暮らしていると所得税や消費税など様々な税金をとられていく。給料や年金は増えず生活が苦しいなか腹立たしくもなるが、そんなあなたに税金を取り戻す方法を紹介しよう。医療費などを控除する「還付申告」はいつでもできる。2月17日から始まる「確定申告」を利用する手もある。年金生活だから関係ないと諦めず挑戦してみよう。



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 税金の話はわかりにくい。専門用語が使われ制度も複雑だ。まずは還付申告や確定申告の説明から始めよう。

 還付申告とは、払いすぎた税金を取り戻す手続きのこと。一定額を超える医療・介護費がかかったり、寄付をしたりした人らが対象となる。注意すべきは、自主的にやらないとダメなこと。税金は強制的に徴収されるのに、還付申告の権利があっても税務署などから連絡は来ない。知らないまま放っておくと損する。

 還付申告は確定申告とは違って、受付期間は限定されていない。対象となる支出などがあった年の翌年1月からできる。還付申告だけで確定申告をする必要がない人は、今日にでもすぐにできるのだ。

 やったことがない人は、5年分さかのぼって申告できる。医療費などの支出を裏付ける領収書などの証拠がいるが、2015年以降の払いすぎた税金をまとめて取り戻せる。

 確定申告は、所得の合計などをもとに課税金額を確定させるもので、自営業者らが対象となる。2カ所以上の会社から給料をもらっている場合や、給料以外の「雑所得」が年間20万円を超える場合は、会社員らも対象となる。期間は今年は2月17日から3月16日までで、この間にしないと無申告加算税を課される恐れがある。

 還付申告も確定申告もずっとしていない人は、税金を取り戻せるチャンスを逃しているかもしれない。サラリーマンは給料から税金が天引きされ、会社で「年末調整」をしている。気をつけるべきは年金生活者だ。

 年金生活者で確定申告をしている人の割合は少ない。公的年金の被保険者は7千万人弱いるが、そのうち確定申告している人は1割前後しかいないとされる。理由は受給者の大半が、年金が年間400万円以下などの場合に適用される「確定申告不要制度」の対象になることだ。手続きの負担は軽いが、自分の税金についてチェックしにくい。

 65歳未満なら年金が年間108万円超で、65歳以上なら年間158万円超で所得税が天引きされている。年に1回、「公的年金等の源泉徴収票」が日本年金機構から送られてくる。対象者は3700万人にも上り、税額を把握していない人もいる。年金で暮らす都内の70歳女性はこう言う。

「源泉徴収票は送られてきましたが、中身は詳しく見ていません。年金は年間400万円以下なので確定申告の必要はないはずです。医療費は大きな額を自己負担していますが、還付申告できるのかどうかもわかりません。確定申告や還付申告は手間がかかりそうだし、税金が戻ってくるとしても少しだけでしょうから、していません」

 このように申告していない年金生活者はたくさんいる。確定申告のメリットは払いすぎた税金を取り戻せるだけではない。課税対象となる所得が減れば、それに連動して住民税も減る。所得の区分が下がると、低所得者向けの様々な支援制度が受けやすくなる。

 ここまで説明してきたように、還付申告や確定申告をすれば、税金を取り戻せるかもしれない。では、どんな人がやるべきなのか具体的に見ていこう。

 まず、高齢者らが該当しそうなのが医療費控除だ。年間10万円を超えた分は、納税額のもとになる所得から差し引ける。家計が同じであれば、妻や子どもらの医療費も合算できる。10万円を超えなくても、年金生活などで所得が少ない場合は対象になる可能性がある。

 税に詳しいファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは、所得が200万円未満の場合は、所得の5%を上回った分だけ控除が受けられると指摘する。

「収入が年金だけの場合は、所得が200万円を下回る人も多い。例えば所得が100万円の場合は、5万円を超えた分の控除が受けられます。10万円という数字にとらわれずに、その年にかかった医療費を確認するようにしましょう」

 難しいのはどんな医療費が対象になるのか。診療費や薬代のほか、入院の部屋代や食事代、治療のためのマッサージ代などだ。松葉づえや補聴器、通院にかかった交通費も含まれる。

 一方で、自分の都合で払った差額ベッド代などは対象外。疲れを取ったり体調を整えたりする目的のマッサージ代や、体温計の購入費なども同じだ。

「入院時の食事代は控除の対象になりますが、おやつなど自分で買ったものは含まれません。健康診断や人間ドックの費用は対象になりませんが、病気が見つかり治療する場合にはなります。ややこしいものもあるので、迷ったら税務署や税理士らに相談しましょう」(黒田さん)

