今や疲労は「国民病」ともいわれるほど、人々に蔓延している。AERA2020年3月30日号では、疲労研究のスペシャリストがそのメカニズムを解説する。



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「66歳相当」
「判定 要注意」

 2月28日、渡された検査結果を見て、衝撃を受けた。

 現在、55歳。自慢じゃないが若いころは健康だけが取りえで、たばこ、深酒、夜更かしと不摂生な生活を送った。それでもメタボの心配もなく、健康診断も「異常なし」。

 ところが、ツケが回ってきたのか「50の声」を聞いたあたりから疲れが取れにくくなり、今や半端ない。何かに追われながら、いつも疲れている。だるい、まぶたが重い、肩が凝る……。眠りが浅く、原因不明の不調を感じることも増えた。

 だが、これではっきりした。疲労度を示す「年齢」が「66歳相当」と、実年齢より11歳も上。前期高齢者並みに疲れていたのだ。

 ここは東京都港区にある「東京疲労・睡眠クリニック」の診察室。自分がどれだけ疲れているのか、現状をまず把握しようと、疲れ具合を測りに来た。

 検査に使ったのは「疲労ストレス測定システム」と呼ばれる、疲労を「見える化」する計測機器。ゲームのコントローラーのような形状の測定器を手に持ち、側面の穴に両手の人さし指を差し込むだけでいい。

 目を閉じること2分。

 指先からの脈拍と心電波によって、自律神経の機能が示す年齢と自律神経のバランスなどを測定する。疲労度を示す「自律神経年齢」は前述の通り66歳。自律神経のバランスを示す指標は、基準値「0.8〜2.0」を大幅に超え「12.41」。総合評価は「良好」「注意」「要注意」の3段階で示されるが、判定は、赤い泣き顔マークがついた「要注意」だった。

「このような状況が続くと、慢性的な疲労やメンタルヘルス障害に結びつくこともあります」

 そんな深刻なことまで、評価欄には書かれていた。

 記者だけではない。2002年に厚生労働省が働く人々を対象に実施した調査では、7割を超す人が普段の仕事で「疲れる」と回答。調査会社のマイボイスコムが18年にインターネットで行った「疲れ・疲労に関するアンケート調査」でも、約1万人の回答のうち7割弱が慢性的な疲労を感じていた。今や疲労は「国民病」。放っておくと、過労死や突然死にもつながる。こうした最悪のケースに至らないよう、まずは疲れの正体を見極めたい。

 そもそも疲労とは、何か。

「それは、脳にある自律神経の中枢が疲弊することです。疲れるのは体ではなく、脳なのです」

 こう話すのは、同クリニックの梶本修身(おさみ)院長(57)。03年10月から07年9月まで実施した産官学連携の「疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクト」で統括責任者を務めた、疲労研究のスペシャリストである。

 かつては筋肉中に増える乳酸が疲労の原因だと考えられてきたが、近年の研究で、心拍や呼吸の乱れを調節する力が落ちるからバテるのだとわかってきた。心拍や呼吸に加え、血液の循環、消化吸収など生きるために必要なさまざまな生理現象を調節しているのが自律神経だ。

 全身の「司令塔」といわれる自律神経は、ほかの細胞と同じように酸素を消費しながら活動する。消費した酸素のうち1〜2%は、強い酸化力を持ち、「活性酸素」と呼ばれる物質に体内で変化する。体には活性酸素から細胞を守るシステムが備わっていて、通常であれば細胞が傷つくようなことはない。ところが、激しい運動や長時間のデスクワークなどで強いストレスを感じると、酸素の吸入量とともに活性酸素の量も一気に増える。

 すると、何が起きるか。

「細胞を守るシステムが処理できる量を超えてしまい、自律神経の細胞が酸化し、傷つく。このように酸化ストレスにさらされた状態では、自律神経本来の働きができなくなり、パフォーマンスが低下してしまう。これが疲労の正体です。自転車のチェーンがさびて動きにくくなるのと同じです」(梶本院長)

 しかも、自律神経の機能は、年齢を重ねるごとに下がっていく。緊張状態で優位になる交感神経と、リラックス時に優位になる副交感神経の二つの機能の合計値をトータルパワー(TP)といい、個人差はあるが、年齢とともに右肩下がりに低下する。10代をピークに、20代から低下し、40代では20代の約半分、50代では3分の1……。

「筋肉は40代、50代になっても鍛えることはできますが、自律神経の機能の低下を防ぐことはできません。同じ活動をしても、年を取れば取るほど疲れやすくなったと感じるのは、仕方ないことなのです」(同)

 だからといって、年のせいにして放置すると、仕事や生活の質も落ちていく。身体をさびつかせず、疲れをとるためには、どうしたらいいのか。

 決め手の一つが食事だと、梶本院長は言う。

「働き方で肝心なのは、生産効率を上げること。食べ物や食べ方を工夫して疲れを減らすことは大切です」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2020年3月30日号より抜粋