新型コロナウイルスの感染拡大で小中高校、大学での「休校措置」や「リモート授業」が続いています。「学ぶ権利」が失われたかのように思える今こそ、何ができるのか。このほど『勉強が楽しくなっちゃう本』を刊行した、「QuizKnock」のCEOであり、東大クイズ王の伊沢拓司さんにお話を伺いました。

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――コロナ感染への対策は今後、長期化することが予想されます。適切な「遠隔教育」や「リモート学習」を取り入れることはもはや必然になってくるかと思いますが、この変化についてどのようにお考えになられますか。

伊沢:多くの専門家が長期化を予想していますし、 少なくともコロナ禍の爪痕は長く残るでしょう。リモートで受けられる教育や、それに合わせた教授法、課題などを早期に整備することができれば、現状のデメリットを緩和できたり、もしくは今までよりもよい学習のあり方が見つかるかも知れません。

 しかし、リモート学習などを公教育で採用する場合は、適切なサポートが不可欠です。デバイスも回線も、どの家庭にでもあるものではありません。家庭環境がリモート学習に適していない場合もあります。学習状態の管理面でも現状は課題が多いと思います。取り急ぎのプランBとしてリモート学習が採用されている場合もありますが、そのような、学びの周辺環境までセットで整備しない限り、長期の利用には不適だと考えています。教育格差が不要に広がってしまう可能性は、無視できぬものです。

――適切なサポートがままならない状態で「リモート学習」を実施しても、結果的に大きなほころびが出てきてしまう可能性がありますね。

伊沢:はい。学校が持つ、子供のセーフティーネットという役割も含めて 考えなければなりません。学校は勉強以外にも対人関係を学ぶ場であり、場合によっては給食によって栄養を補給できる場であり、情報を得る場であり、家庭での苦しみから逃げる場であるかも知れません。そのようなコミュニケーションが失われている現状は、リモート学習を急いで整備したところでカバー仕切れないのです。

 視野を広く持ち、ジャンルによっては付け焼き刃な対策で満足せぬことが今求められると思います。その上で、生徒を取り巻く環境全体へのサポートとセットで、漸進的に対策を進めていくことが求められるでしょう。

――子供たちが自宅で動画を見て過ごす時間が増えた今、YouTuberの存在も重要になってくると考えますが、どのようにお考えでしょうか。

伊沢:YouTubeのチャンネル数は近年爆発的に伸びており、その中には教育コンテンツを扱うものも存在します。むしろ、既存の教育分野にいた、肩書やバックグラウンドを持っている方の参入が増えており、学習メディアとしての役割は無視できないものになっていると言えるでしょう。

 実験動画などは特に使い勝手がよく、字幕生成機能などを使えば世界各国の科学者が行うおもしろ実験が見られます。いい意味で小回りがきくというか、「こんなにちっちゃいジャンルだけを丁寧に取り扱うのか」「こんなにハイレベルなことをやってくれるのか」など、レベル感や知りたいことに合わせた学びを得やすい、というのも、教育機関の授業などとは違った強みかと思います。

――科学実験の動画は、子供たちにも人気ですよね。このようにYouTubeで学ぶ動きは、ここ数年で一気に進んでいるように感じます。

伊沢:YouTube運営側も「学び」カテゴリを作ったり、関連動画が表示されないことでエンタメ動画に流れてしまわない「学びの再生リスト」を設けたりと、学習ツールとしての利用を推進しています。後者は現在、老舗である『とある男が授業をしてみた』チャンネルにしか実装されていないのでまだまだ発展途上なのですが、それだけYouTube内で学習コンテンツの影響力が増してきた、数が増えてきた、ということなのかと思います。

 とはいえもちろん、YouTubeで得られるのは学びの一端です。ファクトの甘いもの、事実に誤りがあるものも少なくありませんし、十分な背景に基づかない情報が多数置いてある場です。信頼に足るごく一部のチャンネル以外は、学校での学習を完全に代替できるものではなく、あくまで補助的に使ったり、興味をつなぐ、学習意欲を喚起するものとしての利用がよいでしょう。YouTubeでまず基礎的な知識を入れ、それについて確認がてら教科書で深く調べてみるとか、そういう使い方だと美しいですね。

――伊沢さんがCEOを務める「QuizKnock」でも、学びをサポートする動画をYouTubeで配信されていますね。

伊沢:我々はあくまで既存の教育機関ではないですし、「授業をする」「ものを教える」というところからは離れた活動を行っています。我々の活動はむしろ「学びを面白がる」「どこが面白いのかお伝えする」「楽しみ方を共有する」という視点に立つもので、「教える」というよりは「沿う」、一緒にエンジョイする感じです。近所にいる年上のお兄ちゃん的な。なので、もちろん学びも多少はありますけど、それ以上にQuizKnockでやる気になったり、学ぶってカッコいい! みたいな価値観を共有できたらもうそれで最高だなと思っています。