 介護の費用も医療費控除の対象だ。自宅への訪問看護やリハビリテーション、医師らによる管理・指導などが含まれる。寝たきり時のおむつ代も控除できるが、医師による「おむつ使用証明書」が必要だ。

 医療や介護で支払った領収書や明細書などは、捨てないこと。医療費控除を受けるには税務署に行って申告書を記入するやり方のほか、事前に登録すればネットでもできる。明細書を提出するが、領収書は5年間は保存する。

 どのぐらいの額を取り戻せるのか。仮に医療費が15万円かかったとする。10万円を超える5万円分が所得から控除される。この控除額がそのまま戻ってくるわけではない。課税所得が減り所得税が減った分が戻ってくるので、5万円に所得税率をかける必要がある。

 所得税率は課税所得に応じて決まっていて、課税所得が500万円のサラリーマンだと税率は20%なので、5万円×20%の1万円が戻ってくる。単純化した計算で実際はもっと複雑だが、一つの目安にはなる。

 年金生活者では所得税率が5%の人も多く、医療費控除を受けても数千円しか戻ってこないこともある。だが、払いすぎた分を取り戻すのは当然の権利。申告することで納税者としての意識も高まる。

 かぜ薬などの薬代も控除できる。17年から始まった「セルフメディケーション税制」(医療費控除の特例)を利用しよう。

 市販薬のうち国が指定した「スイッチOTC医薬品」で、1年間の購入額が計1万2千円を超えた分が控除の対象になる。購入額の限度は10万円なので、10万円引く1万2千円の8万8千円を最大で控除できる。通常の医療費控除のように10万円を超えなくても適用できるので、対象となる家庭は多いはずだ。

 健康維持のための一定の取り組みを行うことが前提なので、健康診断やがん検診などを受けていなければならない。

 対象品目はかぜ薬なら、「パブロンSゴールドW錠」(大正製薬)や「エスタックイブNT」(エスエス製薬)などいろいろ。胃腸薬や肩こり・腰痛の湿布薬、水虫薬や禁煙パッチなどもOKだ。1月28日時点で1787品目ある。

 薬品の外箱に共通のマークがあったり、レシートに「★」などの印が付いていたりする。レシートは原本を保存しておく。ネット通販では証明書類を送ってもらう。

 セルフメディケーション税制と通常の医療費控除の両方は利用できない。どちらを使うか検討してほしい。セルフメディケーション税制は比較的少額から使える利点がある。医療費控除は比較的高額の場合は有利だ。支出に応じて1年ごとに選択を変えることもできる。

「家族全体でかかった医療費の10万円を超える額と、セルフメディケーション税制で控除できる額(上限8万8千円)を比べて高いほうを選びましょう。ネットで試算できるサイトもあります」(前出の黒田さん)

 自分の分はもちろん家族の国民年金や国民健康保険、民間の生命保険の保険料などを払っている場合も控除できる。サラリーマンは年末調整で確認・手続きするが、自営業者や年金生活者らは自分で申告する。

 国民年金や国民健康保険などの社会保険料は、保険料の全額が控除される。個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)の掛け金も全額だ。

 民間の生命保険や介護保険、個人年金保険の保険料は、12年1月以降の「新契約」の場合、それぞれ4万円、3種類の保険の合計で12万円まで控除を受けられる。それより前の「旧契約」は生命保険と個人年金保険が対象で、それぞれ5万円、合計で10万円まで。

 地震保険料は5万円までで、火災保険部分は対象外。

 自然災害の被災者や犯罪の被害者も控除を忘れないように。「雑損控除」として住宅や家財に生じた損害額や、取り壊し・撤去費などの「災害関連支出」が対象だ。

 住宅や家財の損害額と災害関連支出の合計から保険金や、所得の10分の1を差し引いた額か、災害関連支出から5万円を引いた額のどちらか多いほうとなる。損失額が大きくその年の所得から控除しきれない場合は、3年間まで繰り越せる。

 犯罪被害といっても、詐欺や恐喝は対象にならない。店舗や設備など事業用資産や、1個当たり30万円を超える貴金属などぜいたく品、別荘も対象外。

 申告には住宅や家財の取得日がわかる書類、罹災証明書や被害届を用意する。

 自然災害によって住宅や家財が時価で50%以上の損害を受けると、「災害減免法による所得税の軽減免除」を利用できる。雑損控除と災害減免は、どちらか一方しか選べない。災害減免は所得が500万円以下の場合に所得税全額を払わなくてよい。どちらが得かはケース・バイ・ケースなので税理士らに相談しよう。

