更年期障害の対症療法としてはホルモン補充と漢方がメジャーだ。女性の場合、思春期から低用量ピルを使って、ホルモンとうまく付き合っていく方法もある。 AERA 2019年12月9日号から。



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 ドコモ・ヘルスケアが昨年、45〜55歳の「更年期世代」と35〜44歳の更年期より若い世代向けに実施したアンケートでは、自覚症状があり、女性更年期障害簡易チェックで51点以上、つまり「受診の必要あり」となった人は4割。だが「気にはなるけど、病気じゃないし」「婦人科はおっくう」と受診をためらう人が多いようで、実際の受診率は更年期世代でも2割に満たない。

 でも、つらい症状があるなら、我慢せず「更年期外来」のある婦人科医を訪ねよう。受診すると医師は、詳しい問診と種々の検査で、更年期障害なのか、更年期障害とよく似た症状を見せる甲状腺疾患や精神疾患など他の疾患なのかを評価する。

 更年期障害と診断された場合、有力な選択肢の一つとなるのがホルモン補充療法(HRT)。のぼせ、発汗などの症状はエストロゲンの低下が直接関連しているので、エストロゲンを補う治療は非常に有効だ。

 腕や太ももに塗るジェルやおなかに貼るパッチ剤、あるいは内服薬の3種類がある。子宮がある女性の場合、エストロゲンだけでは子宮体がんのリスクを上げてしまうため、プロゲステロンを必ず併用する。子宮を摘出した女性にはエストロゲンのみを使う。

 心配する人が多い乳がんのリスクについては、2016年に七つの国際学会がまとめた「HRTに関する国際的コンセンサス」はこう明記している。

「1千人の女性に1年間HRTを行っても、乳がんになるのは1人未満。生活習慣や肥満、アルコール摂取などの一般的な要因によるリスクの上昇と同等かそれ以下だ」

 ただ、年に1度は乳がんや子宮がんの検診を受け、異常がないかチェックすることは必要だ。

「もちづき女性クリニック」理事長で、獨協医科大学医学部産科婦人科特任教授の望月善子医師は、「HRTは高脂血症や骨粗しょう症の予防、皮膚のコラーゲン量の維持などにも効果がある」と話す。ホットフラッシュなどは早ければ1、2週間で改善することもあり、8割の患者が2カ月で軽減したとの報告もある。

 愛知医科大学産婦人科の若槻明彦教授によると、HRTは大腸がんや、胃がん、食道がんなどのリスクを低下させる効果も報告されているという。更年期以降の健康維持のためにも治療の有力な選択肢と言えるだろう。

 30代でまだ更年期ではないが、更年期同様の症状が見られる人もいる。例えば、「冷えのぼせ」がつらいという検査技師の女性(32)の場合、症状が出始めたのは30歳から。冷房が利いた部屋でも首から上は汗が噴き出す一方、手足は氷のように冷たい。検査のために患者さんに触れる時は、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 イライラもひどくなり、以前なら同僚の気が利かなくても「私がやればいいや」とおおらかでいられたのに、最近は「ちぇっ」と舌打ちしながらこれ見よがしにやってしまうことも。

 この女性は医師からピルの服用を勧められた。ピルはHRTと同じホルモン剤。経口避妊薬として知られるが、実は更年期と似た症状の改善にも有効だ。ただ女性は以前、月経不順で処方されたピルで強い吐き気に襲われた経験があり、今回、服用には二の足を踏んでいる。そうしたケースについて、「よしの女性診療所」の吉野一枝医師はこうアドバイスする。

「胃薬や吐き気止め、漢方などと併用するとか、半錠から始める方法もあります。ピルを使い慣れて微調整ができる医師に相談してみてください」

 更年期障害には漢方療法もある。主に使われる「婦人科3大漢方薬」による治療は、「HRTと効果について有意な差はない」という報告も。西洋医学では治療法がないような慢性的な痛みやイライラといった症状に効果的とされる。

 前出の望月医師は、「多彩な症状を呈する更年期障害に漢方が効くケースは多い」と話す。特に「イライラして腰も痛い」というように、心身の複数の症状が同時に出るケースには有効だという。

 3大漢方薬の使いわけは、東京都千代田区の若草漢方薬局の店主で管理薬剤師の吉田淳子さんによると、

「仕事が多くて頭痛や冷えがあるという症状なら、加味逍遥散(かみしょうようさん)。ストレスが原因の症状に効く他、幅広い人に使える」

 一方、むくみが出て、梅雨時季にウツウツするという人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)。のぼせたり、青あざや静脈瘤ができやすいタイプなら、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)。子宮に血がたまるのを改善させるため、子宮筋腫の人に使うこともある。

 ここまで紹介したHRTや漢方はすでに出ている症状への対症療法だが、女性はホルモンバランスの変動とのつきあいが思春期から始まる。吉野医師は、「特に女性医療は予防が大切。月経が始まったら低用量ピルを服用することも是非考えてほしい」と話す。

 中高生から?と思うかもしれないが、同医師によると妊娠・出産の予定もないのに排卵と月経を繰り返すことは、卵巣に大きな負担をかける。そもそも現代の女性は、子どもを10人近く産んでいたころの女性に比べて、生涯に経験する排卵・月経は9〜10倍に増えているという。

「人類史上では異常事態です」(吉野医師)

 排卵・月経回数の増加は、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣がん、子宮体がんが増える原因にもなっているという。

 低用量ピルを服用すると、薬の作用で2種類の女性ホルモンが低めの安定した状態をキープするので、卵巣は起きずに眠った状態になる。薬を休むと出血するが、量は少なく、通常の月経より期間も短い。月経痛、貧血からも解放され、ホルモンが安定することで生理前と後で体調や気分も一定でいられるようになる。

 月経周期を自分でコントロールできるようになるため、受験やスポーツの大事な大会などに差し障ることもなくなる。吉野医師は言う。

「女性ホルモンは男性ホルモンに比べて変動が大きく、それによって起こる健康問題も深刻です。思春期からうまくホルモンバランスを調整する術を持っておくことは、その先の長い人生を健やかに生きるためにも、とても大事なこと。娘さんがいる女性は是非、母娘で一度婦人科に相談してみてください」

(編集部・石臥薫子、ライター・井上有紀子)

※AERA 2019年12月9日号