性犯罪加害者への治療が進まないのは日本人の国民性か

性犯罪加害者への治療が進まないのは日本人の国民性か

 性犯罪は性嗜好障害という病気、意志だけで制御するのは難しい。「犯罪白書」によれば、判決確定後5年以内に再犯した人の割合は、強制わいせつは16%、強姦(単独)は3.6%。加害者に対するしっかりとした治療体制の構築が、日本でなかなか進まない背景とは。

*  *  *
 いま、世界各国、とくに司法先進国における性嗜好障害者の再犯防止の潮流は、刑罰重視から社会復帰のための治療へ転換している。しかし懲役が中心の日本の刑務所では、労役が優先され、受刑者は性嗜好障害を十分に治療せずに出所する上、治療に取り組む民間の医療機関も限られている。その理由を、日本で唯一の性障害治療専門機関「性障害専門医療センター(SOMEC)」代表理事の福井裕輝(ひろき)医師は、こう語る。

「性犯罪者は治療すれば改善し得るということは行政や裁判所なども理屈としてわかっていると思う。しかし、性犯罪者を支援することへの社会からの風当たりが強いために躊躇がある。異質な者を排除しようとする国民性もあると思います」

「魂の殺人」といわれるほど、性犯罪による身体的・精神的な被害は甚大で、加害者への支援に異論が強くあるのも当然だろう。だが、福井医師は「異常な人だけではなく、どんな人も性犯罪者になり得る」と説く。

 性犯罪の背景には、幼少期の性的虐待被害など環境に起因するものや、最近ではスマホの普及で盗撮に手を染めやすいなど、さまざまな要因がある。それが何かのきっかけで暴発し、衝動のコントロールが利かなくなるのだという。

「性犯罪者に対する刑罰を否定しているのではなく、もちろん被害者の治療も重要と考えています。しかし、そのことと再犯をどう防ぐかは別問題。加害者を治療せず社会に戻すことは、さらに新たな被害者を生むことにつながる可能性がある」(福井医師)

 岡山県津山市で04年9月、小学3年の女児が殺害された事件で、今年5月下旬に逮捕された勝田州彦容疑者(39、8日の勾留理由開示手続きで殺害行為を否認)は過去に別の罪で服役し、刑務所内で法務省の再犯防止対策「性犯罪者処遇プログラム」を受講したが、その後も女児らを狙った犯行を繰り返していたという。

 この点について福井医師は、性犯罪者処遇プログラムの実効性に問題があると指摘する。そもそも、刑務所内には衝動を起こすきっかけとなる女性も子どももいない。淡々と模範囚として過ごす人がほとんど。治療は、誘惑がある環境で行ってはじめて成り立つ。

 SOMECでは東京、大阪、福岡の3カ所で性犯罪の加害者ら月に400人近くが治療を受けている。男性が圧倒的に多いが、幼い男の子に性犯罪を起こすなどした女性も治療に訪れる。

 治療は、「認知行動療法」と男性ホルモンを抑制する「薬物療法」の併用。治療には3年から5年近く要するが、治療を継続した患者の再犯率は3%未満。

「ドイツの刑法学者のフランツ・フォン・リストは『最善の刑事政策とは最善の社会政策である』と論じました。罪を犯したら厳罰を与えるだけでなく、治療を含めた社会政策に本気で向き合うのが成熟した社会の在り方だと思います」

 福井医師は、再犯を防ぐには司法と医療の連携が重要という。性犯罪者は出所後に孤立や貧困に陥ると、再犯につながりやすい。その連鎖を断ち切るためにも、司法による処分を経た後は、治療につなげることが必要だ。さらに隔離するだけでなく「共生」が求められると語る。

「共生とは、性犯罪者を許すということではない。彼らが犯罪を起こさないよう、どう共に生きていくかを社会全体で考えていくことです」(福井医師)

(編集部・野村昌二)

※AERA 2018年6月18日号より抜粋

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