 高齢化社会に対応した制度もある。バリアフリーや省エネ、耐震などのリフォームをしたときも税金は戻ってくる。

 例えばバリアフリーリフォームの場合、50歳以上なら、国が決めた標準的な工事費(上限200万円)から補助金などを引いた額の10%分の税金を取り戻せる。自分が所有する家で、21年末までに工事が終わって住み始めることなどが条件だ。税額控除なので所得控除よりも効果が大きく、うまく活用すれば節税対策になる。

 省エネリフォームも、標準的な工事費(上限250万円)から補助金などを引いた額の10%分を税額控除できる。工事費の上限は太陽光発電設備が含まれているときは350万円になる。

 耐震リフォームも工事費の10%が税額控除の対象となり、戻ってくる税金は最高25万円になる。細かな条件もあるので、リフォーム業者らに確認しよう。

 日本は欧米に比べ寄付文化が乏しいと言われてきたが、近年は変わりつつある。国や自治体、政党や公益社団法人、認定NPO法人といった団体に寄付すれば所得控除が受けられる。

 寄付金の合計から2千円を引いた額に、所得税率をかけた分だけ戻ってくる。例えば所得額が300万円の人は税率10%なので、10万円を寄付すると9万8千円×10%分の9800円だ。

 公益社団法人や認定NPO法人など、特定団体への寄付はさらにお得だ。寄付金から2千円を引いた額の40%の所得税が戻ってくる。さらに個人住民税の10%もあるので、寄付金の最大50%分にもなる。例えば10万円を寄付すると、9万8千円×50%の4万9千円が戻ってくることもあるのだ。

 どれが特定の団体に当たるのかは、自治体や内閣府のホームページや団体への問い合わせで確認しよう。

 身近な寄付といえば「ふるさと納税」がある。所得や家族構成などに応じた一定額内なら、寄付金から2千円を引いた全額が戻ってくる。このため2千円の自己負担だけで、寄付金の3割に相当する返礼品をもらうことができる。

 例えば年収500万円の独身の人なら、約8万円までは2千円の自己負担だけですむため、8万円×30%の2万4千円分の返礼品が実質的にタダでもらえるのだ。「合法的な脱税」とも指摘されるほどお得なため、利用者は増えている。

 寄付先が5カ所以内などの条件を満たすと確定申告しなくてよい、「ふるさと納税ワンストップ特例制度」もある。6カ所以上に寄付したり、他の控除を受けるために確定申告したりする場合は、ふるさと納税分についても申告が必要になる。自治体の「寄付金受領証明書」はなくさないように整理しておく。

 税金を取り戻す方法は、いろいろあることがわかってもらえただろう。戻ってくる額は一つ当たり数万円かもしれないが、組み合わせれば数十万円になることもある。過去5年分さかのぼって申告できるので10万円以上戻ってくるかもしれないのだ。金額にこだわらず、まずは少しでも取り戻してみよう。そうすれば、税金への関心が高まり、さらなる節税策を検討することができる。

 還付申告や確定申告のポイントをまとめた(下記)。領収書を残すことや専門家への相談など、基本的なことを守れば大丈夫。あなたも税金を取り戻せる。(本誌・池田正史、多田敏男)

■税金を取り戻すためのポイント
・還付申告はいつでもできる
還付申告だけなら1月からできる。前年の控除分について税務署に出す。確定申告は毎年2〜3月の期間内にすませる

・納税額が少なくてもやってみる
もともとの納税額が少ないと控除で戻ってくる額も少ないが、申告は自分の家計を見直すいい機会。控除で所得の区分が下がると、低所得者向けの様々な支援制度が受けやすくなる

・やっていない人こそチャンス
控除は5年分はさかのぼって申告できる。まとめて税金を取り戻せる。なくした領収書や明細書を再発行してくれることもあるので、購入先や医療機関に問い合わせてみよう

・支出の証拠を残しておく
医療費に限らず領収書やレシートは残しておく。証拠さえあれば後から申告書類はつくれる。病院への交通費などは確認できるようにメモしておく

・税務署や税理士に相談する
払いすぎた税金を取り戻すのは当然の権利。必要な書類や手続きは税務署にどんどん聞く。税理士の無料相談会もある

※税理士らへの取材をもとに作成

※週刊朝日  2020年2月21日号