疲労の回復のカギを握るのが、食事だ。最近の研究で、疲れの原因にピンポイントで作用する成分を含む食品がわかってきた。おすすめは鶏むね肉。AERA2020年3月30日号は、「疲れに効く食事」を特集。鶏むね肉の優れた疲労回復の効果を紹介する。



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 何を食べれば疲れにくくなるのか。多くの人がまず思い浮かべるのは「スタミナ料理」の焼き肉だろう。都内の会社員の男性(42)は言う。

「疲れた時は、焼き肉をガッツリいきます。食べた後は、よしやってやるぞ!という気持ちになります」

 IT企業で営業をしている会社員の男性(30)のイチオシは栄養ドリンクだ。いわく、

「すっきりして目がさえます」

 疲れがたまっているので、平日は1日に1本は飲むという。

しかし「東京疲労・睡眠クリニック」の梶本修身(おさみ)院長(57)は、焼き肉も、医薬品や医薬部外品に位置づけられる栄養ドリンクも、疲労回復の効果は期待できないと言う。

「焼き肉などスタミナ料理を食べれば疲れが取れると思いがちですが、脂っこい肉を消化するのに内臓に負担がかかるため、余計に疲れてしまいます。栄養ドリンクは、眠気を覚ます効果はありますが、疲労そのものはなくなりません」

 では、疲れに効く食べ物は何か。すでに述べたように疲れの原因は活性酸素による酸化ストレスだ。酸化に抗う「抗酸化作用」があり、狙い撃ちできる食品がある。なかでも、梶本院長が最も効果が高いと薦めるのは「鶏むね肉」だ。

 牛肉や豚肉でなく、鶏肉のなかでもなぜ、もも肉と比べてパサパサした食感のむね肉なのか。

「カギを握るのが、イミダペプチドと呼ばれるたんぱく質の一種です。抗酸化作用があり、脳の自律神経中枢に働きかけ、細胞がさびるのを防ぎます」(梶本院長)

 イミダペプチド──。聞き慣れない言葉だが、抗疲労メカニズムの研究過程で注目されるようになったという。ほとんど休まずに長い距離を飛び続ける渡り鳥の羽の付け根を調べると、イミダペプチドが豊富に含まれていた。これが、疲労の原因である酸化ストレスを緩和していたのだ。スーパーに売られている鶏むね肉にも、100グラムあたり、200ミリグラムのイミダペプチドが含まれている。

 抗酸化作用がある成分は、チョコレートに含まれるポリフェノール、キウイやレモンなどに含まれるビタミンC、トマトに含まれるリコピン、ニンジンに含まれるカロテンなどほかにもある。だが、そのほとんどは、1時間前後で効果がなくなっていくという。例えば、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種「アントシアニン」はイミダペプチドより抗酸化力が強いが、自律神経に届くまでにほとんど消費されてしまう。

 一方、イミダペプチドは、消化管で吸収され、いったん二つのアミノ酸に分解される。その後、血液の流れに乗って脳や骨格筋まで運ばれ、再び合成されてイミダペプチドに戻る。再合成されることで効果が持続し、もっとも消耗の激しい脳の自律神経の中枢に、ピンポイントで働きかけることができる。こうした点が、ほかの抗酸化成分と一線を画す最大の特長だ。

 梶本院長が統括責任者を務めた03年10月から07年9月まで実施した産官学連携の「疲労定量化および抗疲労食薬開発プロジェクト」で、日常的に疲労を自覚している207人の被験者を対象に科学的な実験を行った結果、1日200ミリグラムのイミダペプチドを2週間摂取し続けると76%の人が「疲れにくくなった」と自覚するという結果が出ている。

 だが、効果が出るまで2週間は、長い。食べてすぐ疲れが取れる即効性のある食べ物はないのか問うと、「ありません」と梶本院長。

 鶏むね肉以外ではダメなのか。

 イミダペプチドは、マグロやカツオなど全身運動をする回遊魚や、豚肉や牛肉などにも含まれている。しかし含有量は鶏むね肉より少なく、例えばマグロで1日200ミリグラムのイミダペプチドを摂取しようと思えば、毎日160グラム食べる必要があると、梶本院長は言う。

「豚ロース肉であれば1日130グラム、牛肉なら1日400グラム。特に、牛肉は脂肪分が多くカロリーも高いので、生活習慣病のリスクが高くなります。対して鶏むね肉は低脂肪・低カロリーで高たんぱく、しかも経済的です」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2020年3月30日号より抜粋