バイトより「長期インターン」選択が学生の常識? 変わる就活のいま

バイトより「長期インターン」選択が学生の常識? 変わる就活のいま

 いよいよ就活のシーズンが始まった。今年のキーワードは「長期インターン」。これまでの「常識」が変わろうとしている。

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 リクルートスーツ姿の大学生が目立ち始めたこの季節、早稲田大学法学部3年生の早馬光(はやまひかる)さん(20)が向かうのは企業説明会、ではない。東京・渋谷にあるサイバーエージェントのオフィスだ。ここで昨年6月からインターンを始め、10月に同社から内定を得た。現在はほぼ毎日、配属予定のAbema(アベマ)TVの制作現場を駆け回っている。



 就職情報大手のディスコによると、早馬さんのように3月1日時点で内定を持つ2020年卒の学生は全体の13.9%と昨年同時期の8.0%を大きく上回る。面接・内定時期の前倒しが加速している模様だ(グラフ参照)。

「インターン参加企業からの内定」が増えているのも特徴で、現在内定を持つ学生の6割超がそのパターンだ。

 一口に「インターン」といっても実施目的や内容によって四つのタイプがある(表参照)。内定学生が参加したインターンがどのタイプなのかまでは不明だが、早期に内定を取れる学生には「長期インターン」体験者が少なくないと言われる。

 早馬さんが初めて長期の有償インターンにチャレンジしたのは、大学2年生の時。10〜20代向けメディアのライターとして、さまざまな職業人にインタビューし記事を書いた。どんな人にどうやって会ってもらうかはすべて自分次第。他のライターの取材にも積極的に同行させてもらった。

「そこで学んだのは、自ら動かないと会える人にも会えない。能動的じゃないとダメなんだということです」(早馬さん)

 この経験があったからこそ、主に大学4年生が受けるサイバーエージェントの本採用の選考に「潜り込むこと」を思いついたという。

 インターネットで番組を配信するAbemaTVが大好きで、そこで働きたいと強く思っていた。だが、当時Abemaのアルバイトやインターンの募集は皆無。何とかして人事担当者に会いたい一心だった。

 選考では最終まで残ったが、当然内定は19年卒の学生にしか出ない。そこで早馬さんは「長期インターンをさせてほしい」とかけあった。働き始めて4カ月後、念願の内定を手にした。

 サイバーエージェントの執行役員で新卒採用の責任者の石田裕子さんはこう話す。

「長期インターンを特に推奨しているわけではありませんが、インターン経験者は、3年生の3月にようやく動き出す学生に比べれば意識が高く、行動力があるのは確かです。実際のビジネスの感覚に触れてきたか、そうでないかの違いも大きいです」

 こうした状況を察知している今の大学1、2年生も早い段階での長期インターンに注目する。

「ここ1年で、『長期インターン』や『有償インターン』というキーワード検索が倍増しています」

 そう語るのは、長期インターンのマッチングサイト「InfrA(インフラ)」を運営するTraimmu(トレイム)の高橋慶治CEOだ。高橋さんによれば長期インターンの受け入れ企業の大半は中小・ベンチャー。学生は就活では有名企業を選びがちだが、インターンに関しては「仕事内容重視」だという。

 月間100人以上のインターンの応募が殺到するというベンチャー企業を訪ねた。一流ホテル・旅館の宿泊予約サービス「Relux(リラックス)」を運営するLoco Partners(ロコ パートナーズ)だ。出迎えてくれたのは、法政大学経済学部2年生の田村咲帆さん(たむらさきほ)(20)。1年生の終盤から他社で有償インターンを経験し、同社は2社目。「大きな裁量を与えられ成長できる」という評判を聞いて応募した。

 同社のインターンの条件は週3日以上、最短でも6カ月と、かなり厳しい。さらに「インターンを通じて何を成し遂げたいか」を問うエントリーシート(ES)や面接、課題への取り組みなど選考は就活さながらだ。田村さんは、約15倍の難関を突破した。