――新刊の『勉強が楽しくなっちゃう本』(朝日新聞出版)でも、イヤイヤ勉強するのではなく、「楽しいから」「自分がやりたいことを実現するため」の勉強がコンセプトになっていましたね。自然と勉強が楽しくなっちゃうための価値観が見事に誌面で表現されていました。

伊沢:ありがとうございます。結局学校で学んだこと の使いみちだったり役割だったりって、使ってみないとわかりづらいものなのかなと思うんです。しかも、使う場面が訪れづらいものも多い。いざというときにないと困るけど、その「いざ」がいつ来るかわからない、みたいな。防災グッズのような側面があるのかなと思っています。 なので「学校の勉強に意味はあるの?」みたいな議論が定期的に出てくる。だからこそ、「使える/使えない」という安いコンセプトではなく、その学び自体の面白さにフォーカスしてあげることができれば、より自主的に学びへと向かっていけるようになるのかな、と思うんですよね。

 我々は我々の活動のコンセプトを「楽しいから始まる学び」と呼んでいるんですが、QuizKnockで我々がゲラゲラ笑いながら口にしている単語に対して「なんでこいつら、ここで爆笑できるんだ?」となってもらえたら勝ちです。

 とはいえ、最近は収録自体が難しくなっているので、より直接的な学びのサポートもやろうとしています。サブチャンネルでは「#クイズノックと学ぼう」というキャンペーンを3週間やって、みんなで毎日1時間、我々と一緒に勉強しましょう、というライブ動画を出し続けました。その中で学習習慣の話とか、1時間の勉強をどうデザインしていくかとか、使えるTipsを織り交ぜながら進めています。その他にも、10時間くらいかけて曲と詞を書いた「ラップで学ぶ十字軍の歴史」の動画だったり、最近証明成功が認められた数学上の問題「ABC予想」について何が面白いのかを語る動画だったり、普段のエンタメ路線に比べると学習寄り のリリースをしています。あくまで既存教育機関との棲み分けを、というスタンスを取っていましたが、その構図自体がなくなっているので、「知ること」の機会を増やそう、という狙いです。

――面白い試みですね。年上のお兄さんたちから「知ること」をYouTube動画で吸収できるコンテンツは、今まさに求められていると感じます。ポスト・コロナには、勉強の見方、学習方法、教育システム自体に大きな変化が現れそうですね。

伊沢:こればかりはCOVID−19がどのように展開していくか、そしてそれをどのような施策で迎え撃つのか……という外部要因に依存するので、一概に語ることはできません。事の大小はあれど、学事歴や入試諸制度をはじめとして教育のシステムには変化が起こるだろうし、余波は年度をまたぐと思います。

 しかし、「知ること」と「知ったことの反復」を両立させる、という学びの本質は変化していません。むしろ、それを適切に捉え、目的を見失わず、手段を巧みに変容させることが求められていると思います。 手段もしくは目的と、それを達成するための選択肢でしかない手段を取り違えないことですね。リモート学習やYouTubeも含めて、この期間に知名度が上がった学習方法、メディアも少なからずあり、それゆえに「知っている選択肢が増えた」ということもあるかも知れません。逆に、勉強の進め方や自己管理などは、学校や塾などの停止に伴い情報を得づらくなったでしょう。情報を得て、それらを自分の現状を踏まえて取捨選択し、甘やかさず無理せず自己管理する。より学びの本質を捉えた人が有利に事を進めるでしょう。その点は変化ですね。

 選択肢には変容があれど、何が学びにとって大事 か、何が学びであるかは変化しません。今得られない情報について考えすぎるのはやめ、現状の自分を客観視するところから色々なことがスタートすると思います。

伊沢拓司(いざわ・たくし)
日本のクイズプレーヤー&YouTuber。1994年5月16日、埼玉県出身。開成中学・高校、東京大学経済学部を卒業、東京大学農学部大学院中退。在学中は、東京大学クイズ研究会(TQC)に在籍。「全国高等学校クイズ選手権」第30回(2010年)、第31回(2011年)で、個人としては史上初の2連覇を達成。TBSのクイズ番組「東大王」「グッとラック!」(共にTBS系)にレギュラー出演中。2016年には、エンタメと知を融合させたメディア「QuizKnock」を立ち上げ、CEOを務めている。