テレビの医療ドラマでは、主人公の医師が患者の病気を突き止めていくシーンがよく描かれます。原因となる病気を的中させて治療がうまくいく……という流れが多いようですが、実際の診療はどうなのでしょうか? 『心にしみる皮膚の話』の著者で、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師が、自身の経験をもとに語ります。

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「左足に変な模様ができました」

 そう訴える年配の男性患者さんが受診しました。

 冬場になってから、左足の前面(すねの部分)に赤茶色い網目状の模様が出現してきたとのこと。

 念のため、両足を見せてもらったのですが、その網目状の模様は確かに左足にしかありません。

 なるほど。

 ある仮説がぼくの頭の中に思い浮かびました。そして、それを確かめるため、患者さんに一つの質問をしました。

「右足は寒くないんですか? 普段」

 患者さんは驚いた顔をして答えました。

「はい。右足は寒くありません。何年か前に交通事故に遭ってから、足の感覚に左右差があるんです。でも、どうしてわかったんですか? そのことはお話ししてませんよね」

「なるほど。これですべて解決しました」

 テレビドラマであれば、ここで効果音が流れる場面です。

「あなたの病気は……」

 ぼくはもったいぶって診察室を見渡します。

 患者さんは固唾(かたず)を飲んで聞き返します。

「病気は?」

 ぼくは診察室の片隅を指差し、

「電気ストーブによるやけどです」

 決まった。

「ぷっ」

 患者さんは噴き出しました。

「わが家に電気ストーブはありません」

 あららら。

 一気に自分の顔が真っ赤になるのがわかりました。

「でも、こたつがあります。ずっと左足が冷たくて、左の足しかこたつにいれてないんです」

 なんと優しい患者さんでしょう。ぼくの迷推理をフォローしてくれました。気を取り直して患者さんに説明を続けます。

「ひだこという病気です」

「ひだこ?」

「はい、やけどの一種です」

 床暖房があまり普及していない寒い地域では、冬は屋内も寒くなり、電気ストーブで足元を温める人が「ひだこ」をつくって病院に受診されます。しかし、私は都市部の病院で勤務しているため、ひだこそのものを診る機会がそれほど多くありません。

 ひだこは低温やけどの一種です。

 放置していても特に問題はないのですが、ひだこ以上のやけどになってしまうと傷ができます。これ以上、熱源に近づいたらいけないというサインでもあります。なので、先の患者さんには薬の処方はせず、「こたつの熱源に足を近づけすぎないようにしてくださいね」と指導しました。

 気をつけなければいけないのは、ひだこに似たような網目状の模様ができる病気があることです。血管炎の一部は、見た目がひだこにそっくりな模様をつくります。

 ひだこは、一般の人にはあまりなじみのない皮膚病のように感じられるかもしれませんが、ひだこが語源となる「ある有名な地方の行事」はみなさんよく知っているはずです。

 それは、

「泣く子はいねがー」

 で有名な、なまはげです。

 なまはげの語源は、「火斑(なもみ)を剥ぐ」がなまったものと言われています。囲炉裏にあたってできた「なもみ」は、冬場、火にあたってばかりで怠けていた証拠として考えられていました。温かいところでぬくぬくとサボっているなもみを剥ぎ、怠け者の子供を戒めることから、なまはげと呼ばれるようになったそうです。

 この「なもみ」こそが、ひだこです。

 ここまで説明すると患者さんもうなります。

「へー、面白いですね」

 私は迷推理を挽回(ばんかい)すべく、ひだことなまはげのトリビアを患者さんに説明して一件落着。

 皮膚科医としての矜持(きょうじ)は守りました。

 このように、皮膚病は地域の風習や伝統に深く関わります。また、時代とともに減りつつある病気も、なまはげのように形を変え、知識として後世に残っていきます。

 私はなかなか名探偵にはなれませんが、皮膚病にまつわる豆知識を知ることができるのも、皮膚科医冥利(みょうり)につきるものです。

 テレビでは医療ドラマがブームですが、皮膚科医を主人公にした番組はまだないようです。ずっこけ名探偵を主人公にした皮膚科医のドラマ、誰かつくってくれないかしら。