不倫、不祥事、首相の辞任、ジャニーズ退所……政治家から芸人まで、2020年もさまざまな記者会見が行われた。「今年は明暗がくっきり分かれました」と語るのは、“謝罪のプロ”の肩書で情報番組にも出演するブランディング戦略家の鈴鹿久美子さん。2020年の会見を振り返りつつ、ベストとワーストを選んでもらった。



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 まずは、ベストの会見から。鈴鹿さんが選んだのは、2月21日に行われた中居正広のジャニーズ退所による独立表明会見だ。

「中居さんのあの記者会見は、私がこれまで見てきた中でも最も見事な会見でした。良い会見は、一回ですっきり終わらせますし、記者や視聴者に疑念を抱かせません。実際、中居さんの会見後は、週刊誌の後追い記事などもほとんど見受けられませんでした。見ていた誰もが納得し、しかも楽しい印象すら残した最高のエンタメ会見。天才が努力をするとこうなるのかと感激しました」

 プロの目から見て、どのような点がすごかったのか。鈴鹿さんは、中居の“MC力”に着目する。

「あの会見では、ムードも話の内容も、すべて本人がリードしていた。私はこれを『場をとらえる』と呼んでいますが、非常に高度なテクニックなので、私のクライアントにはこのレベルまで要求することはありません。しかし、中居さんには他者の話を狙い通りに引き出したり、番組の場を盛り上げたりする独特の能力がある。長年のMCで培われた話術で、あの会見を仕切ってしまったんです。自身の経験と強みを、これ以上ないほど上手に活用された、パーフェクトな会見でした」

 鈴鹿さんによれば、記者会見で大事なことは、「答えにくい質問が出たとしても上手に終わらせ、繰り返させない」ことが大事だという。そのためには、「具体的な言葉」が重要だと指摘する。

「『退所を誰かに相談したか』という記者からの質問に対し、中居さんは『東山くん』としっかり名前を出していました。その後、記者からの答えにくい質問が出たところで、ふと思い出したかのように『あ!城島くんに伝えるのを忘れた!』と言って、その場の空気を笑いに変えてしまいました。具体的な言葉を使うことでけむに巻いてしまったわけですが、それを気づかせないうまさがありますし、ユーモアを交えているので嫌な気分にさせません。所属事務所の上下関係を持ち出すことで、誰もがクスッと笑える小ネタに仕上げたのです」

 さらに中居は、「SMAPの再編成はあるのか」というきわどい質問には、「V6に入ってV7になるかも」とおどけてみせ、「復活の可能性」について聞かれた際には「1%から99%」と答え、誰も傷つけず、嫌みにも取られない言い方で切り抜けていた。

「内容的には、『分からない』と同じなのですが、印象はまるで違います。記者は具体的な言葉が出てくれば記事にしやすいわけですから、結果的に、同じ質問をさせないことができた。相手の立場を理解し、お土産を作ってあげることが大事だということを分かっていたのだと思います」

 長年のキャリアで培ったMC力で場を好転させた中居。それに対して、不倫で謝罪に追い込まれた俳優の東出昌大の会見(3月17日)は、自身のキャリアが生かせなかった残念な例だという。

「こちらは今年のワースト2といえる会見でしょう。『(唐田さんと奥さんの)どちらを選ぶのか』という問いに対して、一瞬の間があった。あの場面での間は、迷いがあることを疑わせてしまうので、絶対に作ってはいけない。迷いがあっても、彼の演技力で徹底的に役に徹するべきでした。迷いがぬぐい切れていないから、役への入り込みが中途半場で、芝居じみてしまっていた。もっと感情を揺さぶらせる魂のこもった演技で、切り抜けてほしかったです」

 今年は「良い会見がなく不作の年だった」ため、鈴鹿さんから「ベスト2」は挙がらなかった。しかし、安倍晋三前首相の辞任会見(8月28日)は、平均点以上はあったという。

「服装も話すスピードも、辞任会見にはぴったりで、辞める理由もきちんと説明していた。ただ、どこから見てもスキのない完璧な原稿を読み上げた、という印象だったことが残念でした。ミスもないけれど味もない、印象に残る言葉が一つもない会見でした。8年近く首相を務めてきた歴代最長政権なのですから、最後くらい、自身の感慨や周りの人に対する感謝など、自分をむき出しにするような言葉を発してほしかったですね」

 コロナ禍に見舞われた今年は、各都道府県の知事による会見が目立った年でもあった。

「知事の会見はどれも真意が伝わりにくいものでした。新たな感染対策を発表する際、『経済と感染抑制の両輪のため』の一点張りで、数多ある対策方針のなかで、なぜこの政策を選んだのか、何が期待できるのか、誰も論理立てて理由を説明できていない。海外に目を向ければ、ドイツのメルケル首相などは、複数の選択肢の中からその政策を選んだ理由を、数字を使って合理的に説明していました。大きな影響を及ぼすようなことなのに、日本のリーダーは説明不足です」

 番外編ではあるが、「会見を開かなかった」好例として、宮崎謙介氏の不倫謝罪についても言及した。

「私はあの夫妻と同じ番組に2回出演しました。バックヤードで2人と話したのですが、金子さんが宮崎さんを見上げる時、目がハートでした。金子さんは宮崎さんが本当にお好きなのだと感じました。お騒がせするたびにテレビに出演している二人を見て、川崎麻世さんとカイヤさんを思い出しました。世間からの批判はありますが、夫婦一緒に仲良く仕事ができているのなら、それでいいのではと思います。金子さんは『許すチカラ』を出版しましたが、宮崎さんも、『許されるチカラ』を出版できそうです」

 そして、鈴鹿さんが今年のワーストに選んだ会見は、やはりと言うべきか、アンジャッシュ・渡部建の不倫会見(12月3日)だった。

「渡部さんは中居さんとは真逆で、具体的な言葉が一切なかった。抽象的な言葉を繰り返すばかりで、かえって何度も同じ質問をされる結果を招いてしまいました。具体的な言葉がないと、記者も記事を書くのに困ってしまうため、いろんな角度から何度も質問をせざるを得ないのです。また、『言えない』と濁したことで、背後に事務所やテレビ局など、いろんな力が働いていることを強調してしまった。それでは疑念は膨らむばかりです」

 渡部のあの会見は、どう切り抜けるのが正解だったのか。

「私が渡部さんにアドバイスするとしたら、『引退する』と言わせます。会見とは“腹を切る”場なのです。『もう、復帰は到底考えられません』とでも言えば、むしろ復帰が早まったかもしれません。好例が、2018年1月の小室哲哉さんの会見です。小室さんは会見の序盤で『(音楽活動を)引退します』と言ってのけた。会見を見ながら、『お見事!』と喝采を送りたくなりました。これにより、記者も視聴者も、やり過ぎちゃったかなという気持ちになり、それ以上は責めません。世間が許したことで、結果的に制作活動を再開していますし、復帰を批判する声もありません。渡部さんも、早々に引退宣言して奥さんを頑張って支えていれば、数年後にはグルメではなく『イクメン』として本が書けていたのではないでしょうか」

 謝罪会見を開くということは、その時点ですでに追い込まれている状況でもある。

「うまくやれば、それ以上は最悪の事態にならないはずです。会見はむしろ、イメージを上げるためのチャンスでもある。来年記者会見に臨む人には、ぜひ中居さんの会見を何回も見てもらいたいですね」

 会見の対応次第で、世間に与えるイメージも大きく変わる。ワーストの称号を与えられた渡部が「復帰会見」では何を語るのか。注目したい。(取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)