子どもが溺れたときにやってはいけないこと 小学校でも指導する「背浮き」で22時間漂流し生還も

子どもが溺れたときにやってはいけないこと 小学校でも指導する「背浮き」で22時間漂流し生還も

 夏休み中、海や川で起きた水難事故のニュースが報じられることが増える。子どもたちが水辺で遊ぶ機会が増える時期に、大人が知っておくべきことは。東京海洋大学准教授で水難学会理事の田村祐司さん(海洋スポーツ健康教育学)に聞いた。



*  *  *
――まず、事故の傾向や危険な場所などを教えてください。

 水難事故による死者・行方不明者は1989年には1500人もいましたが、海水浴客が減少したこともあり年々減少しています。近年は800人前後だったのですが、2017年は137人減り679人となりました。徐々に減ってはいますが、依然、多くの方が水辺レジャー中に命を落としています。その半数を65歳以上が占め、高校卒業〜65歳未満の人が約4割です。場所別にみると、海が最も多く384人(56%)、川が174人(25.6%)。行為別だと魚釣りが219人(32.3%)、水遊び61人(9.0%)、水泳が47人(6.9%)でした。

 ただ、中学生以下の子どもだけに注目するとこの傾向は大きく変わります。26人の死者・行方不明者のうち半数以上の17人(65.4%)が「河川」で、約半数の12人(46.2%)が「水遊び」中でした。

――川や海で誰かが溺れたとき、どのように対応すればいいでしょうか。やってはいけないことがあれば教えてください。

 特に子どもが溺れてしまった場合、親御さんはすぐに飛び込んで助けたいと思うはずですが、それは非常に危険です! 溺れた人はわらをも掴む思いで抱きついてくるので、一緒に溺れてしまいます。それは相手が子どもであっても同じです。素人1人で救助はできないものだと覚えておいてください。溺れてしまったらすぐに119番通報し、身の回りにある浮くものを投げてあげましょう。

 浮輪が無くても、レジャーの場によくある大きな空のペットボトル、サッカーボール、スナック菓子の袋や発泡スチロールの箱などは抱えると浮くことができます。登下校中なら、身近にあるランドセルや本も浮きます。普段から何が浮くのか、探してみてください。

 そして、溺れた人には浮いて待つように声をかけ、落ち着かせてあげることです。

――事故を防ぐために、事前にできることはあるのでしょうか。

 何よりもまず、ライフジャケットを着ることが大事です。最近は安く手に入るようになっていますし、アウトドアブランドから子ども用のオシャレなライフジャケットも出ています。水に入ったときに身体が抜けてしまわないよう、一度正しい着方を練習してみてほしいですね。

 そして、ライフジャケットが無い場合でも、浮いていれば助かるんだということを親子ともに知っておいてほしいのです。私たち水難学会が提唱している「背浮き」は、仰向けの状態で鼻と口の呼吸器官を水面から上に出して浮く方法です。水の比重は1、人間は息を吸うと0.98になります。そのため身体の2%の体積が水から出て、浮くのです。

 学会には消防士が多く所属していますが、その理由は救助隊が到着するまで沈まずに少しでも長く浮いていてほしいからだそうです。それによって救うことができる命が増えるのです。

――背浮きをするためのポイントは。

 ポイントは息を吸うこと、そして両腕をバンザイして、あごを上げます。腰が曲がって「くの字」にならないよう、おへそを突き上げて背筋を伸ばすようにしましょう。

 水難学会の全国2千人の会員が学校や地域の市民プールなどで指導していますが、コツさえ掴めば難しいことではありません。川や海で遊ぶ前に親子で水に入り、背浮きで浮く練習をしてみてください。子どもでも、できるという自信があれば不意に水に落ちたり、深みにはまったり、水泳中に足がつったりしても、パニックになるのを避けられます。周囲の人は「浮いて待て」と声をかけてください。

 着衣のまま水中に落ちるケースが多くあります。教室で履くゴム底の上履きを除き一般的な運動靴は底が浮く素材でできていてるので、脱がすに履いておくほうがいいです。服も、服と身体の間にある空気が浮力になります。

――昔、学校で習った着衣泳では服を脱ぐようにと教えられた覚えがあります。

 確かに、数年前までは、水中では動きにくいという理由で服を脱ぎ、服に空気を入れて浮輪のように使うよう指導されていました。しかし、溺れているときに複雑なことをやるのは難しく、余分にエネルギーを消費してしまいます。そこで、とにかく冷静に背浮きをして、呼吸を確保する行動をとることのほうが現実的でしょう。

 また「溺れたら手を上げたり声を出したりして助けを求めましょう」という指導も見受けます。しかし、先ほどの理論から、手を水中から出すとその分だけ身体は沈みます。また、「助けて!」と大きな声を出して息を吐くと、肺の空気が失われ身体は沈んでしまいます。

――背浮きで助かった事例もあるのでしょうか。

 2014年7月下旬の昼ごろ、静岡・伊東沖で仲間とシュノーケリングをしていた30代の男性が行方不明になり、22時間漂流し、翌朝6時頃に40キロ離れた下田沖で無事に救助されるということがありました。男性は足がつって水面に浮上したら仲間がなくなっていたそうで、背浮きで浮いていたら誰かが助けに来てくれると考えて、泳いで体力消耗するのを避け、背浮きで夜を越したそうです。後にその男性から話を聞く機会があったのですが、夜中は何度かウトウトした時間もあったそうですが、左右を向くとバランスを崩してしまうため、真上の夜空の星だけを見ていたそうです。私たちが指導している通りの行動をされていました。

 また、東日本大震災でも、津波が押し寄せた宮城県東松島市の小学校で、避難所の体育館にいた小学生が徐々に水位の増す濁流の中で、授業で習ったという背浮きで浮いて助かっています。この子は、母親が助けに来たときも「声を出して息を吐くと沈む」ということを思い出して、母親の呼びかけに対して返事をやめたそうです。もちろん、横からの流れが強い場所での応用は難しいかもしれませんが、水辺のレジャーだけでなく、ゲリラ豪雨による冠水のような水災害でも役立つシーンはあるのではと思います。

 この背浮きは、クロールと平泳ぎに並び、2020年度から全国の小学校で改定される学習指導要領に新しく追加されました。背浮きは心臓マッサージやAED(自動体外式除細動器)による心肺蘇生法と同じように、国民一人一人が習得すべき命を守る技術であり、泳げること以前に大事だと思います。

――助かる可能性を高めるために自力でできる方法の一つということですね。

 そうです。親も子もそれぞれ自分で高台に向かう「津波てんでんこ」の教えのように、水難事故でも救助が来るまでそれぞれが浮いて待つことができれば水難事故死だけでなく、救助死を減らすこともできると考えています。

 海の波は同じ場所での分子の上下運動なので、さほど影響を受けませんし、浮くのはリラックス効果もあり気持ちがいいものです。ぜひ「背浮き」を体験してみてください。(聞き手/AERA dot.編集部・金城珠代)


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