 現在は月に数百万円単位の予算を渡され、同社の重要なマーケティングチャンネルであるフェイスブックなどSNS運用全般に携わる。

「最近は大手旅行サイトとの連携プロジェクトの責任者にも任命されました。外部との打ち合わせに一人で行くこともあります」(田村さん)

 働き始めて半年で社内のマーケティング・エンジニア部門のMVPを受賞した。正社員を含むメンバー全員が対象だから、そこで評価されたことは大きな自信になった。

「アルバイトと同じくらいの時給で同じ時間を使うなら、アルバイトよりも格段に学びが多い長期インターンを選ぶ。それは周囲の学生の間でも、もう常識になっています」(田村さん)

 同社の組織デザイン部でインターン採用の責任者を務める岡田友宏さんも言う。

「しっかりフィードバックをしてあげることで学生はすごく成長します。彼らは吸収力、アウトプット力において社員と全く遜色ない。完全な戦力です」

 採用コンサルタントの谷出正直さんによれば、長期インターンは実施企業にとってもメリットが大きい。

「大手が有利になりがちな通常の新卒採用では接触できないような優秀な学生に1、2年生という早い段階から関わることができる。採用に結びつけばなお良いし、もし彼らが大企業に就職してしまったとしても、お互いの印象がよければ、転職先の有力候補にもなる」(谷出さん)

 前出のトレイムでは、長期インターンなど経験を積んだ学生に絞った新卒紹介サービスをこの夏から開始する予定だ。終身雇用が崩壊した今、多くの企業は新入社員をゼロから育てる余裕がない。入社直後から「即戦力」となり、雇用期間中に自社にきちんと利益をもたらしてくれる人材が理想とされる。その点で、長期インターン経験者は魅力的に映ると目論む。

 ところで、これだけインターンへの関心が高まる中で、先月末、「採用直結インターンの禁止を政府が経済界に要請へ」(2月26日、朝日新聞デジタル)という報道が話題になった。ネット上では「意味がわからない」「なぜそうなる?」など批判的なコメントが目立った。

 選考過程に数日間のインターンを組み入れているサイバーエージェントの石田さんも、

「企業と学生がお互いのミスマッチを防ぐ上で、インターンは非常に重要なプロセスなのに」

 と困惑を隠さない。

 そもそもこんなにも反発を招く理由は、「採用直結インターン」という言葉が定義されていないからだ。実は政府は2017年にも「インターンシップは就業体験を伴うことが必要」だとして、ワンデーインターンシップなど実質的に企業説明会になっているものについては「インターンシップ」と称さず、「セミナー」や「企業見学会」など別の名称を使うように要請している。そこでは「採用直結」という言葉は使われていないし、今回も同様の要請をするとみられる。

 就活に詳しい法政大学キャリアデザイン学部の田中研之輔教授によれば、表のインターンシップの4類型のうち、就業体験型は政府自らが旗振りをし、推進しているものだから、これは禁止の対象にはなり得ない。政府が問題視しているのは、採用広報解禁日以前に行われる「セミナー型」と就業体験を伴わない「プロジェクト型」。政府や大学からすれば、「人手不足の中で採用が早期化し、『インターン』の名の下に実質的な選考が行われているのは放置できない。学業の妨げにもなるので、そこに歯止めをかけたい」というのが意図だという。

 しかし、セミナー型について「採用広報解禁日以前に行うのは禁止」といっても罰則規定がない限り実効性は乏しいし、そもそも大学3年の3月以前に学生が会社のことを知る機会を奪っていいのかという問題もある。プロジェクト型についても何をもって就業体験とするかなど線引きは難しい。

 だとすればインターンと採用をどう位置付け、どんなスケジュールで進めるのが望ましいのか。田中教授が提唱するのは、1、2年で長期インターンを2、3社経験→その後3年の夏に実質的な選考につながるものも含めてインターンを経験→最終的な選考は、大学の授業の妨げにならないように、春休みの2、3月に実施→大学4年で内定先や他社でもう一度インターンをするというパターン。21年卒以降の学生を混乱に陥れないためにも、言葉の整理も含めて早急な議論が必要だろう。(編集部・石臥薫子)

※AERA 2019年3月25日号より抜粋


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