない。そのために、ジャブジャブとお金をいくらでも入れる金融緩和をしていると思うんですよ。

池上:佐藤さんがおっしゃったように、とにかく金融不安だけは起こしてはいけないと、資金をジャブジャブに提供しているでしょ。結果的にアメリカでは景気が悪いのに株価が回復しつつあるという摩訶(まか)不思議なことが起きているわけですよ。

佐藤:こうして国家機能が強化されて、世の中の経済合理性とは違う形で経済政策に介入するということになると、新自由主義前の病理がもう一回出てきます。スタグフレーションです。インフレと不況の同時進行ですよ。年金生活者とか学生とか、シングルマザーで非正規雇用者とか、こういう人たちへのしわ寄せがものすごくきますよね。

池上:トランプ大統領は失業率が14%台だったのが13%台になって劇的にアメリカ経済は復活しつつあると言っていますが、失業率の調査を見ると、手厚い手当に頼り求職活動をしなかった失業者の3ポイント分が欠落しているんです。そのため失業率が一見低いように見えるが、実際には失業率はむしろ高くなっている。経済の深刻な状態が見えなくなっているのが現在の状況だと思います。

佐藤:株価至上主義の限界がきているということです。本来資本というのは持っているだけで増えるものではないのに対して、株というのは持っているだけで増えるという特殊な商品です。マルクスの資本論では擬制資本、架空資本などと表現されています。砂上の楼閣みたいなものなんですよ。株価だけで経済を評価していて実体の経済を見ていないと大変なことになるでしょうね。

 それから消費活動に欲望の変化が出ています。今回の自粛期間に多くの人たちから、お金をかけなくても意外とやっていけると聞きました。私が東京拘置所にいた時の感覚にちょっと近いんです。ボールペン1本59円だけど、芯がなくなると替え芯が48円だから、11円が惜しくて替え芯を買うんです。このように欲望が小さくなってくことが全体で生じていると思いますね。これが消費活動にどう影響を与えるか。GDPは落ち込むんだけども、意外と消費水準は下がっていない。

池上:だから(所有するのでなく誰かと共有する)シェアリングエコノミーなり、あるいは(フリマアプリの)メルカリみたいなものが広がってくと、GDPが実際の経済活動を反映できなくなっていきます。GDPでは世界のそれぞれの国の経済の実態が見えなくなっているという問題が起きますよね。

(司会・二階堂さやか)

>>【後編へ続く】

※週刊朝日  2020年7月10日号より抜粋