車いすバービー登場に喜びの声 「自立したアクティブな存在」

車いすバービー登場に喜びの声 「自立したアクティブな存在」

 かつておもちゃの世界では、障害者は「いないこと」にされてきた。だが障害に対する意識の変化と共に、多様な社会を映すおもちゃが生まれている。AERA 2019年10月21日号に掲載された記事を紹介する。



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 8月上旬、おもちゃ専門店トイザらスの店頭に、車いすに乗ったバービー人形が並んだ。流行のフレアスリーブのシャツにジーンズ姿で、頭にはサングラスがのっている。車いすユーザーの女性(38)は店頭で見つけ、感激しながら手に取った。

「小さい頃から、どうして車いすのお人形はないのかなと疎外感がありました。いま車いすに乗る子たちがこんなに生き生きしたバービーちゃんで遊べたら、勇気がわくんじゃないかな」

 ブロンドの長い髪、細くて長い手足……バービー人形に対して、そんな画一的な美しさを思い浮かべる人もいるだろう。だが近年は髪や肌の色、メイクや体形もそれぞれ異なる個性豊かなバービーが発売されている。

 アメリカで誕生し、今年60周年を迎えたバービーは、「You Can Be Anything(何にだってなれる)」というメッセージを伝え続けてきた。1965年にバービーが宇宙飛行士になったとき人類はまだ月面着陸していなかったし、92年には米大統領選に初出馬している。製造元の日本法人、マテル・インターナショナルの小林美穂さんは言う。

「車いすのバービーは特別なものではなく、たくさんの可能性を持った女の子の一人。当事者だけでなく、多くの人に遊んでもらえたらうれしいです」

 ここ数年で、多様な個性と共生社会を意識したおもちゃを目にする機会が増えた。2016年には、デンマーク発の組み立てブロック玩具「レゴシリーズ」にも、車いすに乗ったフィギュアが初めて登場している。

 きっかけは聴覚障害を持つイギリス人女性の呼びかけではじまった「#ToyLikeMe」運動だった。車いすに乗った子、補聴器をつけている子、白杖を持った子、いろんな子どもがいるのに、フィギュアは健常者の子をモデルにしたものばかり。すべての子どもが「自分みたいなフィギュアがある」と思えるようにしたい。女性の訴えはSNSで広がり、レゴ社への請願には2万を超える署名が集まった。

 2児の母で電動車いすに乗る伊是名夏子さん(37)は、レゴブロック好きの息子がノンステップバスと車いす人形が入ったレゴブロックセットを見つけたとき、「あ、私だ」とうれしくなったという。

「車いすが主人公というわけではなく、たくさんの人形の中に車いすの人形もある。そこが自然でいいなと思いました」

 神奈川県総合リハビリテーションセンターの主任研究員である沖川悦三さんは、20年以上前から世界中の車いすフィギュアを集めている。225種類にのぼるコレクションの大半は海外製で、ネットを通じて購入するなど、苦心して集めたものだ。

「車いすに乗った人形が店頭で一般向けに売られる光景は本当にすごいことです」

 沖川さんは、車いすバービーの発売に時代の変化を感じたという。実はバービーシリーズでは、車いすに乗ったバービーの友達「ベッキー」が97年に発売されたことがある。だが、ベッキーの乗る車いすがバービーハウスに入らないなどの問題があった。ベッキーは公的機関の玄関などに置かれているような備品用の車いすに乗っていたが、車いすバービーには背後から車いすを押すグリップがついておらず、介助を前提としない自分の力で漕ぎやすい車いすに乗っている。

「障害のある人に対する捉え方が、より自立した、アクティブなものに変わってきたのでしょう。来年の東京パラリンピックを通じて、日本における印象もさらに変わっていくかもしれません」(沖川さん)

 国内の玩具メーカーにおいては、障害者を想定した車いすのおもちゃはまだ見あたらない。「シルバニアファミリー」には車いすがあるが、「ナースセット」など、病人やけが人を想定したものだ。だが、鉄道玩具「プラレール」の駅に点字ブロックが設置されるなど、おもちゃの世界にも少しずつ多様性が映し出されてきている。

 障害理解に詳しい筑波大学の徳田克己教授は、こうした動きを歓迎する。

「おもちゃの世界では長年、障害者がいないことにされてきた。やっと出てきたか、という感覚です」

 徳田教授の研究室では、こうした玩具を使った子どもの遊びの研究をしてきた。5人の子どもにバービー4体と車いすに乗ったベッキー1体を渡したところ、誰もベッキーで遊ばず、「ベッキーちゃんは舞踏会には行けないよ」などと仲間はずれにしてしまったという。だが、大人が車いすの操作方法などを紹介するとベッキーも仲間に入れ、最後はベッキーの取り合いになるほどになった。論文をまとめた水野智美准教授はこう話す。

「最初は車いすに違和感を抱いていた子どもたちも、車いすでできることがたくさんあるとわかると一緒に遊び始めたのです」

 こうしたおもちゃを通じて、障害を持つ子どもは自分を肯定的に受け入れ、障害のない子どもは多様性を学ぶことができる。玩具文化に詳しい白百合女子大学の森下みさ子教授は言う。

「大人から子どもに押し付けるのではなく、子ども自身が面白がって遊ぶことが大切です。子どもはもともと多様なものとかかわる素質を持っていますから、夢中になって遊ぶ体験を通じ関係の障害を乗り越えていきます」

 特別な日でもないのにおもちゃを買うなんて、という家庭もあるだろう。そうした場合は、共生社会をテーマにした絵本もまた、障害への理解を深める助けになる。遊びの世界で多様性を知ることは、現実社会における心のバリアフリーを作ってくれるはずだ。(編集部・深澤友紀)

※AERA 2019年10月21日号


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