「ねたみ」が「公平感」をもたらす? 狩猟採集時代から必要な感情だった理由

「ねたみ」が「公平感」をもたらす? 狩猟採集時代から必要な感情だった理由

「人間は進化したら何になるの?」
「どうして、“わたし”は“わたし”なの?」

 発想豊かな子どもの疑問に大学教授が本気で答える連載「子どもの素朴な疑問に学者が本気で答えます」。子どもに聞かれて答えられなかった疑問でも、幼い頃からずっと疑問に思っていることでも、何でもぜひお寄せください。明治大学教授の石川幹人さんが、答えてくれますよ。第3回の質問は「クラスメートをねたむ気持ちはなぜ起きる?」です。

*  *  *
【Q】クラスメートが賞をもらいました。ねたましい気持ちになるのはなぜですか?

【A】あなたが、そのクラスメートのことを「利益を分け合う仲間」とみなしているから

 どんなときにねたましい気持ちになるか、どんなときはならないか、少し考えてみましょう。私は小学生のころ、音楽が不得意で理科が得意でした。クラスメートがピアノのコンクールで入賞したと聞いても、まったく気にならなかったのですが、夏休みの理科の自由研究で優秀作品に選ばれたクラスメートに対しては、ねたましい気持ちをいだいたことを覚えています。一方で、見知らぬ人がたとえどんな賞をとったとしても、たいして気にならなかったとも記憶しています。

 皆さんはいかがでしょうか。こうした事例を考えると、どうもねたましい気持ちは、自分が獲得できそうな利益が、仲間に行ってしまったときに感じるようです。一方で、その利益が見知らぬ他人に行ってしまったときには、くやしいとは感じますが、ねたましくはないようです。「くやしい」が自分の内側に向けられた反省の感情であるのに対して、「ねたましい」は知っている誰かに向けられた否定的感情と言えます。

 では、そのねたましい気持ちがなぜ存在しているのでしょうか。喜怒哀楽が他の動物にもありそうな感情であるのに対して、ねたましさは人間特有だと考えられています。そして、恋愛の三角関係で生じる嫉妬が世界中の文学に広くみられることから、ねたましさは特定の文化で生じたものではなく、人間の本性に根差す感情でもあるようです。進化生物学では、そうした感情の起源は、人間特有の生活様式が長く続いた狩猟採集時代にあると考えます。

 人類の祖先は、2、3百万年前から数万年前まで、アフリカの草原で狩猟採集をして暮らしていました。100人くらいの集団で協力して自給自足の生活をしていたのです。食べ物が少ない過酷な環境であったのですが、大型動物の狩りを協力してなしとげていたと考えられています。その狩りはなかなか成功しないものの、成功したときは集団の皆で肉を分け合って食べていたに違いありません。

 この時代に人々が獲得した感情が、公平感です。誰かが食べ物をひとり占めにしていたら許さない、という心理です。考えてみると、ねたましさは、公平を実現するひとつの手段です。ひとり占めが起きていたら、周りで協力してきた人々が「こちらにも分け与えないとひどい目にあうぞ」と圧力をかけたのです。実際に圧力をかけなくとも、ねたましさを感じそうな人が周りにいると思うだけで、ひとり占めにしていた人は、皆に分け与えるよう行動を変えるでしょう。

 つまり、ねたましさは、公平に分けることが常識となっている集団で、ひとり占めしていた人の利益を、皆へ分けるようにうながす感情なのです。よく賞をもらったら、お世話になった人々にお礼をしなさいと言われますが、ねたましさをやわらげる方法としても知られています。仲間だったら誰かの利益は皆で分け合おうというのは、感情的には理想の姿なのです。

 では、あなたが属している集団は、公平に分けることが常識となっている集団でしょうか。あなたの家族ならそうかもしれませんが、あなたの学校のクラスは違うでしょう。もっと広く社会のさまざまな集団についても、公平に分けることはもはや常識ではありません。

 人類は、狩猟採集時代から文明の時代になるにしたがって、集団の仲間で公平に分けるという考え方を徐々に捨てて、利益は個人に属するものという考え方を広げてきたのです。集団のメンバーが変わりやすければ、そのほうが便利なのです。近年のネットを通じて遠くの人とも気軽に友達になれる社会では、逆に近くの人々との仲間意識がますます希薄になってきています。

 もはや、ねたましさは過去の遺物になりつつあります。どんなにねたましさをぶつけてみても、その人がもっている利益を分けてくれるとは考えにくいでしょう。そればかりか、ねたましさを示す人は、いやがられかねません。このように考え、ねたましい気持ちがわき上がってきたら、いち早く楽しいことをして、その気持ちをやり過ごすことです。自然にしているとねたましい気持ちが大きくなってしまいますので、意識して小さくする努力を重ねてください。

【今回の結論】ねたましさは、狩猟採集時代には利益を仲間で分け合う働きがあったが、現代では役割がうすれている。ねたましい気持ちが大きくならないように工夫しよう!


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