音楽プロデューサーの小室哲哉(62)とKEIKO(48)の離婚が物議をかもしている。KEIKOはくも膜下出血の後遺症で「高次脳機能障害」の状態にあったと小室は説明していたが、ここにきて「それは小室の嘘だったのではないか」という趣旨の報道が散見される。ただ、専門医は、この障害は複雑で、ある一面だけを捉えて「障害はない」と判断できるような単純な話ではないと指摘する。障害に苦しむ当事者も、悲痛な思いを吐露する。



*  *  *
 小室は、2018年1月に週刊文春に女性看護師との不倫疑惑を報じられ、記者会見で引退を表明した。その席で、KEIKOについて、高次脳機能障害だと明かしたうえで「今は小学4年生ぐらいの漢字のドリルを楽しそうにやっている」「夫婦として、大人の女性としてのコミュニケーションが日に日にできなくなっている」などと説明していた。

 一方、KEIKOは今回の離婚発表に際して、「私KEIKOは、この度、小室哲哉さんとの調停離婚が成立いたしましたことをご報告させて頂きます。ファンの皆様、関係者の皆様には、ご心配・ご迷惑をおかけしてまいりましたことを、ここに改めてお詫び申し上げます。お騒がせしまして本当に申し訳ありませんでした」など直筆のメッセージを公表した。

 これに対して、一部メディアは、この直筆メッセージの文章がしっかり整っており、きれいな字で書かれていたということ。また、メッセージの中で「おかげさまで大きな後遺症もなく、元気に日常生活を送っております」と近況を報告した点などに焦点を当て、小室が明かした障害は虚偽だったという趣旨で報じたり、「文章も大人のレベル」などと、小室が説明した症状に疑義を突きつけた。

 これは2人にしかわからないことも多く、KEIKOの障害の程度や、小室の発言の信ぴょう性も現段階では不明だ。

 しかし、こうした報道については、悲痛な思いを吐露する高次脳機能障害の当事者たちがいる。

 当事者の40代女性は、「私たちの障害のことを、知ろうともしてくれないんだなと悲しくなります」とこぼす。

 また、息子が障害を持つ女性は心情をこう話す。

「私の息子も、字や文章を書くことはできます。目につきにくい部分で、難しい問題を抱えているのです。きれいな字が書けるから障害はうそだと言うなら、息子も私もうそつきだと思われてしまうのでしょうか」

 この障害の専門医で、三軒茶屋内科リハビリテーションクリニックの長谷川幹院長によると、高次脳機能障害とは、脳卒中や事故による脳への外傷などが要因となる。主な症状としては、記憶力に問題が生じたり、自発的に行動できなくなったり、感情のコントロールが難しくなる。日常生活や仕事だけではなく、対人関係に問題が生じてしまうこともあるが、外見では気づいてもらえないことが多く「見えない障害」とも呼ばれている。

 長谷川氏自身、妻が脳の疾患で高次脳機能障害になった経験を持つ。リハビリに加え、本人の努力と周囲の人々の協力があって今は改善しているという。長谷川氏は、「この障害は症状がとても複雑で、人によってできること、できないことは異なります。ある当事者ができることの、その一面だけを見て障害はないと決めつけたり、疑われてしまうのは本人にとってもその家族にとっても、非常に辛いことです」と指摘し、その難しさを解説する。

「例えば字や文章を書くことで言えば、スラスラ書ける人はいますし、ゆっくり取り組めば問題なくこなせる人もいます。一方で、『失語症』という症状がある人は読み書きが難しくなり、話すことや、簡単な計算にも困難が生じます。ただ、失語症であっても、周囲の人の態度は目で見て分かります。例えば、ある場面で当事者が思ったことをうまく話せず、周囲が相手にしない態度を取った場合、本人は『相手にされていない』ということは理解できるのです」

 また、記憶障害がある人の場合、例えば最近の出来事をスラスラ話しているように見えても、実はいくつかの記憶が抜けていて、つじつまが合わないことを話しているケースもあるという。

「毎日一緒にいるような人じゃなければ、よほど内容に矛盾がない限り、話がおかしいとは思いませんよね。結果、障害になかなか気づいてもらえないのです」(長谷川氏)

 この他、映画やドラマはストーリーが記憶できず楽しめないが、お笑いならギャグが一瞬だから笑うことができる人。会話は普通にできて一見して障害があるように見えないのに、自分の左側にいる人や物に気づくことができない人。怒りの感情のコントロールが難しくなり、歩道に放置してある自転車は蹴ってしまうが、駐輪場に止めてある自転車は決して蹴らない人……などいろいろな事例がある。

 説明しきれないほどさまざまな障害の例があり、家族に大きな負担がかかっているケースもあるという。

「高次脳機能障害を知らない人には、誤解を招いてしまうことが少なくありません。ただ、個人差はあるものの、障害はゆっくりと改善していきます。自転車を蹴ってしまう人はトラブルを避けるため外出を控えることがありましたが、数年で改善してさまざまな活動に参加するようになりました。難しい障害ですが、周囲の人は当事者が上手にできない部分に協力しつつ、少しずつ改善していく姿を見守ってあげてほしいと思います」(長谷川氏)

 小室の言動に疑問を投げかけるのそれぞれの考えだとしても、高次脳機能障害について、知らない人が本当か嘘かと簡単に論じられる話ではないことも、ひとつの事実だろう。

(取材・文=AERAdot.編集部 國府田英之)