女優の吉田羊と鈴木梨央が出演するポカリスエットのCMでイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の名曲「君に、胸キュン。」(1983年)が採用され、2人が見事なハーモニーでカバーして話題となった。



 今回でシリーズ第13弾となる同CM。これまでも、ZARDの「揺れる想い」や小沢健二の「さよならなんて云えないよ」、小泉今日子 「木枯らしに抱かれて」など絶妙な“懐メロ”をたびたび起用。また、「スケーターズワルツ」や「交響曲第9番」などのクラシックを鼻歌で歌ったり、そのほか吉田と鈴木がアカペラでゆるいカバーアレンジをほどこし、その絶妙な空気感で人気を博してきた。

 今回の「君に、胸キュン。」は本家YMOの高橋幸宏氏がアレンジを手掛けており、ファン垂涎の展開。しかも、吉田と鈴木がまさかの阿波おどりで登場するバージョンもあり、またぞろ話題になっている。

「同CMは、博報堂のエース級チームが制作を手掛けています。ポカリのCMは、若者に訴求したスポーツ系のバージョンを電通が、主婦層や中年をターゲットとした健康志向のものを博報堂が手掛けています。ちょうど、30〜50代の代を狙い撃ちにしたもので、80年〜90年代の楽曲をうまく取り入れています。吉田さんと鈴木さんが親子という設定もターゲットに合わせたもので絶妙ですね。最近は、ユーチューブとアップルミュージックなどサブスク型の音楽サービスのおかげで、若い人もかなり昔の歌謡曲などに詳しくなっているんです。だから名曲は使い勝手がいい。カルチャー的にも90年代リバイバルが来ているので、そのあたりもマッチしているのかと思います」(大手広告代理店関係者)

 ポカリのCMに限らず近年、過去の名曲のカバーを使ったCMが話題になるケースはよくあること。例えば17年には午後の紅茶のCMで上白石萌歌がスピッツの「楓」を、18年のドコモのCMで高畑充希がX JAPANの「紅」をエモーショナルに歌い上げて話題に。2月からは深田恭子、多部未華子、永野芽郁がWinkの「寂しい熱帯魚」を無表情で歌いながら踊るUQモバイルのCMで放映され、世を湧かせている。

「CMはやはり、出ているタレントよりも音楽が担う部分が大きいコンテンツです。このところ、タレントパワーが相対的に低下しているので、懐メロで“掛け算”しているんでしょう。懐メロに限らず、スバルのCMのようにずっと、車と音楽だけで展開しているものもあります。タレントが出演していない分、楽曲の使用料金が高くてもおもいっきり、お金をかけられるのが特徴です」(同)

■夏以降も懐メロCMが増えていく!?

 ポカリCMに関して言えば、吉田羊と懐メロ楽曲は相性が抜群ということだろうか。一方で、3〜5月にかけて、コロナ禍によりロケや屋外撮影などが厳しくなっていることもあり、夏以降も懐メロCMが増えるという予測も。

 「時間がないときに、楽曲メインのCMは企画が通りやすいんです。短時間でクライアントにプレゼンし、仕上げてチェックまで持っていく場合、懐メロや替え歌はうってつけなんです。業界では、CMの楽曲に関して『子どもが口ずさむようなものを作れ』と入社1年目によく言われます。これからしばらく、楽曲メインのCMは増えるでしょう。最悪、ありものの映像と音楽だけでも成立させることは可能だからです」(同)

 TVウォッチャーの中村裕一氏は、懐メロCMの人気についてこう分析する。

「新型コロナウイルスによる自粛生活を余儀なくされた私たちにとって、心の支えとなったのが、さまざまなエンターテイメントです。なかでも音楽はどんなシチュエーションでも手軽に触れることができ、それでいて深い感情を呼び起こさせる、エンタメの中でも特にエモさをかきたてられやすいジャンルと言えるでしょう。ポカリの懐メロCMが人気なのも、今の不自由な暮らしに対する漠然とした切なさと、華やかだった時代のノスタルジーが絶妙に折り重なり、多くの人たちの心に刺さったのだと思います」

 こうした効果に加え、企業側の安定志向の強まりも影響していると中村氏は続ける。

「このご時世、あまり奇抜な演出だと『不謹慎だ』とSNSで叩かれかねません。広告であるCMならなおさらのこと。企業の間にも少しのリスクも排除したいという考えが強まっていると思うので、しばらく懐メロCMは続くでしょう。ただ、懐メロというと、邦楽がピックアップされがちですが、日本でも大ヒットしたa−haの『テイク・オン・ミー』や、トンプソン・ツインズの『ホールド・ミー・ナウ』、ボン・ジョヴィの『リビング・オン・ア・プレイヤー』といった、コロナ時代にこそ刺さる歌詞を持つ80年〜90年代の懐メロ洋楽のカバーCMもぜひ見てみたいですね」

 ポカリCMのように長く続くヒットシリーズともなれば、商品や企業に対する高感度もあがっていくというもの。各社、どんなCMを繰り出してくるのか。(黒崎さとし)