脱毛を「隠さない」9歳少女の決意とは 「見た目問題」と生きる親子の思い

脱毛を「隠さない」9歳少女の決意とは 「見た目問題」と生きる親子の思い

 顔の変形やアザ、マヒ……。外見に症状がある人がいる。子が当事者の場合、親は我が子に向けられる世間の目に敏感になり、学校でいじめられないか不安に駆られる。今夏、『この顔と生きるということ』を上梓した岩井建樹記者の長男も、「見た目問題」の当事者だ。親と子の思いとは──。AERA 2019年10月21日号から。

*  *  *
「髪がないの、嫌だよ」

 そう言って泣きじゃくる次女の優芽(ゆめ)ちゃん(9)を抱きしめ、前橋市の新井舞さん(33)はうろたえた。

 優芽ちゃんの頭には、髪の毛がまばらにしか生えていない。円形脱毛症という、免疫の異常で毛髪の組織が攻撃される自己免疫疾患と考えられている。コイン大の丸い形で抜け、自然に治るイメージがあるが、脱毛が全身に広がる場合がある。

 優芽ちゃんが脱毛症を「つらい」と口にしたのは、これが初めてだった。きっかけは、6月にあった学校の社会科見学だ。帰宅した日の深夜、優芽ちゃんは「腕が痛い」と泣き出した。病院で検査をしても異常なし。そんな異変が2週間ほど続いた。

 精神的なものだろうか……。新井さんは「痛い」と泣く優芽ちゃんに「何かあった?」と声をかけた。すると、ぽつりぽつりと、社会科見学での出来事を明かしてくれた。他校の子どもたちに、頭に向けて指をさされ、笑われたとのことだった。

「いつか、こんな日が来ると覚悟していました。ドンと受け止めて、『大丈夫だよ。ママはかわいいと思っているよ。大好きだよ』と抱きしめてあげようと考えていました。でも、傷ついた娘を前にしたら、頭が真っ白になって、ただ一緒に泣くことしかできなかった」

 思わず「気づいてあげられなくてごめんね」と謝ると、優芽ちゃんは「なんでママが謝るの? やめてよ。ママは悪くないでしょ!」と感情をあらわにした。それでも泣くことで感情が発散できたのか、優芽ちゃんは数日で明るさを取り戻し、今は元気に学校に通っている。あれ以来、脱毛について優芽ちゃんが口にすることはない。

 新井さんは「子どもがつらいとき、苦しむ姿から目をそむけずに見届けられる親でありたい」と言う。

 優芽ちゃんのように、外見に症状を抱える人は、学校や恋愛、就活など人生のさまざまなシーンで苦労することがある。「見た目問題」と呼ばれる。治療の緊急性や機能的な障害もないことが多いため、社会から軽くあしらわれがちだ。だが、当事者たちが経験した苦しみは決して軽くない。

 優芽ちゃんの髪の毛が抜け始めたのは生後11カ月から。朝起きると、枕に髪の毛がべったりと落ちていた。

 新井さんを追い込んだのは「円形脱毛症=ストレス」という固定観念だった。円形脱毛症はストレスとは関係なく発症する人も多く、ましてや親の育て方は関係ない。だが、スーパーで買い物をしていると、近づいてきた中年女性に「どういう育て方をしているの? かわいそうに、はげちゃっているじゃない」としかられた。

 脱毛は、かつらで隠すことができる。症状を隠すことを子どもに勧める親もいる。だが、優芽ちゃんはかつらをかぶらず、「隠さない生活」を送っている。

「私も隠すべきだと思っていました。でも、優芽が帽子やかつらを『邪魔だ』と嫌がったんです」

 幼い頃、周囲の視線にひやひやする新井さんにお構いなしに元気に遊び回る優芽ちゃん。保育園の友だちは髪のない娘を受け入れてくれた。そんな様子に「無理に隠さなくてもよいのでは」と気持ちがほぐれていった。

「隠さないと意思を示した優芽を見て、彼女には彼女の人生があると考えられるようになりました。『脱毛を治さなきゃ、隠さなきゃ』という私のこだわりは優芽のためというより、自分の不安を消したいだけだったと気づきました」

 新井さんは2017年6月から、子ども用のウィッグ(オシャレ用かつら)をメーカーと共同で開発し、販売している。蒸れたり、チクチクしたり、重かったりという子どもが嫌がる要素をできるだけ取り除いた。当事者の子どもたちに、脱毛を隠すためというより、オシャレのアイテムとして使ってもらいたいと思っている。

 私の長男も「見た目問題」の当事者だ。顔の右側の表情筋が不形成のため、笑うと顔が左右非対称にゆがんでしまう。悩みがあったら、いつでも相談してもらいたいという思いから、「顔でいじめられてはいないか?」と尋ねてきた。

 ただ、この言葉には「君の顔はいじめられやすい顔だ」という意味が含まれる。そんな親の意識が、息子にすり込まれてしまう恐れがあると気づいた。だから、あえて顔にフォーカスすることなく、「最近、学校はどうだ?」とだけ聞くように変えた。彼の口から顔の悩みが出れば、そのときに向き合えばいい。今はそう思っている。

 だが、外見の話題が家庭でタブー視されるのも、子どもを苦しめることにつながる恐れがある。NPO法人「眼瞼下垂(がんけんかすい)の会」代表理事の大場美津子さん(52)は、「親に悩みを共有してもらえず、恨んでいる」という多くの相談を受けてきた。眼瞼下垂は、まぶたを持ち上げるための筋肉が弱い病気だ。手術をすれば、見た目は改善される。

「手術後、親としては完治したものとして眼瞼下垂は過去の話となりやすい。ある当事者は外見に違和感が残っていたため再手術を望んでいましたが、親に相談できずに苦しんでいました」

(朝日新聞記者・岩井建樹)

※AERA 2019年10月21日号より抜粋


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