2019年の星野源は「ちょうどいい感じのまな板に出合いたい」?

2019年の星野源は「ちょうどいい感じのまな板に出合いたい」?

「AERA 2018年12月31日−2019年1月7日合併号」の表紙に登場した星野源。3年ぶりとなるニューアルバム「POP VIRUS」には、時に切なく、時に深遠なラブソングが多数収録されている。なぜ今、星野源は愛を歌わなければならなかったのか?



*  *  *
 小説『火花』が芥川賞を受賞して、ラグビーW杯で日本代表が躍進、国会前では連日デモが繰り広げられていた2015年。前作「YELLOW DANCER」が発売されたのはその年末だった。それから3年。星野源のニューアルバム「POP VIRUS」がリリースされる。

「完成してまだ4日くらいです」

 仕上げの作業に当たるマスタリングは、ぎりぎりのタイミングまで続けられたという。この3年間、曲作りのヒントを日頃からメモに残し、3枚のシングルリリースを挟みながら、アルバムのイメージを熟成させてきた。それらがだんだん、だんだん実を結んで、遂に今。

「やりたいことを全部やりきったっていう感じですね。やりきれました、うん」

 充実感。達成感。それに安堵感が彼の表情に少し浮かんだ。

──3年間の変化が刻まれた、素晴らしい作品になりましたね。深さと広がりがあって。

 ありがとうございます。今回はサウンドの面と歌詞の面で突き動かされ方が違うんですけど、サウンドに関しては、「YELLOW DANCER」で打ち出した“イエローミュージック”というスタイルを、もっと今の気分で、さらに突き詰めたいなと思いました。

──ソウル、R&B、ディスコミュージックなどの要素を自分の音楽と融合させて、Jポップとして提示するのがイエローミュージックですね。

 前はディスコティックなものも多かったんですけど、今回はヒップホップ経由のR&Bサウンドが中心です。簡単に言うと、1枚目のアルバム「ばかのうた」(10年)をヒップホップでやるというのが最初の漠然としたイメージでした。

──へえー。面白いですね。

 一方で歌詞については、「YELLOW DANCER」の時って、ある風景や状態を言葉にするのが楽しかったんですね。でも今回は、それに加えて自分の感情や感覚、悲しいとか苦しいとか、楽しいとか腹立たしいとか、そういった言葉では表現できない“あの感じ”みたいなものを、なんとか言葉にしていったと思います。それは同時に、その感情や感覚をサウンドにしていくことにも繋がりました。

──同時並行して探求していった感じですか?

 そうですね。昔からヒップホップは好きだったんですけど、それが世界的な音楽シーンの中でどんどんパーソナルなものになっていて、聴いてパーティーで盛り上がるものというより、個人の思いを伝える手段になってきた気がして。それは自分がやりたい新しいサウンドの方向性とも、新しい歌詞の方向性とも繋がるものだったんです。すなわちそれが現在の音楽になるんじゃないかという予感とともに、曲作りをしていきましたね。

──感情や感覚を言葉にしていこうという歌詞の変化は、いつ頃自覚しましたか?

 一昨年のシングル「恋」辺りからです。“恋”という気持ちを、自分のエピソードとは切り離して、言葉にしていくなかで、そういった歌詞を書くことが楽しくなっていったような気がします。同時に、世の中のひどさや人間のグロテスクな面に触れて、精神が不安定になったりして、日常では自分の感情に蓋をしようと思っていったんですね。でも次第にパンクしそうになっていって、その思いを吐き出したいというか、作品にしたいという欲が出てきたんじゃないかなって。かといって、わめき散らすようなことはカッコ悪いので、どうすればそれを面白いポップスにできるのか、試行錯誤して最初にできたのが「アイデア」という曲です。今年8月に「アイデア」を発表して、その部分をすごく喜んでもらえた感じがしたので、じゃあこの方向性を突き詰めていけばいいんだなって。変態的な曲だと思うんですけど。

──まあ、一筋縄ではいかない曲でしたよね(笑)。通常のポップスとは違って、複雑な展開を持った曲で。

 だからもっとどろどろしたアルバムになるのかなって、その頃は思ってたんです。なのにできあがってみたら、ラブソングが多かったという謎の展開(笑)。自分でも、なんでこんなにラブソングが多いんだろうって、すごく不思議です。

──まず感情や感覚を歌詞にする過程があって、それはきっと自分の内面を掘り下げていくようなものだったんですよね?

 深いところに潜っていくような感覚はありました。でも自分の感情を表に出せばいいわけではなく、やっぱりポップスとして楽しんでもらいたいんですよね。僕自身のエピソードを書くのではなく、僕という人間を音にする、擬人化じゃなくて擬音化?そんな言葉はないですけど(笑)その圧縮作業だったと思います。ZIPファイルにするっていう(笑)。圧縮したものが聴く人のなかで解凍されて、その人の花が咲く。それが歌詞や音楽の面白さなので、独りよがりなものでは駄目なんですよね。そうでないところへ辿り着くまでが、ちょっと大変でした。

──自分という人間を音にしていった結果、ラブソングが多くなった。それはどうしてだと思いますか?

