緊急事態宣言が5月末まで延長されることが決定した。外出自粛が続く中、ストレスをどう解消していくのか。カップルカウンセラーの西澤寿樹さんが夫婦間で起きがちな問題を紐解く本連載、今回は「受動的な生活の落とし穴」について解説する。

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 新型コロナウイルスをめぐる状況は刻々と変わっていますが、皆さんのストレスは高原状態が続いていると思います。前回のコラムでも書きましたが、人が普通に我慢できるのは1週間です。日本では小出しに少しずつ警戒度を上げられてきたので、その時々で我慢している(努力している)にもかかわらず、なかなか状況が改善せず(努力の結果が出ず)、我慢すべき(努力すべき)ハードルが上がっていくという、心理的に非常に厳しい状況に置かれています。

 政府や自治体や専門家など、それぞれの立場の人たちは最大限頑張っていると思いますので、誰が悪いということではありませんが、先が見通せない中で、不安をあおるようなニュースばかり目にするのは心理的にきついことです。

 さらに、今のところ治療薬が開発されていないわけですから、感染しないためにも(残念ながら感染してしまった場合も)、自らの免疫力で対応するしかありません。その免疫力を高めるためには、よく眠り、運動をし、バランスの取れた食事をとり、ストレスをためないこと、などが勧められています。ストレスをためないためには、ざっくり言って「生きていることを楽しむ」というのが一番なのです。

 しかし、新型コロナウイルスのような感染症の厄介なところは、「人生を楽しむと命を危険にさらしてしまう」ということです。当初パンデミックが生じた、イタリアやスペインの人たちは、大勢で会食して会話し、歌い、ハグし……と人生を楽しむのが大得意な国民性ですが、それも災いしたのかもしれません。ストレス対処や免疫力の向上には楽しむことが大事なのに、一方で、楽しむことは感染を引き起こすという、この矛盾をどう解決するのか知恵が必要です。

 外出自粛のため、いま人気映画やドラマがテレビでも放送されています。ネットフリックスなどの動画配信サービスも人気ですし、タレントさんたちもたくさんの無料動画を配信してこの事態を応援してくれています。今まで忙しくて見られなかったものを見たり、この期間限定の動画を見たりするのはもちろん楽しみの一つになり、しストレス解消にもいいと思います。しかし気を付けるべき面もあります。それは、一日中「受け身の体験だけになっていないか」です。テレビを見ても動画を見ても、受け身の体験です。

 一日のうち多少は体を動かすのが必要なのと同じように、心の安定のためには、精神的な面でもある程度能動的に活動することが必要です。精神は思考だけではないので、考えているだけでは足りません。

 前回は、息詰まる対人関係で、「あなたはそう思うのね」と思うこと、場合によっては、言ってみることをオススメしました。実践してみた方はお分かりだと思いますが、実際に声に出してみるのは相手に直接言わなかったとしても、思っているだけよりも何十倍ものパワーがあります。声を出すということは能動的な行動であるとともに、ストレス対応としてもとても大事なことです。

 この状況は以前相談にいらっしゃった、中東のある国に転勤したご夫婦のケースと似ていると感じます。妻、好美さん(仮名、30代、パート)は夫の悟朗さん(仮名、30代、メーカ勤務)の転勤で引っ越しました。好美さんは、もちろん覚悟してついて行ったのですが、自分でも我慢強い性格だと思っていたこともあり、実はそれほど深刻には考えていませんでした。しかし、現地での生活は想像以上にきつくて「気が狂いそうだった」とおっしゃいました。

 生活習慣が全く違う、言葉が通じない、外は暑くて外出もままならない。そこまでは想定内で、不便ではあってもそれほど辛く感じなかったのです。しかし、耐えられなかったのは、話す相手がいない時間が1日に12時間以上あったことでした。気が付くと部屋の隅で縮こまって、夫の帰りを待っている日々が続いたそうです。

 ある日、そんな自分がおかしいのではと気が付いて実家に電話したら、気持ちがあふれてしゃべることができませんでした。そのことで、「ああ、自分には話すことが足りていないんだ」と気づいたそうです。日本でやっていたパートの仕事は経理で、黙って黙々とやるので、職場で会話をしているという意識はなかったそうですが、それでも積み重ねれば1日30分程度は業務指示や報告、問い合わせで人と話をしていました。たったそれだけのことですが、全く無くなってしまうとこんなにもインパクトがあるとは思っていなかったとのことです。

 当時はまだ、Skypeなどのインターネットを使った通話ツールが一般的ではなかったので、1日10分と決めていた実家や友達への国際電話が命綱だったそうです。

 カウンセリングでもよくトピックになるのですが、なんとなく習慣的にくっついていることを別々に考えると、問題を解決するカギになることが少なくありません。現在、物理的にはソーシャルディスタンシングが求められることは致し方ないことですが、それにくっついている会話量を減らさないためにどうするかという工夫が大切です。

 同居人がいなかったり、何かの事情で話をしにくかったり、自分が望むほど話せないなら、ZoomでもLINEでも、もちろん普通の電話でもいいので、誰かと話しましょう。

 さらに私が提案したいのは、家で歌うことです。「サザエさん」の磯野波平さんみたいに風呂に入りながら歌うのもいいし、家事をしながら鼻歌でもいいです。歌番組やYouTubeを見ながら一緒に歌うのでもいいです。

 こんな時だから明るい歌を歌った方がいいとか、そんなルールは不要です。暗い気分なら暗い気分の歌でOKです。怒りたいなら怒りの歌、泣きたい気分なら泣ける歌、なんでもOKです。イタリア人みたいに、ベランダに出て大声で歌う必要もありません(もちろん、やってもいいですが)。家族で歌合戦をするのもいいですし、逆にこっそり家族に聞こえないように囁くように歌うのでもOKです。

 歌うのが、ちょっと……という人は、せめて声を出しましょう。

 同居の人がいるなら、できるだけ会話を増やし、喧嘩になりそうになったら「あなたはそう思うのね」でしのぎます(ストレスが高いときですから、喧嘩になりやすいです)。外出自粛は仕方ないとして、外出の自粛前と同程度の会話量を心がけてほしいと思います。(文/西澤寿樹)

※事例は事実をもとに再構成しています