モンキー・パンチさんの命を奪った急増する「誤嚥性肺炎」の恐怖 医師が指摘する“危ない習慣”

モンキー・パンチさんの命を奪った急増する「誤嚥性肺炎」の恐怖 医師が指摘する“危ない習慣”

 人気アニメ「ルパン三世」の原作者で、漫画家のモンキー・パンチ(本名・加藤一彦)さんが11日、誤嚥性肺炎のため死去した。81歳だった。



 1967年に「漫画アクション」で連載が開始された「ルパン三世」は、荒々しいタッチとハードボイルドな作風で人気を集め、71年にアニメ化。主人公の怪盗ルパン三世だけではなく、次元大介、石川五エ門、峰不二子、銭形警部などの個性的キャラクターも人気を集めた。アニメでは、宮崎駿監督が映画版「カリオストロの城」(79年)を手がけたことで知られている。

 モンキー・パンチさんの死因となった誤嚥(ごえん)性肺炎は、食べ物や飲み物が食道ではなく、気管に入ってしまう「誤嚥」によって、肺炎になってしまう病気だ。がんと心疾患に続いて、肺炎は日本人の死因の3位だが、高齢者の肺炎の約7割は誤嚥性肺炎が占める。高齢者の増加に伴い、患者数も増加しているという。

 誤嚥性肺炎は、食べ物を飲み込む力が衰える嚥下(えんげ)機能の低下が原因になることが多い。自覚症状がなく知らない間に症状が進行していることが多く、放っておくと死に直結する恐ろしい病気だ。なぜ、誤嚥性肺炎は起きるのか。そして、その予防方法は。週刊朝日に掲載された記事から解説する。

* * *
 高齢になって気になるのは、のみ込む(嚥下)力が衰えること。正月になれば餅を食べたい。この欲求を満たすのは難しいのか。そして口の中で増殖した菌が肺に入って炎症を起こし、最悪の場合には死に至る誤嚥性肺炎も気になる。専門家にトレーニングや歯磨きによる予防策を聞いた。

 午後3時半。東京都豊島区の住宅街に、歯科医師の五島朋幸さんが自転車に乗って現れた。午後は訪問診療の時間にあてている。1日3軒から5軒回る。

 戸建てに一人で住む高齢女性の家を訪ね、五島歯科医師がリビングに入ると、ソファに腰掛けてテレビを見ていた女性の入れ歯の治療が始まった。手袋をつけて女性と向き合うように床に正座した五島歯科医師は、「口の左下が痛い」と訴える女性から入れ歯を受け取ると、ポリ袋の口を広げ、その上で充電式の機材を使って、入れ歯を調整していく。削っては口にはめ、削ってははめ、を繰り返す。「カチカチカチとかんでみて」「もうちょっとかな……」。かみ合わせを試すこと3回。「だいぶよくなりました。入れ歯がずれ落ちていたけど、はまるようになった」と女性の顔がほころんだ。

 女性は以前、誤嚥性肺炎を発症し、入院。食事をとれずにやせ細っていたという。誤嚥性肺炎とは、食べ物や飲み物が食道ではなく、気管に入ってしまう「誤嚥」によって、肺炎になってしまう病気。食べ物などと一緒に口の中の雑菌が気管を通って肺に入ってしまうのが原因だ。

 五島歯科医師によれば、ものをごくりとのみ込む嚥下機能が衰えることで食事の量が減り、そのことでよりいっそう嚥下機能が衰える悪循環が生まれる。嚥下機能の衰えは誤嚥を招く。

「何か硬めのものがあれば、一口かんでもらえますか」。五島歯科医師の問いかけに、女性は手元にあったたまごボーロを3粒ほおばった。「かめます。かめます」。女性の目尻が下がった。

 診療時間は20分。「これまでは柔らかいものばかり食べてきたんです。食事の量も減っていて……。でも、これでいろんなものを食べられるようになります」。女性の柔和な表情に安堵した五島歯科医師は言う。「入れ歯をどんどん使ってください。僕はしっかり食べられる口にしますので」

