医師として女性として「緊急避妊薬」について考えること

医師として女性として「緊急避妊薬」について考えること

 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「アフターピル」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

*  *  *
 9月26日は「世界避妊デー(World Contraception Day)」、9月28日は「安全な妊娠中絶のための権利の日(International Safe Abortion Day)」であったことを、皆さんはご存知だったでしょうか。

「世界避妊デー」は、避妊に対する意識向上、そして若者が性および生殖に関する情報に基づいて避妊法を選択できるようにすることを目的とし、すべての妊娠が望まれたものであることを願って、毎年開催されている世界的なキャンペーンです。「安全な妊娠中絶のための権利の日」は、女性の安全な中絶の権利のための運動の歩みや認められた権利を祝い、安全な中絶の権利を支持する日です。

 性や妊娠・出産に関わるすべてにおいて、身体的、精神的、そして社会的に本人の意思が尊重され、自分らしく生きる。そのために必要な情報を得ることができ、自分にあった選択肢にアクセス可能であること、つまり避妊する権利と妊娠中絶の権利は、女性の自律性に不可欠なのです。

 しかしながら、日本は、避妊法の一つである緊急避妊薬にアクセスするハードルが高いと言わざるを得ません。今回は、緊急避妊薬についてお話ししたいと思います。

「避妊具が破れてしまって‥。緊急避妊薬があることをインターネットで調べて初めて知りました。休日でも処方してもらえる病院を必死に探しました……」

 ある3連休最終日の正午。私の勤務先のクリニックに20代前半の女性が一人、緊急避妊薬を処方して欲しいとやって来ました。「緊急避妊薬の存在自体、知らなかった」と言います。どうしていいか分からず、インターネットで必死に調べて、内服するには処方箋が必要だと知った。避妊に失敗したのは連休初日になってすぐの2時頃だったため、必死に休日でも処方してもらえる病院を探してやってきたそうです。

 日曜日や祝日に診療していると、緊急避妊薬の処方を希望してやって来る女性にたくさんお会いします。平日であれば、仕事終わりの20時から21時頃も多い印象です。

「仕事を休めないから、休日に受診せざるを得なかった」という女性や、緊急避妊薬を知らなかったが検索して初めて知って病院を受診した女性、つい先月も内服して今回は2度目ですという女性。いろんな理由を抱えて、不安そうに診療室に入ってくる女性が大半です。

 日本を除く多くの先進国では、市販薬としてすでに販売されており、薬局やドラッグストアなどで簡単に購入することができます。ジェネリック薬品も出回っており、米国では10ドル前後と比較的安価で手に入ります。さらに、幼少期からの性教育や避妊についての教育がなされています。実際に、米国の報告によると、2010年時点で、9人に1人の女性は緊急避妊薬を使用したことがあり、最も使用頻度が高いのは20〜24歳(23%)と、未婚女性(19%)でした。使用の理由は、49%が無防備な性交渉でした。

 一方、「欧米より性教育が進んでいない」という理由から、日本では薬局販売が先送りされており、緊急避妊薬は医師の処方箋なしでは手にはいりません。

 日本で唯一承認されている緊急避妊薬である「ノルレボ錠」の2016年の処方数は、約11万3900(ノルレボ錠の売上高から計算)。2012年の約54,000から増加してはいるものの、欧米と比較するとまだまだ使用量は少ないです。どうしてなのでしょうか。

 一つ目の理由として、医師の処方箋が無ければ手に入らないことが挙げられます。日本でも、2017年に厚生労働省の「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」でノルレボ錠について、薬局で薬剤師の指導のうえ購入できるOTC化への転用が議論されました。パブリックコメントでは、賛成が320件、反対はわずか28件という世論の支持を受けたにも関わらず、安易な使用が広がる、などの懸念から、OTC化への転用は見送られました。

 しかしながら、ノルレボ錠は、性交渉後72時間以内に一回1錠(1.5mg製剤)内服しなければなりません。先ほど例に挙げた女性のように、連休初日の夜中に避妊に失敗してしまった場合、連休中に処方してもらわないといけません。平日になって病院を受診してからでは遅いのです。休日も診療している病院にアクセスできればいいですが、今の日本は全ての女性が入手可能な環境ではありません。薬局で手に入らない今、こうした例を引き起こしてしまっているのです。

 二つ目の理由として、義務教育である中学校までの教育において、避妊やピル、アフターピルについて学ぶ性教育が不十分である点が挙げられるでしょう。私ごとですが、医学部に入り、緊急避妊薬のことを講義で学ぶまで、存在すら知りませんでした。もちろん、内服のタイムリミットがあることも。自分のカラダを守る手段として、もっと早く知っておきたかった、知っておくべきだったと思っています。

 性教育の不十分な現状や、処方箋がなければ手に入らないというアフターピルの入手のハードルがまだまだ高い現状では、緊急事態に対処できない事態が発生することは避けられません。

 日本でも、世界避妊デー(9月26日)に合わせて、緊急避妊薬のOTC化や入手アクセスの改善を求める署名キャンペーン「アフターピル(緊急避妊薬)を必要とするすべての女性に届けたい!」が立ち上がっています。「避妊を失敗したけれど、どうしたらいいか分からない」「仕事があって休めない」「土日・祝日で病院がやっていない」「学生には高額すぎて買えない」など、発起人であるNPO法人ピルコン理事長である染矢明日香さんのもとには、こうした相談がたくさん届いているといいます。

 ピルや避妊についての教育の充実や薬局でも購入可能にすることによって、緊急避妊薬までアクセスしやすい環境を整備することは、女性がカラダを守る上で重要なことだと思います。医療者として、自分のカラダを守る知識をお伝えし続けると同時に、一人の女性として、1日も早く緊急避妊薬までアクセスしやすい環境となることを願っています。

◯山本佳奈(やまもと・かな)
1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー、CLIMアドバイザー。著書に『貧血大国・日本』(光文社新書)


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