「東大タレント」と言われて、あなたは誰を思い浮かべるか。今となっては、ゴールデンタイムに乱立するクイズ番組を中心にさまざまな顔ぶれが芸能界で活躍している。芸能界での「東大ブランド」が確立されていった経緯を見ていこう。



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 最近のテレビは、クイズバラエティー番組が花盛り。そのおかげもあって、ここ5年ほどで現役東大生のクイズプレーヤーが何人も現れた。例えば、2017年4月の「東大王」レギュラー放送開始をきっかけに、人気を集めた伊沢拓司、水上颯、鈴木光ら。謎解きブームの火付け役にもなった謎解きクリエイター・松丸亮吾も、今の10〜20代が知る東大タレントの代表格だ。

 芸能評論家の三杉武さんはこう言う。

「クイズ番組ではどこも東大タレントをほしがりますよね。大がかりなクイズ番組、情報番組のコメンテーターにはもってこいですし、高学歴芸人さんも東大卒じゃないとちょっと弱いように感じられます」

 だが、ひと昔前まではテレビや映画といった表舞台で東大卒は珍しい存在。もちろん、映画監督など「裏方」には、昔から東大卒の著名人がいた。例えば、国民的人気を誇る「男はつらいよ」シリーズを手がける山田洋次は法学部卒。「鉄道員(ぽっぽや)」などの代表作がある降旗康男や、宮崎駿とともにスタジオジブリを設立した高畑勲は、文学部フランス文学科卒だ。

 クイズ番組などを担当してきた放送作家の小林偉さんは振り返る。

「東大卒なのになんでわざわざ芸能界へ、という感じが強かった。東大OBに聞いたことがあるのですが、昔、卒業式で学長が『皆さん、ここに入ってくるのは大変だったと思う。だけど、ここから先はもっと大変です』みたいなメッセージを送っていたらしい。つまり何をしても『東大卒』という色眼鏡でみられる逆差別が続くということですね」

 小林さんが旧来の東大卒芸能人として思い浮かべるのは、歌手の加藤登紀子と、「くいしん坊!万才」初代リポーターの俳優、故・渡辺文雄だという。

 それではこの30年の東大タレント、芸能人の顔ぶれの変遷をみていこう。

 加藤登紀子と同様に東大卒の歌手といえば、ミュージシャンの小沢健二。当初はユニットで活躍していたが、1993年にソロデビュー。その翌年に「今夜はブギー・バック」が大ヒットし、95年から2年連続で紅白歌合戦に出場した。

 前出の三杉さんは話す。

「東大卒ということを大きく打ち出していません。その看板がなくても勝負できているということですね」

 ちなみに、本誌の名物企画から生まれた東大タレントもいる。高田万由子の芸能界入りのきっかけは、91年の本誌女子大生表紙モデルだった。写真を撮った篠山紀信氏の事務所に行ったときにCMデビューの話が決まった。

 東大の看板を掲げず実力で活動する例として、三杉さんが挙げたのは俳優の香川照之だ。香川は、文学部社会心理学科を卒業。しかし、二代目市川猿翁と女優の浜木綿子の子という点のほうが注目されていたくらいだ。俳優としての知名度は、着実に映画やドラマで好演・怪演を重ねた結果。12年には九代目市川中車を襲名し、歌舞伎俳優との二足のわらじを履くようになった。今の20代以下は東大卒ということをほとんど知らないのではないだろうか。

 こうした流れから一転、あるタレントの登場によって、芸能界における東大の位置づけやイメージががらりと変わる。菊川怜だ。そのルックスを生かしつつ、香川や小沢とは対照的に「東大」の看板も芸能活動で強調したからだ。在学中の98年に「東レ キャンペーンガール」に選ばれ、すぐさまドラマで女優デビュー。小林さんはこう指摘する。

「エポックメイキングな存在です。それまでの東大のイメージとはちがう美人が出てきた。しかも工学部建築学科卒で、“リケジョ(理系女子)”だったことも大きい」

 クイズバラエティーにも「東大卒」をひっさげて登場し、軽妙なトークと知的で明るいキャラクターを世に定着させ、02〜17年には情報番組のキャスターを通算12年務めた。東大ブランドを生かしつつ、とっつきにくいとも捉えられかねない東大の負のイメージを払拭していったのが菊川だった。

「東大に対して『勉強ばかり』『あか抜けない』というイメージを持っていた人は、きれいで社交性がある菊川さんにギャップを感じたんじゃないでしょうか。才色兼備の東大女性ブーム、高学歴女性タレントブームをつくりましたよね。今、東大ブランドで勝負している人たちにとって、菊川さんの影響は大きいと思います」(前出の三杉さん)

 04年度ミス東大の八田亜矢子や、気象予報士の資格を持つ三浦奈保子は、在学中から芸能界デビューし、現在もクイズバラエティーなどで活躍している。

 一方、時流に関係なく東大卒が輩出したのがアナウンサーだ。大ベテランでは土曜夜の長寿クイズ番組の顔、「世界ふしぎ発見!」の草野仁。文学部社会学科を首席で卒業し、86年の放送開始から同番組の司会を務める。最も幅広い世代から名前が挙がるのは、「NEWS23」「報道特集」のキャスターで知られた膳場貴子だろう。ちなみに、3度の結婚のお相手はいずれも東大卒だ。

 11年から「ZIP!」の総合司会でおなじみ、日本テレビの桝太一も大学院農学生命科学研究科修了で、アナゴやアサリの研究をしていた。「好きな男性アナウンサーランキング」では5年連続1位に選ばれ、殿堂入りしている。

 こうしてブランドとして確立されたが、生き馬の目を抜く芸能界。いつまで通用するのだろうか。

 三杉さんはそのブランド価値は下がらないとみる。

「業界内で人数が少ないんですよね。同じように学力で勝負するにしても、早稲田大や慶應大は芸能界にある程度の人数がいます。対して、そもそも東大は国立で定員が少ない上に、その中から、売れずに終わる人のほうが多い不安定な芸能界へ進む人となると、ほんの一握り。ものすごく優秀で、希少価値が高いんですよ」

 小林さんは、起用する側の立場から、東大ブランドの価値を説明する。

「ドラマや漫画で『めざせ東大』と設定されるように、東大は簡単には到達できないゴール。そのパブリックイメージは“誰もが一目置くインテリ”でしょうか。あらゆる分野から出題されるクイズ番組においても、正解すれば『やっぱりすごい』と珍獣感が出るし、不正解なら『東大出てるのに間違えちゃうのか』と視聴者が優越感をおぼえる。どちらに転んでもいいわけです」

 クイズ番組で重宝される理由がよくわかる。最後に、三杉さんは、東大についてこう言及した。

「何を食べて育ったのか、合コンには行くのかと、どこかベールに包まれていて興味を集めるのが『東大』ではないでしょうか」

 ベールの中をのぞかせてくれるおもしろさも、東大タレントにはあるのかもしれない。(本誌・緒方麦)

※週刊朝日  2020年3月27日号