「日本人の死因の1位と2位はがんと心疾患。そして3位が肺炎です。肺炎で亡くなる多くは高齢者。そのうちの7割が誤嚥性肺炎によるものです」

 そう説明するのは、呼吸器専門医で池袋大谷クリニック院長の大谷義夫医師。誤嚥性肺炎は自覚症状が少なく、気づきにくいそうだ。日常生活の中で注意して観察するべき点をこう指摘する。

「誤嚥性肺炎の兆候は、水の飲み方から始まります。水を飲む際に、むせるようになったり、うまくのみ込めなくなったりしたら要注意です。水だけでなく唾液も注意が必要です」

 そのほか風邪をひいたときの症状にも注意が必要だ。

「せきがいつもより長引いたり、体も重たく感じたら、誤嚥性肺炎の可能性があります」

 誤嚥と聞くと食べ物や飲み物にむせてしまうことを思い浮かべる人が多いと思うが、これは自身で気づくことができるため「顕性誤嚥」と呼ばれる。嚥下機能の衰えが主な原因のため、筋力が低下する高齢者に多い。だが、大谷医師はこう注意を促す。「誤嚥性肺炎でより重要なのは『不顕性誤嚥』なんです」

 不顕性誤嚥とは、就寝中に無意識のうちに、唾液が気管に入り込んでしまう誤嚥のこと。そのときに口の中の雑菌も併せて気管に流れ込んでしまう。

「不顕性誤嚥は高齢者に限らず起こりえます。嚥下機能が衰えていなくても、たとえばアルコール摂取でのどの筋肉が弛緩しているうちに寝れば、誤嚥する可能性はあります。気づかないうちに誤嚥を繰り返し、特に40代以上になると口が乾きやすく、唾液内に雑菌が増えるため肺炎になりやすい」

 不顕性誤嚥の原因はのどの筋力の衰えによる嚥下機能の低下だけではなく、ほかにも重要な原因があると大谷医師は指摘する。

「小さな脳梗塞と呼ばれる『ラクナ梗塞』です。高齢者によくみられる症状で、細い血管が詰まる病気。軽度なものは、命を脅かすものではありませんが、嚥下機能に重要な体内物質を減少させます。ラクナ梗塞の原因は動脈硬化。顕性誤嚥に加え、不顕性誤嚥もしっかりと意識してほしいので、生活習慣病の予防にも注意を払ってほしいです」

 誤嚥を引き起こす主な原因が嚥下機能の衰え。のど周りの筋力が低下すれば、誤嚥性肺炎の可能性は高まり、食事をすることもままならなくなる。

 冒頭の五島歯科医師は「一般的な食事をしっかりとることができれば、雑菌も一緒に除去してくれます」と話す。病気を予防して、この先の人生、長く食事を楽しむためにも、口の中、そしてのどの状態には注意を払っておきたい。

 東京医科歯科大学大学院高齢者歯科学分野の戸原玄准教授は、「年齢とともに筋力は低下するが、日常的に口を動かしていれば、ガクッと落ちることはない」と前置きし、「注意するとすれば」として、次のように話す。

「一人暮らしなどで、著しく会話をする機会が少なかったり、食事内容が炭水化物ばかりで筋力をつけるために大切なタンパク質を摂取していなかったりすると、嚥下機能はどんどん落ちていきます」

 訪問診療で高齢者の嚥下障害を診ることが多い戸原准教授だが、嚥下機能が衰えているのは70代から80代が圧倒的に多く、女性に比べて男性が、筋肉が大きい分、衰えるスピードも速いといった性差も見られるようだ。(本誌・秦正理)

■誤嚥性肺炎予防のために心がけたい4つの習慣
【1】1日4回の歯磨き
 起床後、3食後、就寝前の5回のうち、4回は歯を磨いて口腔内の雑菌を減らす。起床後と就寝前が特に大事。
【2】ながら食事をやめる
 テレビを見ながらなどの“ながら食事”は食べること、かむことに集中できず、誤嚥を引き起こしやすい。
【3】食後90分は横にならない
 食後すぐに横になると、胃や食道の内容物の逆流が起きやすい。
【4】空嚥下を心がける
 誤嚥を引き起こさないために、唾液をごくりとのみ込む空嚥下を食事前に数回練習する。

※週刊朝日  2017年12月1日号より。医師の所属は当時。


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