 この3年で作ってきた曲、すべてに共通するのが“愛”だったんです。「恋」も、昨年のシングル「Family Song」も。それは「YELLOW DANCER」ではあまりなかったものですね。「ばかのうた」はちょっとあったかもしれません。生活の歌を作っていくなかで、グッとくるポイントをつなぎ合わせていった時、それはたぶん愛みたいなものだったなって。でもこの3年間、何を伝えたかったのかって考えると、言葉だけでは表現しきれない愛という感情を、音楽で表現したかったんだと思います。それはアルバムの曲を半分くらい書いたあとで気付きました。あ、愛という共通点があるなって。

──興味深いのは、ラブソングを作りながら、そこに書かれているのが自分のむき出しの感情、愛情や恋心ではないところです。

 自分の感情は根底にあるんです、つらさとか、せつなさとか。そういった感情がより際立つのはどういう場面かって考えて、愛を書いた部分もあるだろうし、それを歌にすることで癒やされる、そういう形のラブソングもあるだろうし。「アイデア」には「アイ」という言葉が入っているので、愛について何か書けないかなと初めに考えていたんです。あの曲のなかで、アイデアを持って日々を乗り越えていこうって、そういう意味のことを歌っているのは、愛を持って日々を乗り越えていこうっていうのと一緒なんですよね。

──愛という点では、音楽に対する愛を歌った曲もありますね。アルバムの表題曲「Pop Virus」はまさにそういった歌で。

「POP VIRUS」というアルバムタイトルがわりと先行してるところもあるんです。タイトルが浮かんだ時、自分は小さい頃から音楽に励まされてきたけど、それは音楽のなかにあるポップウイルスに生かされてきたっていうことなんじゃないかと思って。そうやって感染したウイルスが、自分のなかで遺伝子とつながって、変容して、今は自分がポップウイルスを作る側になっている。そのウイルスはホモサピエンスが誕生した頃から、人間が武器を作り出す前から、歌として存在したのかもしれませんよね。この先もそのウイルスは広がって、人類が一度滅びたあとも、もう一度誕生した人類によって掘り起こされるかもしれない。化石化したCDが発掘されて、聴いたら音楽だったとか(笑)。そんなふうにアルバムタイトルから発想した言葉やストーリーがいくつもあって、「Pop Virus」もそれがすごく反映された一曲です。

──シングル「恋」のカップリング曲で、アルバムにも収録された「Continues」は、これもまた愛を感じさせる曲です。

 ずっと影響を受けてきた細野晴臣さんの音楽を、自分なりの音楽でオマージュしたいという思いで「Continues」を作ったんですけど、そのなかにある続いていく、つないでいくというメッセージには根底に愛がありますよね。今作に収録されている「Dead Leaf」という曲では山下達郎さんにコーラスを入れてもらっていて、そうやって大先輩と仕事をするのもそうだし、若い面白い人たちと初めて一緒にやる機会があったのもそうだし、「Continues」に書いていたことがアルバムで現実になっていった気がすごくします。

──今回のアルバムを聴いていて、広がりを非常に感じるなと思ったのは、愛が“生きる”ことと同様の意味でとらえられているところです。例えば「アイデア」もそうだし。

 うんうん。

──個人的な感想では、「Nothing」はそういった大きなものとして愛を綴った、星野さんのひとつの到達点のような曲じゃないかと思いました。

 うれしいです。「Nothing」はすごく気に入ってるんですけど、最初はTR?808というリズムマシンでビートが鳴っているような、メロウなバラードを作りたかったんです。それで歌詞を書いていった時に、自分のなかに昔からある寂しさみたいなもの──自分には何もないという感覚が、昔からずっと、生活に支障をきたすほどではなく、本当にちっちゃくあって、それをちゃんと歌にすることができたんじゃないかなって。

──<君を誇る事で/私は生きているって/呆れた本当さ/なにもないな>と歌う歌詞はとても感動的です。

 愛があって、生活があって、そこに寂しさがある。その感じをうまく表現できた気がして、曲ができた時は本当に気持ちがよかったですね。

──19年に向けて、抱負も聞かせてください。

 2月から始まる5大ドームツアーをがんばるっていうのはもちろんあるんですけど、人間的な抱負としてはいろんなものをシンプルにしていきたいなって。仕事も生活もどんどん飽和していくところがあって、それに疲れを感じ始めてるんですね。だからいろいろと整理できたらいいなと思っています。

──断捨離的なことですか?

 うーん、前はひとつのことをやりながら他のことも進めるみたいなのが好きだったんですよね。でもそうじゃなくて、あれをやるために今これをやっておこうっていう、そういうシンプルさで音楽もお芝居もやっていけたらいいなと思います。あと最近料理を作るのが好きで。

──え、そうなんですか?

 楽しいんですよ、最近やり始めたんですけど。だからひとりの生活の楽しみとか、そういうところもしっかりしていきたいなと思います。いい洗剤を突き詰めるとか、自分に合うシャンプーは何かとか(笑)。

──それは確かにシンプルなことかもしれませんけど(笑)。

 うん。ちょうどいい感じのまな板にもまだ出合ってなくて、違うなと思いながら野菜を切っているんです。見つけたいです、まな板。バシッとしたものが見つかったら、たぶん超気持ちいいじゃないですか(笑)。

(ライター・門間雄介)

※AERA 2018年12月31日号−2019年1月7日合併号


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